TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
シェアするシェアする
報告する

目を見開き、立ち尽くしている私に

「美月。加賀宮さんじゃなくて、加賀宮《《様》》だろ?初対面だし、お客様なんだから。すみません、妻はおっちょこちょいなところがあって……」


「いえ。それくらいのこと、気にしませんから」


フフっと加賀宮さんは笑った。

こんな笑顔を向けられたら、彼の素性を知らない人はやっぱり騙されちゃうよ。


状況を理解できずにいる私に、孝介は痺れを切らしたのか

「美月、早く加賀宮さんをご案内して?」

声音は優しいけど、表情が固い。


「はっ……はい。どうぞ、こちらへ」


「お邪魔します」


メガネをかけた加賀宮さん、髪の毛はワックスで少し固められ、仕事モード。初めて会った時と同じだ。


孝介に顔見知りだと気付かれたらダメだ。

どうして加賀宮さんは、そんな平気な顔していられるのよ。


平然を装っているが、心の中はパニック状態だ。

リビングへ案内し、ダイニングチェアに座ってもらう。


「飲み物は?」

孝介に聞くと

「加賀宮さん、ビールで良いですか?」


「ええ。お気遣いありがとうございます」


仕事の話をするのにビールなの?

疑問に感じたが、私は孝介の指示に従うしかない。


ビール、ビール、ビール……。

二人の前に冷えたグラスを置き、瓶ビールを注ぐ。

緊張してしまい震える手を必死で隠そうとしながら、加賀宮さんにお酌をした。


「ありがとうございます」


加賀宮さんは笑顔だし、何を考えているの?


「美月。加賀宮さんは、うちの会社と提携を結んでくれたんだ。ご自身で会社を設立してまだ間もないのに、洋服のサブスクサービス、BARやカフェの経営、本当に多彩な才能をお持ちで……。今度、家電のサブスクサービスを始めるそうで……。そこでうちの製品を扱ってくれることになった。俺と歳も近いし、父さんが紹介してくれて……」


「そうなんですね」


加賀宮さん、そんなにすごい人なんだ。

孝介が人を立てるってことは、九条グループの方が加賀宮さんの会社にお願いしたような形なんだろうな。


加賀宮さん、教えてくれたって良かったのに。

今すぐ文句を言ってやりたい気持ちになったが、作り笑顔で対応を続けた。


「九条さん、羨ましいです。こんな素敵な女性と結婚されていて」


なにそれ、嫌み?

チラッと加賀宮さんを見たが、何食わぬ顔をしている。





※サブスクサービス

(サブスクリプションサービス)


「美月はとても一生懸命な女性で。家事や料理も上手で、自慢の妻なんです」


ウソウソウソ!そんなこと思ってないくせに。

美和さんの方が……とか、心の中で思っているんでしょ?

どうしてそんなに見栄を張るの?


「容姿だけじゃなく、内面も素晴らしいんですね」

加賀宮さんはフッと笑った。


その笑いは何?


二人の会話に心の中で突っ込みを入れる。


「美月さんの作った料理、食べてみたいです。僕は……。性格が悪いからか、何年も彼女はいませんし。食事もいつも外食だから。たまには手料理とか食べてみたいなって、憧れるんです」


加賀宮さんは、そう言って孝介に微笑んだ。

孝介の眉間がピクッと動いたのを私は見逃さなかった。


「すみません。今日は急だったから。彼女も準備していなかったみたいで。酒のつまみもろくなものがありませんね……」


孝介は私が料理が下手だと思い込んでいる。悔しい。


「私、作ります……」


「はっ?」

孝介が一瞬、素になった。

「美月、無理しなくて良いよ。食材も揃っていないし……」


どうしても私に作らせたくないのね。

不味いものをお客様に食べさせたら、顔が立たないもの。

しかも「料理上手な妻」で通っているから。


でも――。


「大丈夫です。私、作ります」

ちゃんと作れるってところ、孝介に見せてやりたい。


「本当ですか?それは楽しみです」


加賀宮さんがそう言ってくれたおかげで

「じゃあ……。お願いするよ」

孝介も渋々承諾してくれた。


私がキッチンに立っている間、二人は楽しそうに会話をしていた。

表面上だけなんだろうな、二人とも……。



「お待たせしました」

私は作ったおつまみを二人の前へ運んだ。

卵焼き、塩昆布とキャベツの和え物、ツナと玉ねぎのピリ辛和え。


イジメかっていうくらい、冷蔵庫には何もなかった。

もう少し材料があれば……。

私の作った料理を見て、孝介は表情が明らかに歪んでいる。


「……。加賀宮さん、すみません。もっとオシャレなモノ、彼女も作れるんですが……。今日は《《たまたま》》冷蔵庫に何もなくって。見栄えが悪いですよね。美月も無理して作るから。《《明日食べる》》から、どこかコンビニでも行って、おつまみ買って来てくれないかな?」


孝介は私に視線を合わせる。眉間にはシワが寄っている。

すぐわかる、怒っている。


「いえ。とても美味しそうじゃないですか?僕はいただきますよ」

そう言って加賀宮さんは、私の作った卵焼きをパクっと食べた。


「あっ、加賀宮さん。無理しなくても……」

孝介が引き止めるも、もう彼は飲み込んだ後だった。


なんて言うのかな。

今更になって緊張してきた。

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚