コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
リナの家に、居候することになったのは――正直、予定外だった。
「このまま野宿させるのもかわいそうだしって、母さんが!」
そう言って笑う彼女を見て、断る理由を探す気力も失せた。
結局、屋根のある暮らしに落ち着いた俺は、今日も村の片隅を歩いている。
「……変なもんだな」
木の実を拾って遊ぶ子どもたちの声を聞きながら、ポツリとつぶやいた。
3000万年の空白を経て、目にする光景がこれだとは思ってもいなかった。
人はまだ、こんなにも“普通”に生きている。
「おーい! 夢希くん!」
振り返ると、リナが駆けてくる。両手にパンを抱えていた。
「ちょっとお昼、早いけど一緒に食べよ!」
「……朝飯食ったばかりなんだけど」
「いいじゃん、時間とか気にしない!」
そう言って、俺の隣に腰を下ろし、パンを一つ差し出してくる。
「なあ、リナ」
「ん?」
「お前、ほんとに“世界の果て”とか行きたいのか?」
彼女はパンをかじりながら、少しだけ考えるような顔をした。
「うん。やっぱり、行ってみたいな。知らないものを見て、知りたい。昔のことも、人のことも」
「そんなに知ってどうするんだよ」
「うーん…… “知る”って、大事じゃない? 知らないままって、もったいないよ。だって、それだけで“出会わないまま”になっちゃうから」
その言葉に、ふっと心がざわついた。
3000万年――俺は、世界から切り離されていた。
出会わなかった。誰とも、何とも。
「夢希くんは…… “戻りたい”って思う?」
唐突な問いに、思わずパンを噛む手が止まった。
「戻るって……どこに?」
「昔、自分がいた場所とか……時代とか」
俺は答えに詰まった。
戻れるなら――戻るべきなのか?
けど、俺がいた時代に、もう“誰か”がいるとは思えない。
それに、あの世界に戻ったところで、俺は何をすればいい?
「……戻る理由が、ない」
「そっか」
リナはそう言って、にこっと笑った。
「じゃあ、これから一緒に理由を見つけに行こうよ」
「勝手に決めるな」
「ふふ、勝手じゃないよ。だって――夢希くん、寂しそうな顔してたから」
俺は、なにも言い返せなかった。
パンはもう、とっくに冷えていたけど、口の中にはほんのりと温かみが残っていた。