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こちら後編です。見てない方は是非前編を!!
⚠少しだけ流血表現があります
inm視点
目が覚めてカレンダーを見て、思わず笑みが溢れる。カゲツと毎日練習をして、1年が経ったのだ。記憶喪失を取り戻すこの1年は、本当に早かった。
あれは、カゲツとの練習を始めて1週間ぐらい経った頃。やっとハンマーが振れるようになって。構造を学ぶのが楽しくて、メカニックが板につくまでも早かった方だと思う。
「お前、もう何か作ってんの?」
「調べたら面白そうで…つい」
「すげえな。メカニックだ」
「でしょー?オレやっぱメカニックだったみたい」
「はい。これ差し入れ」
「やった!!いいの?」
「ただし!俺に1個譲ること」
袋を覗くと、たこ焼きだった。なんでこの人たち、こんなにたこ焼き好きなの?まあ美味しいからいいんだけど。
1ヶ月経った頃に、初めてヒーローをした。それまでずっと拠点からの応援しかさせてもらえなかったけれど、やっと戦えて。あのときに救ってあげた人たちの笑顔が今でも忘れられない。初めて市民にヒーローと呼ばれたこと、ありがとうと言ってもらえたこと。あぁ、これがオレの求めていた職なんだ、って思った。そこでヒーロー認定証をもらって、皆の本名も知った。カゲツは叢雲、ショウは星導、ロウは小柳と言うらしい。
2ヶ月経って、初めてるべが記憶喪失であることを知った。「ショウ」という呼び方が納得いかなくて、「るべ」にしたのはいつだったか忘れた。
「実は俺も、記憶喪失なんですよ」
「そうなの!一緒じゃん」
「そう。ライの気持ち分かるかも」
「えー!!やったやった」
だから最初オレが目覚めたとき、ちょっと落ち着いていたのか。1人だけ対応が冷静だった理由を知った。
そのちょっと後くらいに、他のヒーローを紹介された。おりえんす、という東の組織だ。最初会ったときは皆悲しそうな顔をしていたけれど、事前に知った情報をもとに、イッテツ、ウェン、マナ、リト、と呼ぶと、顔を明るくしてライと呼んでくれた。記憶はないけど、この人たちとならやっていけると思った。賑やかで楽しい。
半年くらいの頃、誰の提案か忘れたがタコパをした。具が入っていないたこ焼き、チョコが入ったたこ焼き、トマトが入ったたこ焼き。ガチで不味かったけど、ガチで楽しかった。その後食べた市販のたこ焼きが、どれだけ美味しかったことか。
記憶喪失、最初はどうなることかと思った。うまくいかないことも実際にあった。皆がしっかり支えてくれたから、オレはここまで成長した。記憶を取り戻せてるかは分からないけれど、新たな人生を歩いている気分。ふふ、と声を漏らす。今日はちょうど1年。今日の仕事は…
ー緊急事態発生。ヒーローは直ちに出動せよー
…どうやらヒーロー活動のようだ。
『みんな、準備OK?』
「もちろん」
そう言ってクローゼットからハンマーを取り出し、冷凍されたたこ焼きを1つだけ電子レンジで解凍して口に放り込む。
ヒーローの仕事が日に日に楽しくなっていた。上手くいったらとても褒められるし、上手くいかなくてもその課題点を見つけ、皆と強くなっていくのはこの上ない喜びだった。
合流した時には、もう7人がいた。今の戦況を把握して、小さな敵を倒すことを選択する。大きな敵は今、オリエンスが対応してくれている。あそこに突っ込むのは良くないと判断した。
「ナイス判断、ライ」
「ありがと。もうヒーローして1年経ったんでね」
「さすが。もう慣れちゃったか」
「うん。だいぶね」
ディティカで合流して小さな敵を少しずつ減らしていた。途端、鋭い声がオレの耳を劈いた。
「ライ!!!!!」
ぐっと衝撃があり、オレは床に倒れざるを得なかった。頭が痛い。視界がぼやけている。頭を抑えた手を見ると手が赤かったので、血がついているのだろう。敵の攻撃、受けちゃったか?多分、視界に白と紫と青。ディティカがオレのところに駆け寄ってきているのか?もう考えることすらままならない。
「また、なの?」
誰かが呟いたその一言だけはっきりと聞こえた。また、って何?これ、1回経験したことあるの?
目が覚めると、そこには男性2人と女性1人がいた。目を大きくして驚いているのは、髪がふわふわで真っ白なひと。
たくさん質問されたが、一つだけ教えてもらいたいことがあった。
「あの、どちら、様ですか」
3人が目を丸くするが、オレはその答えを聞くよりも、紫の人のビニール袋に夢中だった。何故だか分からないけれど、その中のたこ焼きがとても美味しそうに見えたのだ。