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心中。そんな言葉御伽話だと思っていた。心の底から愛する相手も、この環境から抜け出したいとも思ったことがなかったから。
高2の春、一目惚れをした。透き通る肌にふわふわの白髪。澄んだ茶色の瞳。整っているあまり笑わない顔。酷く惹かれた。
定期的に話しかけた。どこに住んでいるのか、どのゲームが好きなのか。朝は何を食べるのか、親の職業、生い立ち。凪を喜ばせるようなことをして友達にでもなろうと思った。でも足りない。特別な関係になりたい。
「なあ凪、お前好きなやつとかいねーの?」
「え?いないよ、めんどくさいし、」
「うわー。言いそう。俺なら一流アイドルとか紹介できるんだぞ」
「えー、オタクめんどくさそう、いいよレオがいればそれで。」
心が跳ねた。俺を求めてくれている。嬉しい、すごく嬉しくて自然とニヤける顔を抑えた。
「何だソレ、やっぱ変なヤツだな」
「俺と仲良くするレオのが変なのだよ」
「はー??完璧御曹司ルートだわ!!」
「これで俺もお金持ち」
「何楽して稼ごうとしてんだよ」
見ての通り、満喫している。否、していた。のほうが正しいのかもしれない。何故か親父に呼ばれて部屋に来てみたら婚約者を見つけた?結婚?意味がわからなかった。
お相手は父がよく取引している社長の娘さんだった。容姿端麗、頭脳明晰。誰もが羨ましがる人材だろう。だが俺は違う。どうしても、納得がいかなかった。俺はいつまでこの人たちの支配下に置かれないといけないんだ。意を決して凪に相談してみた。
「なら逃げちゃえば?」
「は?」
予想外の言葉に拍子抜けした。逃げる?そんなこと俺には・・・
「俺と一緒に。逃げようよレオ。」
「は。」
本日2度目の気の抜けた声。なぜ、なぜそこまでして凪は俺と逃げたがるんだ?意味がわからなかった。
「・・・あ。順番間違えた。俺、レオのこと好きなんだよね。だから知らない女の子と結婚されたら嫌だなーって。」
「いや、は、え?」
「びっくりするの?レオって俺のこと好きで仲良くしてるんじゃなかったんだ。」
「いやいやいや!!!好きに決まってんだろ!!最初っから好きだったよ!!」
「でしょ?俺のあたり。だからさ、俺と逃げてバレたら 心中 しようよ。」
心中。ずっと昔にニュースで聞いたことがある。若い女が男と心中したと。遺書には結婚を認められなかったことやら、二人の愛は確かだった。到底、俺には縁がないと思っていた話なのに。
「はあ、?お前意味わかってんのかよ、死ぬってことだぞ!!」
「わかってるよ。好きな子と心中。いいじゃん、まあこれは最終手段だけど」
「・・・まあ、俺の株を全部金にしたら二人で遊んで生きることはできるか・・・」
「レオ。いつ結婚する予定なの?」
「卒業式の1ヶ月後、か?」
「じゃあさ、卒業式が終わったら、俺と駆け落ちしよう。」
「・・・乗った。」
計画は1年後。長い年月に思えたが、家を探したり今のうちに金を稼いだり。俺は凪を見つけた時ぐらいワクワクしていた。
・・・
桜が咲き始めて心地よい風が吹き始める。後ろからの聞き慣れた声に振り向く
「レオ。」
「凪!。待ってた!」
「何持ってくか迷ってたら遅くなっちゃた。」
「キャリーケースに何入れてきたんだよ、」
「スマホでしょ?服にー、あとチョキ。」
「嘘だろ今から逃げるんだよな!?」
「レオがいればいいかなって。」
「あのなあ。。。」
七日分の服を洗濯して着るつもりだろう。安易な考えのやつだ全く。
「行こうよレオ。」
「ああ、行こう。」
もう無駄遣いはできない。慣れない電車に乗って遠くの海が見える小さな家まで来た。
「これレオが買ったの?俺の部屋より広い」
「最低限の生活には必須な広さな。市場もあるしインターネットも届く。最高だろ?」
「ネットとレオがいればなんでもいいかな・・・。じゃあおやすみー」
ぼぶん、と音を立てて設置しておいたベッドに寝転がる凪。荷解きとかないのかよ。。。
「まあ凪らしいか、」
呆れたような声で言えば俺も凪の隣に寝転がる。ああ、すごく心がスッキリする。好きなやつとの邪魔されない時間。どれだけ至福なのだろう。
バレるのも時間の問題だが。
「もって一ヶ月だろうな、」
俺の諦めたような発言は宙に舞って消えた。
________________________
好きな子と過ごす一ヶ月は早かった。毎日質素なご飯を食べて風呂に入って一緒に寝る。すごく楽しかった。生きてる心地がした。
夜、八時頃。辺りの陽も落ちてきた頃玄関を叩く音が聞こえる。来てしまった。本能的にわかった。不思議そうにする凪を守るように、そちらに目を向ける。入ってきたのは想定した通りの人物だった。
「玲王。こんなところに居たのか?帰ってきなさい。」
「っ、悪い凪、バレたみたいだ」
「あちゃー、・・・早かったなあ。」
俺の手を無理やり引っ張る父。逆らえず大人しく連行されるつもりだった。
「レオ。おいで、俺と死んじゃおっか。」
ばかだ。なんでコイツは俺のことを思うと自分の命も蔑ろにしてしまうんだ。俺に向けられた眼差しが適当でもその場しのぎでもないことは俺が一番わかっていた。だからこそ、乾いた笑いが漏れる。乗ってやるよ、凪誠士郎。俺の人生を退屈から幸せに導いてくれたお前を、俺は信じるしか道はなかった。
「流石レオ。おいで。走って」
「どこ行くつもりだよ!」
走った。凪に手を引かれながら。後ろから追ってきたが現役男子高校生のほうが圧倒的に足が早かった。
「レオ、苦しかったらレオだけでも死ぬ気で息吸ってね。」
「お前をおいていけるかよ!」
来たのは海。夏の海でもひんやりと冷えていく。最期が海なんて、オシャレだな。とか呑気に考えた。
「・・・レオ。次はさ、親御さんに認められる世界で、俺と結婚してください。」
「あは、認められなくても俺はお前と結婚するよ。」
月明かりに照らされ二人で海の中を歩く。冷たかったがもうどうでも良かった。
どうか来世は、縛られない世界で幸せになりますように。