昼下がりの陽が、木々の隙間から差し込んでいた。
リナに誘われて、村の外れにあるという広場まで歩いてきた俺は、少しだけ場違いな気分になっていた。
「ほら、こっちだよ! すっごく気持ちいいんだから!」
リナは先を歩きながら、くるっと振り返って笑った。
風に揺れる髪と、無邪気な笑顔。眩しすぎて、目を細める。
「……お前、俺のこと全然疑わないんだな」
なんとなくそう言うと、リナは足を止めて首をかしげた。
「なんで疑わなきゃいけないの?」
「こんな、変な見た目のやつが突然現れても?」
「うん。だって、夢希くんは悪い人に見えないもん」
……ずいぶん素直すぎる理由だった。
広場には、数人の子どもたちが遊んでいた。
リナは「ちょっと行ってくる!」と言って、彼らに混ざって駆けていった。
俺は、少し離れた木の陰に腰を下ろして、ただその光景を見ていた。
――知らない世界、知らない時代。
けれど、子どもたちの笑い声だけは、3000万年前と変わらない。
「……俺には関係ないと思ってたんだけどな」
思わず口に出して、苦笑した。
何が、とは言えない。ただ、あの笑顔に触れるたび、心のどこかが少しずつ温かくなるのを感じる。
「なあ、お兄さん、誰?」
声をかけられて顔を上げると、小さな男の子が立っていた。
「夢希だよ。ちょっとこの村に寄ってるだけ」
「ふーん。リナの知り合い?」
「ああ。まあ、そんな感じ」
男の子はじっと俺の顔を見て、なぜか笑った。
「なんか変だけど、悪い人じゃなさそうだね。バイバーイ!」
そう言って、笑いながら走り去っていった。
――ここは、俺がいた世界よりずっと素直な場所だ。
夕方、遊び疲れたリナが隣に座ってきた。
「ねえ、夢希くん。あのね、将来、行ってみたい場所があるんだ」
「どこだ?」
「すっごく古い、誰も知らないような遺跡。そこに行って、昔のことを知りたいの」
「なんでまた?」
「うーん……ただ、何も知らずに終わるのが、なんかイヤで」
リナの目は、真剣だった。
俺は一瞬だけ、自分が目覚めたあの遺跡を思い出した。
誰にも知られず、忘れられ、ただ朽ちていくのを待っていた――そんな場所。
「……お前、変わってるな」
「そうかな。でも、夢希くんはもっと変わってるよ?」
「それは否定しない」
空がゆっくり茜色に染まっていく。
俺はその色を、どこか懐かしく感じていた。