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プロローグ
「一生懸命に働きますのでぜひよろしくお願いいたします!」
とある保育園から響いた声だった。
保育園と言っても、今僕がいる場所は、面接官と園長2人からの鋭い視線が飛ぶ場所…すなわち面接会場出会った。
僕、坂田将生は今日この保育園で働くはずだった。なのに──
『まさか、君が男だと思ってなかったよ。』
「え?」
『悪いが、男は無理だ。』
『悪いが他を当たってくれ』
僕は何も言い返せなかった。
───
エピソード1 ・愛言葉
「はぁ…これで何回落ちればいいんだよ。」
坂田将生は盛大な溜息をついて、外を歩いていた。
「僕が男のせいで、夢も叶えさせてくれないのかよ…」
将生は見ただけだと女に間違われるほどの顔つきで、面接シートの写真だけでは皆、将生を女だと思い込んでいた。
「はぁ…あと、何回落ちればいいんだよ」
将生は子供の頃から保育士になりたいという夢をもっていた。
だが、そんな夢も今既に消え失せようとしていた。
『ねぇ。君!』
この女が話しかけてくる前までは。
1
『さぁさぁ!入って入って』
笑顔で僕を先導する女性。
あまりにも無邪気な笑顔に僕はついて行くしかなかった。
『ちょっと騒がしいけど、驚かないでね?』
僕が入った場所はとある施設だった。
確か表に【華蓮施設園】という綺麗な鉄の札がかけてあった。
新しい保育施設なのか…だが、それにしては静かすぎる。と思ったのも束の間
扉が開いた瞬間、思わず耳を塞ぎ込みたくなる程の罵声が聞こえた。
「あんたなんか産まれてこなきゃ良かったのよ!!!!」
「あんたの顔なんか二度と見たくない!!!!!!」
僕は驚きを隠せなかった。
僕の目に入ったのは、泣き叫ぶ1歳ぐらいの幼女とその幼女を守る華奢な子…そして、その2人にとんでもない罵声を浴びさせる幼女の母親らしき人物。
『柳田さん!!落ち着いてください』
僕を先導させていた彼女も顔を顰めさせて、母親らしき人物をなだめていた。
『高橋くん。南帆ちゃんを別室に連れて行ってくれる?』
「…はい。」
“高橋くん”そう呼ばれた華奢な子は泣き叫ぶ幼女を抱き、僕の横を通りすぎた。
『柳田さん。南帆ちゃんはうちで引き取るので…ご安心を、、』
「何が安心よ!!!!!」
柳田と呼ばれる女性が彼女の髪を引っ張る。
「どうせ、私を悪者にする気でしょ!!!!!!!」
「アンタみたいな半端者に私の何がわかんのよ!!!」
『すみません。ですが、少し…』
「五月蝿!!!!!!五月蝿!!!!!!五月蝿!!!!!!」
五月蝿…こっちが言いたくなる程の罵声が響く。
大人である僕が聞いても耳を塞ぎたくなるほどの内容を先程の幼女はいつも聞いていたんだろうと考えると胸が苦しくなる。
呆然と立ち尽くす僕の背中にふと温もりが感じた。
その温もりは僕の背中を前に押し出そうとしている。
「え?何!?」
驚いて振り向くと、それに驚いたのかビクッと肩を震わす子供がいた。
あ、この子は…
「た、高橋くん?だっけ」
そう。高橋くんっと呼ばれた華奢な子だった。
その子の見た目は、茶髪で眼鏡をかけていて顔は普通の女の子よりも綺麗に整っていて
だいぶ小柄な子だった。
『…希美先生を助けてよ』
『俺じゃあ何も出来ないから…』
声を聞いてわかった。
華奢な女の子に見えたこの子は──
「男の子なの?」
少し、低めな声。
そう。彼は男であった。