『撫でてほしい』
Tg視点
放課後の音楽室は
吹奏楽部の残り香みたいに少しだけにぎやかで、
でも窓から差す光は静かだった。
練習を終えたぷりっつ先輩が、
椅子にどさっと腰を下ろす。
「はぁ……今日、めっちゃ疲れた……」
その一言に、
胸がきゅっとなる。
先輩がしんどいと
なんでかわからんけど、
近くに行きたくなる。
気づけば俺は、
となりの席に、そっと腰を下ろしていた。
距離、近い。
でも離れたくない。
先輩はぜんぜん気づいていないみたいで、
天井を見上げたまま
深く息を吐いていた。
その横顔が
いつもより少しだけ弱く見えた。
……ああ、
触れたい。
そう思った瞬間、
自分でもびっくりするくらい自然に、
頭が先輩の肩に「こてん」と乗ってしまった。
沈黙。
先輩の肩がびくっと揺れる。
「あ、お、おい……ちぐ……?」
やっと気づいたらしい。
顔が熱くなる。
でも動けない。
「ご、ごめんなさっ違……っ、違くて……!」
慌てて起き上がろうとしたら、
ぷりっつ先輩がそっと俺の肩を押さえた。
逃がさないみたいに。
「……逃げんな。乗せたんはおまえやろ」
その声が、
いつもみたいにふざけてなくて
静かで、優しくて。
俺の鼓動だけがうるさい。
「……もしかして、撫でてほしい、ん?」
耳の奥まで一気に熱くなる。
「ち、違……っ、そんな、わざわざ言うほどじゃ……」
言葉に詰まっている俺を見て
先輩が何か悟ったみたいに
ふっと笑った。
「言わんでも、分かるで。……おまえ、犬みたいやし」
その瞬間、
指先がそっと俺の頭に触れた。
ゆっくり、
ゆっくり、
髪を撫でる。
優しい。
心地よすぎて涙が出そう。
「先輩……撫ですぎです……」
「嫌なん?」
「……嫌じゃない……です……」
言った瞬間、
先輩の手の動きが一瞬止まった。
それから、
さっきよりもっと丁寧に撫でられる。
指の一つ一つがあたたかくて、
頭のてっぺんまでとろけそう。
俺、こんな顔してるの
絶対見られたくないのに。
なのに先輩は、
何も言わず
ただ優しく触れてくる。
しばらくして、
手を離そうとして――
けど途中でやめて、
もう一度俺の頭を撫でた。
「……ちぐがこんな顔するの、俺の前だけやんな?」
言葉が喉でつっかえて
返事ができなかった。
でも、
返事なんてしなくても
全部バレてる気がした。
そのとき。
廊下の向こうから
先生の足音が近づいてきて――
「ヤバ……」
「えっ……」
ふたり同時に肩を跳ねさせる。
次の瞬間、
ぷりっつ先輩は俺の手首をつかんで
音楽室の奥へ引き寄せた。
距離ゼロ。
呼吸すら当たる近さ。
先生の影がガラスに映る。
先輩の声が
耳に触れるくらい小さく落ちてきた。
「……こういうのもスリルがあってええな?w」
心臓、壊れそうだった。
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コメント
2件
tgちゃんほんとに肩に頭乗せたとき「こてん」って効果音付きそう…🤔 尊すぎてこっちが心臓壊れそう