テラーノベル
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一人の生命体が、冷え切った自室でもう冷たくなってしまった缶コーヒーを両手で抱え、毛布に包まっていた。
触れるもの全てを自分で奪ってしまうような感覚に陥っていたミル・アドミラリは、ここ数年間誰にも触れられなかった。
沈黙だけが残るこの部屋でミルは、自分の心臓の鼓動だけが大きく響くような感覚だった。
そこに、一つの不協和音が流れてきた。
もう数年ほど使っていなかったインターホンだ。
ミルは重い足取りでそっちに向かい、通話ボタンを押した。
「ミル?私です。ファタです。」
『…我は今忙しい』
「そう言う時は大体暇なんですよ。
開けますね。」
きぃ、そんな音を立ててファタはこっちにやってきた。
「ほら、あなたの好きな抹茶ですよ。」
『ありがたく受け取る。』
そのままファタはずかずかとミルの部屋に乗り込んで行き、掃除を始めた。
「前よりかは綺麗なままですね。」
『黙れ』
ファタがカーテンを開けると、朝焼けの光が部屋に差し込んだ。
今までのモノクロの世界に、光が照らされた。
世界は相変わらず緩やかに崩壊してっている。
だが、今はファタの存在がこの仄暗い世界に少しだけ光を注いでいる。
我も、こんな生命体になれるだろうか。
このくそみたいな世界を救おうだなんて微塵も思わないが、この時間は永遠につづいてほしいのだ。
こいつは、他の奴らとは何か違う。
その赤茶色の髪の毛も、華奢に見えて程よく筋肉がついていることも、すべてこいつだけのもの。
『なぁ、ファタ。』
「ん?なんです?」
『願いを言っても良いか?』
「私にできることならば。」
『貴殿に…一瞬でもいいから触れたいのだ。』
「そんなことですか。いいですよ。今なら出血大サービスでハグくらいならしてあげます。」
『よいのか…?我は呪われているのだ』
「はぁ、焦ったいですねぇ。」
そう言って、何かと思ったら我の耳からファタの心地よい心臓の鼓動が大きく聞こえた。
とく、とく。
体温は生命体にしてはかなり低く、少し驚いている。
いつの間にかそんな聞き心地のよい心音に夢中になって時間があっという間に過ぎていてしまった。
「…はい。おしまいですよ。
私には生憎、男と抱き合う趣味はありませんので。」
『…感謝する。』
「てか、なんで私なんです?ラディーチェとかの方が良かったのではありません?あの子は子供体温ですし。」
『今、誰かに触れたかったのだ』
「そういうもんなんですかねぇ…」
確かに、ファタの体温は低く我の求めている温度とは程遠かった。
だが、逆にそれがなんだか心地よく感じる。
あゝ、こいつも生きているのだな、と感じるからだ。
その等身大の大きさで我に接してくれるやつはそうそういないが、こいつらはいつでも等身大で接してくれた。
それが、我の求めているものだった。
世界=虚実 了
コメント
3件
うわ、めっちゃ良かった……。ミルが“呪われてる”って自覚してて、誰にも触れられないまま閉じこもってたのに、ファタが普通にずかずか入ってきて掃除してハグまでしちゃうギャップが刺さったわ。「体温は低いけど生きてるって感じがする」ってとこ、すごく分かる。2話でここまで心持ってかれるとは思わなかった。続きが気になるー!