甘い喧嘩
結局、いつもの半分しか事務作業は進まず、そのまま亜白隊長に心配され強制帰還。自分の問題を仕事にまで引っ張ってしまって凄く不甲斐ない。申し訳ない。情けない。何もできない。そして鳴海さんに見捨てられた。嫌われたかもしれない。この気持ちを色で表すのなら濃い青。紺色よりも少し暗い。心はどん底。
いろんな圧に押しつぶされそうになって既に心は半分消えかかっている。1人車に乗りながら、溢れそうな涙を押しこらえて、なんとか家へとたどり着く。溢れそうな気持ちをずっと我慢。
ポケットに手を入れて冷たい金属を取り出す。ザラザラとした感触。トゲだらけの、あの時の何も考えてない気持ちのようだ。
カチャ、…と寂しい音を出して家へ入る。
「っ、……」
開けた瞬間に鼻の奥へと入ってくる鳴海さんの匂い。同じ柔軟剤を使ってるはずなのに。
また少し泣きそうになる。
きっと今日、鳴海さんは帰ってこない。
このいつもより広く感じる寂しい家でひとりっきり。いつもと変わらない広さ、いつもと変わらない家具の数、いつもと変わらない窓からの景色、すべていつもと変わらない。なのに、変わらないはずなのに、鳴海さんが居ないだけで、ものすごく、…すごくすごく寂しく感じる。いつもより広く感じるし、いつもより隙間が気になるし、いつもよりも虚しく見える。全てがほんのちょっぴり変わった。
寂しくて寂しくて、鳴海さんに会いたい、と思ってもきっと帰ってこない。どれだけ手を伸ばしても届くはずがない。メールも未読。電話も切られるし、かかってこない。どれだけ自分にとって『鳴海弦』という存在が大きいのか。心配も優しさも何も分かれない。何も分かってないから、全て突き飛ばした。突き飛ばして、受け入れるなんてしなかった。感情任せばかりに、得たのは大きな後悔。
肺に酸素と鳴海さんの匂いを思いっきり取り込む。吸って吐く。少しだけ、ほんの少しこの取り込んだ空気を吐き出したくないな、と思った。
こんなに居なくて辛い存在だと知っているのに、それを忘れたかのように僕が突き放した。最低。
吸った空気を吐いたとき、鼻の奥がツンと痛む気がした。
「っ、…」
ひたすら、大泣き程度までは行かないが、心がいたんで苦しかった。溢れる小さな涙を必死に袖で拭う。拭って拭って拭って、それでも出てくる。こんなんで泣いてる暇なんかないのに。全部自業自得なのに。なにも分かってない自分なのに。被害者ヅラするなよ自分。
最低最低最低。
そんな自分が嫌。
深く吸う。深く吐く。
繰り返し、同じペース。
次第におさまる。落ち着いてから部屋の時計に目をやる。
この時間だといつも、、既に鳴海さんが帰ってきている時間。だけど今ここに居ない。ドアもガチャ、なんて都合のいいような音が聞こえない。やっぱり、きっと帰ってこないんだろうなあ、…。
やっと治まったばっかりなのに、また鼻の奥がツンとした。
あかん、ダメ。泣くな、。弱いで、。
ずっとずっと言い聞かせ沈ませる。
少しでも気分を紛らわせようとして、いつもよりも早めなご飯にすることにした。
1人分を作るの、どれだけ久しぶりだろうか。
黙々と、、特に無駄な労力を使わないように、最低限の脳で準備をする。ほとんど無心。気づいたらできていた。何も考えていない、…。そうでは無いが、まるで離人症のような感じだった。
「ご馳走様でした」
食べ終わり食器を片す。
やっぱりこの時間になっても鳴海さんは帰ってこなかった。
なに、、、当たり前やん、。そないな事したら鳴海さんやってショックで僕に会いたないのに。そんなん知っとる、。僕がいっちゃん知っとる。急な被害者ヅラするん、ほんまダサいで。言い訳ばっかしてないではよ謝ろうや、。。
そう、謝る。
どっちも悪くない??そんなの嘘。一方的に突き飛ばした僕が悪いやん。アホなん??
謝らんと。電話、、
スマホのロックを開き、スワイプしていく。
[弦くん]
連絡先をタップ。
電話マークまでは開けた。なのに、なのにここまで来たのに電話をかけれない。なんで、??、
この前なんかずっとめげずにかけ続けた。なのになんで今は、
そんなに拒むの?
押せない。押そうとしても押せない、なんて言い訳はない。押せない。怖い。よく分からない恐怖感。そもそもこれは恐怖感なのだろうか。分からない。心臓がバクバク動いている。体が熱くなってきた。体の全臓器が口から一気に出そう。あと、あとたった2センチ程度の距離、押せば1秒もかからずにコールが鳴る。謝れば、、話せばまた元通りにできるかもしれない。
なのに押せない。
結局、また自分の弱さに負けて電話すらできなかった。
何もできない。またか、。
できない、と落ち込んでるなら、落ち込むぐらいだったらやればいいのに。すぐできることはたくさんあるのに。情けない情けない情けない。
なんでこうも鳴海さんのことになると弱くなるのだろうか。きっと相当惚れている。
眠る。
もう、考えることも言うこともない。、どうせ思ったってまた”何もできない”、しか言えないから。どうにか改善しないとなのに。
明日のスーツ、時間かかるよね。
会えるかな、
会えたとして、果たしてその手を取ることができるのかな。今のままじゃきっと無理だよ。どこかで自分が変わらないと。
寂しく静かで暗い夜。布団を目が覆い被さるまで被る。1番、よく鳴海さんの匂いがするもの。枕を間に挟んで思いっきり抱いて寝る。
そうすることで少しでもこの気持ちが紛らわせることができるのならどれだけ良いことだろうか。
やっぱりこんな冷たいものじゃなくて、あなたが居てくれないと、ね、…、。
じわじわと自分の枕が少しずつ湿る。
眠ればどうにかなる。
眠って、、、そう、眠ってとりあえず明日のスーツテストの体力温存しないと、。
ねくすと100
またじかい✧·˚⌖. ꙳
ちなみに、抱き枕を手で枕を抱いたり、足の間に枕を挟むことによって、心理学的には『安心感』や『リラックス効果』、『ストレス軽減』などがあるそうです︎︎^_ー
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コメント
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心理学とかすごく勉強になります✨切ない感じが文面で伝わってくる表現力、、本当に尊敬します…続き楽しみに待ってます!!
心理学で枕を挟むことにそんな意味があったのにめちゃくちゃビックリしました!! 保科さん、鳴海さんのことめちゃくちゃ好きやったんやろうし、だからこそちっぽけな喧嘩でも引きずってしまったりしてんのかなーってめちゃくちゃ胸がギューってなりました、、🥲 続きで、保科さんと鳴海さんが仲直りしてお互いもっと大好きになってくれたらもう最高です💕💕 楽しみに待ってます!! 本当にいつも神作をありがとうございます😭
見るの遅れてしまいました…_| ̄|○ il||li すごくすごくすごくすごく喧嘩か分からない時とかの気持ちとか喧嘩している時の後悔とか反省とかめっっちゃ共感できます!話せないとか……めっちゃ悲しくて泣きそうになったり、自分を責めたりしてしまいますよね💦(恋人いたこととかないけど…)これからも頑張ってください🔥






