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すべて捏造です。
結構長いかも。こちらは前編。スクロールがんばれ!!!
inm視点
「ライ!!」
目が覚めると、そこには男性2人と女性1人がいた。目を大きくして驚いているのは、髪がふわふわで真っ白なひと。
「元気なん?」
「ご飯は!おなかは空いてない?」
質問がつぎからつぎへと流れてくる。起きた早々かけられた言葉だからやけにうるさく感じられた。実際はそうでもないと思う。オレが悪いのは百も承知の上、少しだけ怪訝な顔をした。
「げんき」
「お腹はちょっとだけ、空いてるかも」
その言葉を合図に、紫の髪のひとがビニール袋をオレの前に持ってくる。
「たこ焼き、どうです?食べられそう?」
あ、声低い。喉仏がある。この人男だったんだ。たこ焼き?見舞いに持ってくる品か?当たり前だけど、そんな気分じゃなかった。そんなことより一つだけ教えてもらいたいことがあった。
「あの、どちら、様ですか」
さっきよりもっと大げさに驚いたのは髪が白いひと。たこ焼きが入ってる袋を落としたのは紫のひと。そしてまだ一言も喋らなかった青いひとは、こちらをやっと見てオレを睨んだ。
「えっと、あ」
「ライって知ってるか?」
怯えて縮まったのがバレたのか、青い人はオレに尋ねた。らい、という言葉に聞き馴染みはあった。きっとオレの友達かこの人の名前か何かなのだろう。
「たぶん」
「自分の名前は覚えてるんだ」
オレの名前が、らい?変な違和感があり、違うと否定しようとするものの、自分の名前を思い出すことが一向に出来ない。一旦この状況を受け入れてみることにした。
「オレの名前なんだ」
「……はぁ」
横でため息をつかれて、ことの重大さに気づく。でも、病院に居るのも意味わかんないし、この3人が誰なのかもさっぱり。
「僕、カゲツって言うんよ」
「え?」
「僕の名前。カゲツ」
「カゲツ、さん」
「さん付けやめへん?」
「え」
「なんかライっぽくない。お前、そんなキャラじゃなかったぞ」
「キャラ…って」
「まあまあ、俺はショウって言います」
「ショウさん」
この人、いい人そう。あんまり咎めてこない。うんうん、と頷いて、ショウさんは青い人に顔を向けた。
「小柳くんも何か言ったらどうですか?」
「別に。言う事ない」
「こやなぎ、さん」
そう呼ぶと、不機嫌な顔をしたこやなぎさんがこちらを振り向く。
「ロウ」
「ろー?」
「まあそんな感じ。ロウって呼んで」
あ、名前だったのか。初対面なのに呼び捨てで呼んでしまったことに謝罪をしようと思ったのだが。
「僕も。呼び捨てで呼んで」
「本当に?」
「僕ら、友だちやろ?」
「一旦帰りませんか?拠点に」
きょ、拠点?なにそれ。どっかのゲームの中に入ったわけじゃあるまいし。頭の中にはてなを浮かべていると、ショウさんがふふ、と笑った。
「ヒーローですよ。忘れちゃったの?」
「……は?」
いやいや、漫画じゃあるまいし。転生したら〜みたいな、そんな話あるわけ。
「ほんとに何もかも忘れちゃったみたいやな」
忘れ…………何を?オレはただ目が覚めたら知らない人に囲まれて、ヒーローだって言われて。こっちのほうが困惑なんですけど。
「記憶喪失。逆に何覚えてんの?」
記憶喪失?オレが?その単語を聴いてやっと、現状を理解する。自分の名前すら思い出せなかった。そういうことだったのか。悪い夢だろうか。
「オレ、記憶喪失、なの?」
「だって俺らのこと覚えてないんでしょ?」
「うん。はじめまして」
「どっから覚えてないの」
「どっからって………」
機械いじりが好きなこと。21歳のまま歳を重ねないこと。大学生兼メカニックであること。でぃてぃかというグループでヒーローをやってて、ヒーローは他にもまだいること。色々質問をされたものの、何も分からず度々首を振るオレを見て、3人が笑い出す。
「なぁんで笑うんだよ!!」
「全部忘れてて草」
「お???戦うか??」
「性格は健在のようだな」
ロウが呟くと、激しく同意するように2人が頷く。
「ここで争ってても仕方ないですし。帰りましょ」
「ここ病院だよ?手続きとかあるだろうしすぐ帰れないよ」
「え?ここ病院じゃないですよ?」
「え?」
「ん?」
「はあ?」
吹き出したのはショウの方。勝った…じゃなくて。にらめっこしてるわけじゃないんだから。
「ここ、療養所。拠点のすぐそこ」
「そうなんだ」
「手続きとか要らないから。元気なんでしょ?」
元気だけれども。色々なことが進みすぎて、どこから受け入れていいか分からない。うん、とだけ返事をすると、3人が衣装チェンジをした。
「わ、かっこいー!?!!」
「こう見えてヒーローだからね」
そう言うとオレを抱えてぴゅんとひとっ飛び。立ち眩みを感じさせないまま拠点について、扉の前のライ、と書かれたプレートを見つける。
「ここ、お前の部屋な」
「え!!部屋あるの!!!」
「どうぞお好きに〜入って何か思い出すと良いね」
「うん、ありがとう」
「僕隣やから何かあったら呼んでな!!」
「わかった!!ありがと!!」
部屋に入るとそこは、本当にメカニックを実感させる部屋だった。ツンと鼻につく灯油の匂いだったり、引き出しの中にぎっしりと詰められている工具だったり。
…思い出した。ハンマー。どこにある?
身体より大きなハンマー。それは、クローゼットの中にあった。これだ。思ったより広い部屋の中で、ハンマーをズルズルと引きずる。重たい。これが武器だよな?重すぎないか?
「失礼します〜」
そう言ってオレの部屋に入ってきたのは、口の中に何かものをいれてもぐもぐしているカゲツ。たこ焼きを片手に持っているので多分たこ焼き。こいつらたこ焼き好きすぎだろ。そんなカゲツはオレを見て、目を丸くする。
「うわ、久しぶりに見た。それ」
「え?久しぶりなんだ」
「丸1週間くらい寝てたからね」
「そうなの」
「そうよ」
カゲツは扉を音がなるまで閉めて、ギリギリ聞こえる小さな声で言った。
「せっかくだから、タイマンせん?」
「は?」
「僕、伊波と戦いたいんよ」
「い、なみ?」
敵のボス的な存在か?まるで戦ったことがないような言い方だった。
「あ、ライの苗字ね」
あまりにもさらっと言うもんだから聞き逃すところだった。オレの苗字、いなみ、なんだ。いなみらい。いい名前かも。
「お、オレと戦うの?」
「おん」
「いや、まだヒーローってことに納得すらしてないんだけど」
「いいから。行こ」
片手でオレの腕をぎゅっと掴み、俊足で練習場のような場所に来た。オレはハンマーを両手で掴んでも重かったのに。カゲツはオレとハンマーを、空気くらいの感覚で運んだのだろうか。
「ほんとは許可とらんといかんけど」
「え?」
「まあいいやろ。予定には誰も使わんって書いてあったし」
「大丈夫なのそれ」
「何かあったら全部僕の責任で」
「じゃあ大丈夫だ」
「おい」
あはは、と笑うと、カゲツが懐かしむような顔をした。
「記憶、取り戻していこうな」
「何、急に」
「べつに」
大袈裟だなあ、と思った。1年とかだったらまだ分かるけど、たった1週間じゃん。懐かしいも何もないでしょ。
「……ハンマー持てるようになった?」
「まだ、どうやったら軽くなるの?これ」
「さあ。1週間前のライに聞いてや」
「これか?ちがうかぁ…」
試行錯誤するものの、全く上手くいかない。そんなオレの様子を見て、カゲツがまた小さな声で言った。
「毎日1時間位、せん?」
「これ?」
「うん。早く伊波と対戦したいし、ハンマー持てるようにならんとヒーローできないし」
「わかった。オレも早くヒーローしたい」
俺らは小指を交えて、指切りげんまんをした。
明日からカゲツと毎日ヒーロー特訓。オレも3人みたいにかっこいいヒーローになれる?ほんとに出来るか不安だけど、ちょっと楽しみかも。