『見せたくない弱さ』
Tg視点
帰りの昇降口で靴を履いていると、
ふいに誰かが腕をつかんだ。
振り返るまでもなく、
その手の熱で分かった。
「……先輩?」
ぷりっつ先輩は、
まるでずっと探してたみたいな顔で俺を見ていた。
「さっき……誰と話しとったんや」
声が少し低い。
怒っているわけじゃないのに、
胸がひゅっとなる。
「あ、あの……委員の先輩と少しだけ……」
言った瞬間、
先輩の眉がわずかに揺れた。
「楽しそうに笑っとったな」
「え?」
「俺の前ではそんな顔……あんまりせぇへんのに」
心臓が強く跳ねた。
先輩の言い方が、
悔しそうで、
寂しそうで。
そんな顔、知らない。
「してますよ……先輩の前でも」
気づけば自然に言葉がこぼれていた。
「俺、先輩の前の方が……いっぱい笑ってます」
その言葉に、
先輩の目が驚いたように開いた。
でもすぐに、
少しだけ照れたみたいに目をそらす。
「……ほんまに?」
「ほんまです」
返した途端、
先輩はため息みたいに息を漏らして
俺の手首をつかんだまま、
ほんの指一本分だけ距離を詰めた。
近い。
呼吸が混ざる。
「……他の誰の前より、俺んとこで笑えよ」
その声がやけに優しくて、
でも弱くて、
胸がぎゅっと締めつけられた。
「……そんなの、ずるいです」
「何がや」
「そんな言い方されたら……期待しますから」
言った俺の方が顔が熱くなった。
先輩は一拍だけ黙って、
それから――
すっと、俺の耳の横に顔を寄せた。
「……してええよ」
何を、なんて聞けなかった。
聞かなくても全部伝わる距離だった。
でもその瞬間、先生が昇降口の扉を開けて声をかけた。
「お前ら、早く帰れよー!」
ふたり同時に固まった。
先輩はまるで幻でも見たみたいに俺から離れて、
視線をそらして小さく舌打ちする。
「……くそ。ここでかよ」
その悔しそうな顔に、
胸の奥がきゅんとした。
「先輩……?」
問いかけようとしたその瞬間――
先輩が俺の手を、
迷いなくぎゅっと握った。
「……明日もまた、な」
その言葉だけ残して歩いていく背中が、
夕日の残り火みたいに儚くて、
目が離せなかった。
♡>>>>2500
コメント
2件
「……ほんまに?」「ほんまです」が可愛い😍 楽しみだな〜