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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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私が臨時教師をする予定である学院の長、ワイスワンがこの場を去ったわけだが、今回の催しの際に集まった騎士達もその一部始終を当然目撃している。


ワイスワンの顔が騎士達にも知れ渡っていたからか、あまり驚いた様子は無かった。

だが、それはそれとして突然現場に現れて私に直接指名依頼を望み更にはその場で受注手続きまでしてしまったことに、いまいち理解が追い付いていないように見える。


「相変わらず嵐のような御仁だな…」

「ノア殿を学院の臨時教師に、か…。良い案だとは思うが…やはり、独断なのだろうなぁ…」

「あの御仁が独断で行動することなど、今に始まったことでも無かろう」

「マコト殿では無いが、あの方にはもう少し落ち着きというものを持ってもらいたいものだな…」

「分からんでも無いが、今更だな…。それに、最低限の良識はある御仁だ。此度の件も、そう大きな問題にならぬと判断してのことであろう…」


ようやく状況を飲み込めてきた騎士達が、思い思いの言葉を口にしている。

どうやら、ワイスワンは普段からあんな感じで独断で行動する人物のようだ。

影響が少ないとは言え、少なからず迷惑を掛けていそうだし、少なくとも今はああいった行動を控えることにしよう。


尚、騎士達は私が学院の臨時教師になることには特に文句はないらしい。

まぁ、それを認めさせるための親善試合でもあったのだから、むしろ文句を言われてしまったら困るのだが。



今回の催し、最終的にワイスワンの乱入があったものの大した騒ぎにはならず、このまま一同解散となった。

と言っても、ミハイルが個別に各騎士団長に話しかけ、後日私達の計画について話をするための時間を儲けようとはしているようだが。

あっ、ナウシス騎士団長が嘲りを含んだ表情でミハイルをないがしろにしている。やはりマコトが言った通り、彼はミハイルの誘いを断ったようだ。

この後、ヘシュトナー侯爵に今回の親善試合の報告でもしに行くのだろう。


さて、それなら私も次の行動を起こすとしようか。約束をした手前、あまり待たせるものでは無いからな。

モスダン公爵の孫娘。エリザベートが魔法を使用できるようにするのだ。



場所は変わってモスダン邸。

あの時の密談の時から幻を1体、無色透明の状態にして待機させているのだが、その幻と私の位置を『入れ替え』るとしよう。

とは言え、モスダン公爵ならば私の正体を見抜ける可能性が極めて高い。

大きなショックを与えないためにも、『入れ替え』る前に一度、公爵には事前通達をしておこう。


ちなみに、各騎士団長に私達の計画を教えるという旨はモスダン公爵にもマコトと相談中に確認を取っており、彼も了承してくれている。


「公爵、ちょっといいかな?」

「どうした」

「そろそろ以前交わした約束を果たそうと思ってね。まずは、貴方の魔法を解析させてもらって良いかな?」

「そうか。良かろう。で、儂は何をすればいい」

「その前に1つ注意を。流石にこの状態で解析をするのは手間が掛かるから、本物とコレを『入れ替え』るよ。当然だけど、今度はちゃんと私の気配を感じられるわけだけど、グリューナやマーグが一目見て畏まってしまうような気配を持っていることだけは、知っておいてほしくてね」

「そうか…。貴公…いや、何でもない。…覚悟はできている」


モスダン公爵からの確認も取ったことだし、幻と私の位置を『入れ替え』よう。


「それじゃ…改めて、初めましてになるね。私がノア。よろしく」

「こっ、これは…っ!?き、貴公…っ!何が竜人《ドラグナム》か…っ!よくもぬけぬけと人間のフリを…っ!」


本体と幻を『入れ替え』た直後、モスダン公爵の表情が驚愕に染まる。

やはり、彼は一目見て私がドラゴンであることを見抜いたようだ。


大丈夫だとは思うが、一応、警告はしておこう。


「その話は今は置いておこうか。それと、その情報は公言しないことをお勧めするよ。その場合、その時点で私はこの国に敵対行動をとりかねない。いずれ私のことは世界中に公表するから、その時までは黙っていてくれると嬉しいな」

「っ!?き、貴公は一体、何者なのだ…」

「その答えはまたいずれ。実を言うと、私も自分が何者なのかは正確には分かっていないんだ。それよりも公爵。そろそろ魔法の解析をさせてもらうよ?少し顔に触らせてもらうね?」

「う、うむ…。分かった…」


了承を得たのでモスダン公爵の顔、両目を覆うように軽く触れる。

その状態から『解析』と『理解』の意思を込めた魔力を全身に行き渡らせる。


エルガード=モスダンという、1人の人間を構築する情報が余すことなく私に流れ込んでくる。

非常に膨大な情報量だ。並みの人間では、到底処理しきれるような情報量では無いだろう。


人間に限らず、生物は親の肉体を構築する情報をある程度引き継いで産まれてくる。その際、親の持つ特徴を持たないまま産まれてくる子も存在するが、情報自体はしっかりと保有されているのだ。

だから、親の特徴が現れなかった子供が更に子供を産んだ場合、その子供、つまり孫に相当する者には祖父母の特徴が現れうる事例も確認されている。

魔法の情報も同じである。モスダンの魔法とやらが親から子へとこれまで伝わり続けてきているのなら、エリザベートにも当然魔法の情報がある筈だ。

魔法を使えるようにするには、その情報を見つけて顕現させてやれば良い。


尤も、顕現させてやれば良いとは言ったが、普通はそんな手段は存在しない。それができれば苦労はしないからな。


だから、私はエリザベートに対して魔法を行使するつもりである。


モスダン公爵には悪いが、方法を教える必要も無いし、処置を施す際には離れてもらい、私が何をしているか確認できないようにする。


モスダン公爵には既に私が人外であることがバレてしまっているが、それでも情報はなるべく与えない方が良いだろう。

彼が余計な不安を抱える必要など無いのだ。


…良し。モスダンの魔法の情報は確認できた。


後はエリザベートにも同様に『解析』と『理解』の魔力を流し、彼女の情報を解析、モスダンの魔法の情報を見つけて私の魔法によって顕現させてやれば、エリザベートにもモスダンの魔法が使用できるようになる筈だ。


「解析が終わったよ。早速エリザベートにも魔法が使えるようにしようと思うのだけど、彼女の元まで案内してもらえるかな?」

「エリザが体調を崩すような事は無いだろうな?」

「勿論。仮にそうなるのだとしても、私がいる。体調を崩そうが病に陥ろうが、瞬く間に全快にして見せるとも」

「病だとっ!?」

「モスダン公爵、落ち着いて。あくまでものの例えだから。実際には先ほどの様に目の部分に手を当てられたと思ったら、いつの間にか今までよりも色々なものが『視える』ようになっている状態になるだけだと思うから」

「……頼むぞ…」


信用が無いな。

いやまぁ、これまでモスダン公爵には私が規格外の力を持っていることを教えていたからとは言え、彼に対しては少々ふざけた態度を取り過ぎていた気がしないでもない。

最初は敵だと思っていたのだから、その辺りは勘弁してほしいところである。


まぁ、モスダン公爵からの信頼はこれから得ていくことにしよう。



モスダン公爵に続いて廊下を歩いていると、非常に小柄な、身長110センチほどの小さな少女が駆けつけてきた。彼女がエリザベートで間違いないだろう。年齢は4、5歳と言ったところか。


「おじいさまーっ!きょうはもうおしごとおわりーっ!?」

「おおぅ、エリザ。ヨシヨシ、良い子だねぇ。ごめんなぁ。今日はもう少しお仕事があるんだ。だが、エリザを寂しくさせないために、今日はエリザにお客さんを連れて来たぞぉ?」

「おきゃくさんっ!?やったーっ!だれーっ!?」


なるほど。これがジジ馬鹿と言うヤツか。私の知る二面性のあるどの人物ともまるで違うタイプの豹変っぷりだな。


これはマコトがからかうのも無理はないだろう。

さっきまでの凛々しさと厳しさを兼ね備えた威厳のある表情は、何処に行ってしまったというのだ。今のモスダン公爵は表情がにやけ切っていて、とてもだらしがなくなっている。

見る人が見たら別人だと思うんじゃないか?


それだけ孫娘、エリザベートが大切で愛おしいのだろうな。

まぁ、それにしたっても普段の状態からここまで豹変したら、他の家の者達が困惑すると思うのだが。


エリザベートについて来た侍女の表情に変化はない。これがモスダン家のいつもの光景、ということか。

侍女からは困惑どころか呆れの感情すらも感じ取れる。


主に対して、その感情は大丈夫なのか?あっ、駄目だコレ、モスダン公爵はエリザベートに夢中で呆れの感情を向けられていることに全く気付いていない。

モスダンの魔法はそういった感情なども察知できてしまう魔法だと言うのに、まるで効果を発揮していないのだ。


エリザベートが私に気付いて目を輝かせた。その視線は私の後方。尻尾に目が言っている。


「おねえさんがおきゃくさん?おっきいしっぽーっ!キラキラしててキレーっ!ねぇ!さわってもいーいっ!?」

「いいよ。私はノア。よろしくね」


イスティエスタの、というか、これまで関わって来た子供達は皆、私の大きな尻尾に興味が行くようだ。

まぁ、エリザベートが言うように私の尻尾の鱗は珍しい光沢をっ放っているからな。珍しいのだろう。


屈んで目線を合わせて挨拶をした後、尻尾をエリザベートの前に出す。私からは触れずに、だ。

多分だが、私の方からエリザベートに尻尾で触れた場合、モスダン公爵が後で抗議してきそうだったからだ。


「あっ!はじめまして、わたくし、えりざべーと、もすだんです!よろしくおねがいします!」

「名前を教えてくれてありがとう。元気よく挨拶が出来て偉いね。好きなだけ尻尾に触って良いよ」

「やったーっ!!あっ!ありがとうございます!さわらせてもらいます!」


元気よく、噛まずに挨拶ができたことを褒めて尻尾を触ることを了承すれば、喜んだ後にお礼を言うことも忘れなかったようだ。

教育の賜物なのだろうか?とても礼儀正しい子だ。


エリザベートは両手で抱きつくように私の尻尾に触れ、頬擦りまでしてその感触を確かめている。


「ひんやりしてるけどスベスベーっ!きもちいいーっ!」

「良かったねぇ、エリザ。その人としばらく遊んでもらうと良い。その間におじいちゃんは仕事を終わらせてくるからねぇ」


流石にじっとりとモスダン公爵を見つめてしまったのは許して欲しい。確かに会わせて欲しいとは言ったが、他人任せが過ぎないか?

まぁ、考えようによっては悪くないか。自然な流れでモスダン公爵と別れられたし、エリザベートが遊び疲れて眠ってくれれば、彼女が眠っている間に処置が施せる。


そう思ったところでふと気が付いた。

私もモスダン公爵も、エリザベートの意思を考えずに話を進めてしまっているが、それはどうなんだ?

ひょっとしたら、本人は魔法の力を望んでいないかもしれない。

だと言うのに私達の都合で彼女に魔法の力を与えたら、それは少々どころではなく非道な話だと思うのだ。ここはモスダン公爵に確認だな。


〈この音は、『通話』か?何だ?エリザの前では話せないことか?〉

〈そうだね。モスダン公爵、私達は肝心なことを確認していなかった。エリザベートは魔法のことを理解しているのかな?いくら4、5歳ほどの幼児だとしても、本人の意思に関係なく、こちらの都合で魔法の力を押し付けるように与えるのは、下劣な行為だと思うんだ〉

〈むっ…!?ぬぅ…。確かに…。ぬかったわ…。儂ともあろう者が、家の存続に執着するあまり、エリザの思いを蔑ろにしてしまったとは…。何たる失態…!〉


モスダン公爵も頭から抜けていたらしい。気付けなかったことをこれでもかというほどに悔いている。

表情は変わっていなくとも、雰囲気は変わる。彼の変化にエリザベートは気付いたようだ。公爵の元まで駆け寄り、首を傾げて訊ねだした。


「おじいさま、どうしたのー?おなかいたいー?」


モスダン公爵の変化を察して体調を伺ってくるあたり、エリザベートは優しい娘のようだ。彼女がモスダンの魔法を得た後も、このまま優しい子に育ってくれれば良いのだが…。


モスダンの魔法は情報を読み取ることに特化した魔法だ。姿は勿論、気配、感情、本質までも見極めることができる。


そうして彼女がモスダンの魔法で人間の邪な部分を見たとして、心を痛めないという保証はない。と言うか、十中八九心を痛める。


そうなった時、彼女が今の素直で礼儀正しく優しい子でいられるかどうかが心配と言えば心配である。


約束をした手前、エリザベートが望めば処置を施す。

だが、私個人としては心を痛めてしまうのであれば、無理をして魔法を得る必要もないような気がしてしまう。


「だ、大丈夫だよぉー。おじいちゃん、元気ですよぉー。エリザ、おじいちゃんはね、エリザに聞きたいことがあるんだ」

「なぁに?」

「エリザは、おじいちゃんが色々なものが見える力を持っていることは、知っているかな?」

「うんっ!こわいものやあぶないものもわかるから、そのちからでみんなをたすけてるんだっておかあさまからおそわったよっ!」


エリザベートの母親から、か。そう言えば彼女の母親の話は聞かないが、存命しているのだろうか?

存命していたとして、粗雑に扱われていないだろうか?

まぁ、エリザベートの反応を見る限り、嫁入りしてきた人物とは言え、丁重な扱いをしているとは思うが。


〈しているに決まっているだろうが。エルマン亡き今、エリザの最も大きな心の支えがエリザベスなのだ。貴公、儂を何だと思っているのだ〉

〈ああ、済まない。今までエルマンの嫁、エリザベートの母親の話が出ていなかったからね。エリザベートに両親がいないこともまた、公爵がエリザベートを溺愛する理由かと思ったんだ〉

〈儂は、エリザがこの世に産まれて来てくれてから、エリザに対する態度を一度たりとも変えてはおらんっ!〉


それはそれでどうなんだ?何時かは子離れもとい、孫離れする必要があると思うのだが、このままだとエリザベートの婿はとても苦労しそうだな。


「エリザや。エリザは、おじいちゃんのような力は欲しいかの?」

「わたし、おじいさまみたく、いろいろなものがみれるようになるの?」


エリザベートの質問に対して、モスダン公爵が此方に確認を取るように視線を送って来た。

ここは力強く頷いておこう。私には分かる。私ならば、問題無くエリザベートがモスダンの魔法が使えるようにできると。


「うむ。なれるぞ。だが、視えるものは良いものばかりではない。怖いものや汚いものも視えるようになる。それでもエリザは、視えるようになりたいかの?」


意外だな。そこまで説明するとは思っていなかった。

後になって見たく無い物を強制的に見せられるようにされてしまい、恨みを買うことを避けるためかな?

良いと思う。何より、説明すべきことをしっかりと説明せずに事を運ぶのは不義理に当たるだろうからな。


さて、エリザベートの反応はどうだ?


「なりたいっ!おかあさま、おじいさまがとってもりっぱなひとだっていってたのっ!わたしも、おじいさまのようなりっぱなひとになりたいっ!」


おー。流石は子供の純粋な言葉。

モスダン公爵が感激して、今にも泣きだしそうな顔をしてしまっている。

本当に、私とマコトや貴族達と話をしていた時の厳しくも凛々しい顔は何処へ行ってしまったのやら。


〈公爵、ハンカチいる?〉

〈いらぬ気遣いだ。後を頼む。儂は執務室へと戻る〉

〈防音魔術を施してあるから、存分に泣いて来るといいよ〉

〈気遣いはいらぬと言っとろうに…。だが、感謝はしておく〉


こういうことを予測していたわけでは無いが、機密を保持するために彼の部屋には防音魔術を施していたのだ。盛大に泣きはらして来ると良いさ。

次にエリザベートに会った時には、再び感動して盛大に号泣してしまうかもしれないが。


「ではね、エリザ。おじいちゃんは残りのお仕事を終わらせてくるね」

「いってらっしゃい!おじいさま!」


だらしのない笑顔のままモスダン公爵が執務室へと戻って行く。

私がこの屋敷に幻を送った時からこの屋敷の半径1Kmまでの距離を『広域探知《ウィディアサーチェクション》』で常時監視しているのだが、驚いたことにエリザベートに背を向けた瞬間、モスダン公爵は普段の表情に戻ってしまったのである。まさにジジ馬鹿だな。


「さて、エリザベート。遊ぶと言っても、何をして遊ぼうか?」

「おにわにいきましょうっ!おかあさまもいるのっ!それと、のあおねーさん、わたしのこと、おじいさまみたくエリザってよんでほしいのっ!」

「分かったよ、エリザ。それじゃあ、庭まで案内してくれるかな?そうだ、私の尻尾に乗ってみる?」


『広域探知』によって屋敷の全容は既に把握済みではあるが、私は初対面の客人だ。いきなり庭まで迷わず歩いて行けば不審がられてしまうだろう。

尻尾に乗ってみることを提案したら、エリザベートはとても目を輝かせて喜んだ。


「いいのっ!?しっぽ、のってもいいのっ!?」

「いいよ。エリザは高い場所は平気かな?平気なら、エリザを尻尾に乗せて高い場所に持ち上げるよ?」

「すごいすごいっ!のりたいっ!たかいところだいじょうぶだから、しっぽにのりたいっ!」


場所を問わず、子供には尻尾で高い場所に持ち上げるのは好評だったからな。喜ばれるかと思って提案したのだが、予想以上の食いつきだ。

エリザは私の尻尾、尻尾カバーの先端付近にまたがると、尻尾カバーに抱きついて自分の体を固定した。


それでは早速エリザを持ち上げるとしよう。高さは私の頭よりもさらに上。高さ2mの位置である。


「わぁーい!たかぁーい!すごぉーい!のあおねーさん!しゅっぱぁーつ!」

「ああ、それじゃあ庭まで行くとしようか」


エリザベートの合図とともに庭まで移動する。さて、遊ぶと言っても、何をして遊ぼうか…。




時刻は午前14時。エリザははしゃぎつかれて母親であるエリザベスの膝を枕にして眠っている。


「ノア様。御義父様の無理を聞いてくださって、ありがとう御座います。立派な方なのは間違いないのですが、エリザのこととなると、とても見境が亡くなってしまう方で…」


エリザベスもまた、他者を気遣う事の出来る優しい人物のようだ。

竜人とは言え侯爵家の人間ならば”上級《ベテラン》”冒険者相手にここまで畏まる必要は無いと言うのに、彼女はとても丁寧な対応をしてくれている。


「いいよ。そもそも、これはモスダン公爵の願いではあるけど、私が持ちかけた話でもあるからね」

「どういう、ことでしょう?」

「エリザに、触れさせてもらうよ?これは、公爵にも、エリザにも了承を取ったことだ」

「は、はぁ…」


モスダン公爵にしたように、エリザベートの両目を覆うようにして右手で触れ、この子の体に『解析』と『理解』の意思を込めた魔力を流していく。


見つけた。エリザベートにも、間違いなくモスダンの魔法の情報を確認できた。後はこの情報にのみ私の魔力を浸透させて『顕現』の意思を込めればいい。

これでこの子が目を覚ました時には、モスダンの魔法が使えるようになっていることだろう。


念のため、改めて『モスダンの魔法』でエリザベートの状態を確認する。

うん。モスダンの魔法を解析したおかげかその原理を理解してしまい、私も使用可能になってしまったのだ。しかもモスダン公爵と違い、私の場合は使用と未使用の切り分けが可能である。我ながら理不尽な話である。


良し、問題無くエリザベートにもモスダンの魔法が扱えるようになっているな。処置が終わったことをモスダン公爵に伝えておこう。


〈公爵、エリザへの処置が終わったよ。今は遊び疲れて眠っているけど、目を覚ませば、しっかりと魔法が使えるようになっている筈だ。いや、今更だけど、常時発動型だから、使える、という言い方は少しおかしいかな?〉

〈っ!すぐに向かう!〉

〈あー、公爵?来るのは良いけど、目元は大丈夫?さっきまで盛大に泣いていたのだろう?赤く腫れていたりしない?〉

〈貴公が気にすることではない。で、上手くいったのか?〉

〈うん。問題無いよ。原理を解析できてしまったおかげか、私も似たようなことができるようになってしまってね。先に確認させてもらったよ〉

〈……貴公、理不尽という言葉を知っておるか?〉

〈私としてもできるとは思っていなかったんだよ。不可抗力だと思って大目に見て欲しい。私だって、自分で自分を理不尽だと思っているとも〉

〈まあ良い。貴公のおかげで、モスダンは終わる心配がなくなったのだ。そのことには、心より感謝しよう。そして、此度の貴公等の計画、改めて全面的に協力させてもらうとしようではないか〉


流石にモスダンの魔法を再現できてしまったことには苦言を言い渡されてしまったが、それよりもエリザベートが魔法を得たことの方が嬉しいようだ。

モスダン公爵から、深い感謝の感情が伝わって来た。

今後、モスダン公爵は全面的に私達に協力してくれるらしい。マコトにも報告しておこう。



その後、エリザベートが目覚めたタイミングでモスダン公爵が庭に到着し、孫娘の姿を見た途端、脇目も振らずにその場で号泣しだしてしまった。

公爵が泣き止むのに1時間以上の時間が掛かった事は、マコトには内緒にしておこう。多分、口喧嘩の際に絶対にそのことで煽ると思うから。


その後、エリザベスからも感謝され、その日は1日中エリザベートの誕生日の様なお祝いムードとなり、夕食まで御馳走になってしまった。

貴族の、それも公爵という最上位の貴族の食事なだけあって、筆舌に尽くしがたいほどに豪勢なものだった。味も勿論、絶品だったとも。


意外だったのは、エリザベートの私に対する反応だな。

モスダン公爵と同様、私がどういった存在なのかを理解したはずなのだが、とにかくとてつもなく大きな存在だと言うだけで、怖くは無かったのだそうだ。

私以外にドラゴンや竜人を知らないからだろうか?とにかく、公の場で私がドラゴンだと言われずに済んだのは僥倖だった。



その後、形式上はモスダン邸から離れ、今まで通り幻をモスダン公爵の近くに配置させておいた。

夕食は早めに取ったので、今は少し時間に余裕がある。


『広域探知』で王都全体の様子を確認する。


良し。

折角だから、もう1つ、用事を片付けてしまおう。


彼女に、”影縫い”に会いに行くとしよう。

ドラ姫様が往く!!

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