19話 憂慮ト恋慕
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的場「 少し場所を移しましょう 」
的場「 誰がどこで聞いているかは分かりませんからね 」
私「 ….はい 」
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別室
私「 神ワタリ様を知っていますか 」
的場「 えぇ ….以前、廃れた家業から依頼があり、一門が儀式を代行したので 」
私「 私が ….、 」
言葉が詰まる
言ってしまえば引き返すことはできない
私「 …. 」
私「 私が、その神ワタリ様なんです 」
的場「 ….ほぉ 」
私は一つの結びが解けると不思議なくらいに言葉が溢れた。
私「 実は…. 」
依頼で遊園地に行った日に祖母が危篤だったこと。
祖母を亡くし、孤児となって東京の施設にいたこと。
中学生の時に出会った美凰が神様だと知り、神ワタリ様へなったこと。
高校生になる節目で和田さんが里親となり、ここへ戻ってきたこと。
嘘がない様に、全てを伝えた。
彼らに知ってもらいたかったから。
ずっと誰かに打ち明けたかったから。
的場「 成程、ある程度は理解できました 」
的場「 私は友人をあまり持っていなかったので、正しい言葉かどうか分かりませんが…. 」
そう言う彼は自信のなさそうな顔を見せ、静かに私の横へ座る。
そして、私の頭を撫でた
的場「 辛かったですね、伊吹 」
私「 …. 」
的場「 この事を他に知っている人はいますか? 」
私「 いえ、誰も 」
的場「 ずっと一人で? 」
私「 ….はい 」
私はそっと顔を伏せる
彼の温かい手が、人の温もりが欠けた私の何かに触れたから。
涙が止まらなかった
私「 ….すみません 」
的場「 貴方はすぐに泣きますね、あの頃と変わらないままだ 」
私「 もう大人になりました 」
的場「 まだ16でしょう 」
私「 もう、16歳です 」
的場「 そういえば、初めて会った会合で約束しましたね 」
的場「 17歳になったら迎えに行くと 」
私「 …. 」
的場「 今からでも構いませんよ?伊吹 」
的場「 貴方のような強い力を持つ人間は使えますからね 」
私「 普通、本人の前でそれを言います?」
的場「 さぁ / クスッ 」
私「 でも、もう少し考えさせて下さい 」
私「 羽澄を知りたいんです。父がどういう人だったのか、今どこに居るのか 」
的場「 分かりました 」
的場「 そろそろ食事会場へ向かいましょうか 」
立ち上がり、部屋を出ようとする彼
私はその背中に声を出す。
私「 ….静司 」
的場「 ? 」
私「 話を聞いてくれてありがとうございました 」
的場「 ….はい 」
私「 3年間、連絡できなくてすみません 」
的場「 えぇ、とても心配しました 」
私「 ….ごめんなさい 」
的場「 私だけではありません、周一さんもですよ 」
私「 ….はい 」
私「 この儀式が終わったら会いに行くつもりです 」
的場「 今は巻き込みたくない、と?」
私「 はい 」
的場「 分かりました。今回のことは貸し一つですよ 」
私「 勿論です 」
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私「 これが、バイキングですか 」
的場「 えぇ、初めてですか?」
私「 はい….!いつかやってみたいと思っていたんです 」
的場「 へぇ、それはぜひ堪能してくださいね 」
私「 うん / ニコッ 」
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七瀬「 的場、今までどこに居たんだい?」
的場「 いえ、少し野暮用がありまして 」
七瀬「 野暮用ねぇ….、伊吹のことか 」
的場「 はい 」
七瀬「 見つかって良かったですね、ずっと探していたのでしょう 」
的場「 そうでもありません 」
七瀬「 …. 謙遜はいらないから、さっさと顔を拭きな 」
七瀬「 頭首がそんな顔をしてたら示しがつかないよ 」
的場「 …. / 涙 」
的場「 すみません、七瀬 」
七瀬「 全く、まだまだ子供だね 」
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的場「 伊吹、そろそろ部屋に戻りますよ 」
私「 あ、はい….!」
的場「 食事はどうでしたか?」
私「 とても美味しかったです 」
的場「 それは良かった 」
的場「 私はまだ仕事があるのですが、伊吹が良ければ手伝ってくれませんか?」
私「 それは、私で大丈夫なのですか….?」
的場「 えぇ。言ったでしょう?」
的場「 強い力をもつ人間は使える、と 」
私「 ….少しだけですよ / クスッ 」
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私「 呪符、ですか 」
的場「 消耗品ですからね、生産が間に合いません 」
的場「 私は弓の手入れがあるので ….それが終わるまで描いて欲しいんです 」
私「 分かりました 」
私「 …. 」
私( 一般的なモノと、多分こっちは的場一門のモノだよね )
私「 これ、私が見ていいんですか 」
的場「 ただの祓い人が見てもどうとしませんが、名取や力のある祓い人にはあまり見せません 」
的場「 まぁ、そこまで厳重に管理されている訳でもないので気にしないで下さい 」
私( つまり、私レベルの祓い人が見ても扱えないって事か…. )
的場「 貴方は使える術の数を増やした方がいいですよ 」
的場「 所謂、宝の持ち腐れです 」
私「 ….善処します 」
的場「 えぇ、期待しています 」
私「 …. 」
的場「 高校はどこへ通っているのです?」
私「 四分( よわけ )高校です 」
的場「 学友はできましたか? 」
私「 はい、今度彼と民宿へアルバイトする予定です 」
的場「 民宿….? 彼….? 」
私「 アルバイトなんて初めてなので少し緊張してます 」
的場「 それはつまり….泊まりですか?」
私「 えぇ、民泊なので 」
的場「 失礼ですが ….彼というのは恋人ですか?」
私「 私に恋人などできませんよ / クスッ 」
私「 ただの友人です 」
的場「 …. 」
私「 ? 」
的場「 そもそも、貴方にアルバイトなんて必要なんですか?」
的場「 和田が出しているのでしょう?」
私「 ….和田さんに頼りきってしまうのは違うと思うんです 」
私「 少しでも自分でお金を稼いで返していく予定なので。」
的場「 お金を稼ぐなら….、いや、何でもありません 」
私「 何です?何か当てでも….?」
的場「 貴方にこの選択肢を勧める訳にはいきません 」
私「 もったいぶってないで早く言ってください 」
的場「 ….懸賞金です 」
私「 懸賞金?」
的場「 まぁ、祓い屋関係になりますが 」
的場「 人に甚大な害を成し、これ以上野放しにできないとなった妖怪は懸賞金が掛けられるんです 」
的場「 そして、その妖怪を捕まえる事ができれば掛けられた懸賞金を得られる 」
的場「 危険ではあるが、効率のいい金儲けといったところです 」
私「 ….それはどこで知れますか?」
的場「 会合の掲示板に載っています。一門も稀にですが参加することがあるのですよ 」
私「 そうなんですね 」
的場「 ….伊吹、やはり一門に入りませんか?」
私「 だから、今は返事できないと言っているでしょう 」
私「 そんなに的場一門は人手不足なのですか / クスッ 」
的場「 頷ける内容ですが、貴方の為を思っているんです 」
私「 弱いからですか?」
的場「 ….違います 」
私「 そうでしょう。弱い人間が懸賞金に挑むなんて愚かな行為を止めたいのでは?」
的場「 私は一門でない人間にそこまで関わろうとはしません 」
私「 ….とにかく、私は大丈夫です 」
的場「 大丈夫じゃないから、3年間も離れたのでしょう 」
私「 はっきり言ってください。そんなに私が心配ですか….!? 」
言葉に熱が混ざってしまう
認められないことがこんなにも腹立たしいとは自分でも驚いている。
的場「 えぇ、心配です 」
的場「 貴方を心配して何がおかしいのです 」
私「 ….!」
的場「 私は一門へ入れば、それなりの報酬を渡すと伝えたかったんです 」
的場「 依頼先へ一緒に行けば安全ですし、女性一人で不安なら七瀬を呼びます 」
的場「 もう、貴方を一人にしません 」
私「 …. 」
的場「 伝わりましたか….? 」
何か返事をしなくてはと焦る気持ちが私の呼吸を浅くする。
どう答えたらいいのか、どう決断すればいいのかなんて ….私は知らなかった。
彼の目を見れない
静司に私はどう映っているのか。
彼からの優しい恩恵を受けるほどの器を、私は持っていない。
ただの友人というだけであって、血縁でも、名家の祓い屋でも、議員との知り合いでもない
何も持っていない私に、何故__?
私「 ….ッ 」
的場「 すみません、あまり言い方が良くなかったですね 」
的場「 深呼吸してください 」
静司は私の背中をゆっくりとさする
私「 …. 」
的場「 今日はもう休みましょう。部屋まで送ります 」
私「 同情、ですか 」
的場「 ….は?」
私「 私が家族を亡くして、可哀想だから手を貸してくれるのでしょう 」
的場「 それ、本気で言っていますか? 」
私「 ….何で、怒っているのです 」
的場「 こんなにも伝わらないと誰だって怒ります 」
私( 静司でも怒るんだ…. )
的場「 貴方は術じゃなく、先に人情を学ぶべきです 」
私「 …. / イラ 」
私「 こっちだって必死に考えて出した結果です 」
的場「 考えた結果が “ 同情 ” ですか?笑えますね 」
私「 私だってそんな結果は嫌ですよ、でも本当に分からないんです 」
的場「 ….ッ 」
的場「 好きだからですよ 」
私「 …. 」
今、彼はなんて言った….?
私「 せい…. 」
的場「 本当に、貴方は鈍感すぎる 」
的場「 言わずとも察してくれれば良かったのに 」
私「 …. 」
証明に照らされている彼の耳は珍しくも赤に染まっていた。
振り切った決断をしたかのように彼は私の目を真っ直ぐに見つめる。
的場「 貴方が好きです。伊吹 」
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コメント
1件
お久しぶり〜!! ついに、ついに告白だよ〜!! 伊吹ちゃんの鈍いところはなかなかだな〜笑