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んんっ?最後の弾かないって何?弾けないじゃなくて?続きが気になるな。
私も涼ちゃん先輩と呼びたくなりました💛 過去に何が😭💦
これからも藤澤先輩とこんな風に話したい。
そのためにも今後の約束を取り付けなければいけない。
「藤澤先輩、あの、迷惑じゃなかったらこうしてまたお昼一緒に食べてくれませんか?先輩と話ししてると楽しいんです
気持ち悪がられたらどうしようという不安もあったけど、言わないとただの先輩後輩の関係で終わってしまう。
「迷惑なんて!僕で良かったら···じゃあ、毎週金曜日はこうやって一緒に食べようか? 」
毎週会える!それが嬉しくて願ってもない提案に俺は頭をコクコクと縦に振った。
「じゃあ約束ね、はいっ」
すっとテーブル置いていた手を伸ばして小指を見せて俺のことを待っている···指切りげんまんって、こと?
俺も一応手を差し出すと、自分の小指に俺の小指を絡めとり、ゆびきった、と小さく言った。
「けど用事あるときとか、無理しなくていいからね」
そんな風に気も使ってくれて。
···楽しい時間はあっと言う間にすぎていった。
午後の授業、全く俺は集中出来ずに昼の出来事を何度も脳内再生していた。
それからの俺は金曜日を楽しみに学校へ通い、藤澤さんとたまに校舎ですれ違っては話しかけるという恋する女子高生のような日々を送っていた。
もうあれから3回目になる···待ち焦がれていた金曜日のお昼、俺はいつも通りウキウキと食堂へ向かった。
一緒に並んで注文し、いつもの席へと2人向き合って座る。
今日はカレーとうどん、という組み合わせを前に先輩はおいしそう、と幸せそうな顔をしている。
「藤澤先輩、今日もすごいですね···」
「そうかなぁ?大森くんも育ち盛りなんだからもっと食べないと」
藤澤さんはたまに母親のような事を言って俺を笑わせる。
先輩はいただきます、と言っていつも通り髪を無造作にヘアゴムで縛ってからふぅふぅと冷ましながらうどんを食べている。
「食べるより藤澤先輩が美味しそうに食べるのを見てる方が好きです。たくさん食べてるのも見てて飽きないですし」
「そういうものかなぁ?···今日はカレーとうどんが食べたかったからたくさんになっちゃっただけなんだよ」
「···カレーうどんじゃダメですか?」
「え、その発想はなかったー、カレーうどんとおにぎりにしたら良かった。ありがとね、次はそうする」
それじゃあ結局同じです、というツッコミは頭の中でしておいて、そんな可愛らしい先輩にそうですね、って俺は笑っておいた。
昨日みたテレビの話だとか最近聞いてる音楽の話なんかをしながら食事を進めていると藤澤先輩の友達数人が近くを通り、その時茶化した声で俺達に声をかけてくる。
「藤澤ー、最近その子と仲いいねぇ」
「お前、ほんとーにモテるな」
「付き合ってんの?」
などなど、好き勝手言ってからじゃーな、と去っていく。
よくあるからかいだろう、俺は全く気にしないどころかなんなら付き合いたいくらい好きだし、仲いいという認識をしていただけているのはこの上ない幸せだと思う。
ただほんとーにモテるな、とはどういう意味か引っかかるので詳しく聞いておきたいところだったが。
ただ、藤澤先輩の反応が気になる。
そういうのをよく思わないのなら距離と取ったほうがいいんじゃないだろうか?チラリと先輩を見ると全く気にせず、うどんを食べ終えてカレーに手を伸ばしていた。
「すみません、俺のせいであんな風に言われて」
「ごめんね、不快だったよね?よくああやってからかわれるんだよねぇ。やめろって言っとくから···」
ペロリとカレーも綺麗に完食した先輩は、自分のせいではないのに申し訳なさそうに謝ってくれる。
「俺は、全然···藤澤先輩さえ嫌じゃなければ···」
「僕は気にしないんだけど···もし僕がいないところで変なこと言われたらちゃんと言うんだよ」
たまに吹かせる先輩風も可愛らしい。
泣きついたら守ってくれるかしら、なんて考えどちらかというと守ってあげたいほうかもな、とも思った。
「それで言うと、僕前から気になってたんだけどね」
少し顔を寄せて真剣な顔で先輩は俺に話題を変えて話を切り出した。
「藤澤先輩っていうのがなんだかこそばゆくて、落ち着かないっていうか。あんまり先輩っぽくもないし、なんなら大森くんのほうが落ち着いてるでしょ?だから、名前で呼んでよ」
名前で···え、そんなの有りなんだろうか。いくら可愛らしくても先輩だし、最近少し敬語も砕けて来たところがあるけどさすがに生意気なんじゃないだろうか。けれど俺を見るその表情は真剣そのものだ。
「さすがにそれは···先輩って友達からなんて呼ばれてるんですか」
「藤澤か、涼ちゃん、とか?」
涼ちゃん。
名前まで可愛いとかズルい。
思わずニヤけそうになるのを押さえる。俺はその名前で呼んでいる想像たけでキュン、と胸が高鳴った。
「···しばらくは、涼ちゃん先輩でどうですか?」
「ふふ、いいよ。藤澤先輩より堅苦しくないしね」
無事許可をいただいた俺はほっとして、次は自分の名前を、と意気込んだ。
「じゃあ先輩は、俺のことを名前で呼んでください···元貴って」
「もとき、元貴。いい名前だね」
名前を呼んでほしい、と自らお願いしておきながら実際確かめるように呼ばれると鼓動が速くなるのを感じで少し身体が熱くなるのには、困ってしまうが嬉しいのだから仕方がない。
本当にこのひとは屈託なく、いつも朗らかであたたかい。
明るい春の日差しのように笑い、俺の大したことのない愚痴や面白かったことなんかを飽きずに聞いてくれる。
それが涼ちゃん先輩の全てだと思い込み、まだ何も知らない俺はそんなところに惹かれていた。
「そう言えば、涼ちゃん先輩に階段で助けてもらった時から聞きたかったことがあって」
「なぁに?」
首を少しかしげて少し不思議そうな表情で俺を見る。
「先輩って、もしかしてピアノ弾けますか?」
あの時握った繊細な細長い綺麗な指がずっと忘れられなかった。なんとなく爪を深めに切りそろえているのも、たまに無意識なのかテーブルをとん、とん、とリズムよく利き手じゃない方で叩いていたりするのも、ピアニストのそれなのかと感じていた。
もしそうなら、あわよくば、俺がギターを弾きながら作っている曲にピアニストとして弾いてもらえないだろうか、なんて俺は脳天気に考えていた。
そんな安易な俺の思いは先輩の初めて見る曇った辛そうな表情にかき消されることになる。
「···ごめんね、弾かないんだ」