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また五分ほどが経ち、プレイルームにあったおもちゃは全て箱に戻る。片付けが終わったクラスの子達は、先生やお母さんと一緒にポツポツと部屋を出て行く。
すると凛ちゃんはガバッと起き上がり、手を伸ばせば届く距離で待っていたお母さんと私に顔を向けたかと思えば大きな目をキョロキョロとさせて俯いてしまう。
そこで私は一歩前に進み互いの手が触れる距離で、「朝の会に行こう」「お母さんと一緒」「お友達と一緒」と声をかける。
「うん」と返事をしてくれる声は穏やかで、強張っていた表情も和らいでいく。
凛ちゃんのパーソナルスペースに、私が立ち入ることを許してくれた。
普段は隣に居ても、チラリとこちらを見ては目を逸らすだけ。でもパニックを起こしている時は誰も寄せ付けず、宥めようとする声や頭を叩く手を止めようとするとより混乱し、その恐怖を和らげようと強く頭を叩き続けてしまう。
だからこそ私達は、凛ちゃんが落ち着くまで見守ることしか出来ない。
「凛、行こう」
ずっと見守ってくれていたのは、凛ちゃんのお母さん。低い視線を合わせる為に私同様にしゃがみ込み、にこやかに笑いかける。
そんな差し出された手を凛ちゃんは握り、少し遅れて隣の遊戯室へと歩いて行く。
青柳凛ちゃん、三歳六ヶ月。中度の知的障害と自閉スペクトラム症と診断を受けている。
特性としてはこだわりが強く、毎日の習慣や日常と外れたことが起こるとパニックを起してしまい、自傷や他害行為に及んでしまう。
それにより保育園でトラブルを起こし、一歳十ヶ月の時に府の発達検査を受けて遅れが顕著になる。
療育園に入園出来るのは、幼稚園と同じく年少児と呼ばれる満三歳の子供。
しかし早期療育が大切と謳われる中でそこまで待っていることもできず、ひだまり療育園では未就園児さん向けに週二で親子教室を実施している。
午前中だけの簡易なものだけど視覚支援を中心に行い、集団生活を学んでいく大切な場となる。
そこに凛ちゃんは一年通っていて、自由参加にも関わらず一度も休むことなく参加していた。
就園の年齢になり、凛ちゃんのお母さんは療育園を希望された。
当時はまだ診断が出ていなかったけど、ひだまり療育園がある区は正式な診断がなくても医師の意見書により入園出来る為、診断を待たずに療育園に来ることが出来た。
そして三歳になった頃に、医師より正式な診断が下りた。
今年の春より入園して半年。最大利用数である週三を希望され、この半年間も一回も休むことなく通っている。
凛ちゃんは小柄さんで、いつも髪を横二つ括りにしてうさぎのゴムを付けている。目がくりくりとしていて、口を結んで俯いていることが多い。恥ずかしがり屋さんな女の子だ。
凛ちゃんのお母さんはスラリとした高い背に、動きやすいTシャツとジーパンを着こなし。穏やかで優しく、綺麗な人。パニックにも動じずに落ち着いて対応していている。
ひだまり療育園は親の付き添いは自由で、預けて帰られる保護者の方も多いけど、凛ちゃんのお母さんはいつも付き添いをされている真面目な人。
子供の特性や障害を親がなかなか受け入れられず、支援が遅れてしまう。そんな難しい現状もある中、凛ちゃんのお母さんは子供に真正面から向き合っている強い人だ。