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***


一週間後、野木沢から連絡が入ったので、宮本は都合のいい日に、店に向かうことにした。


「あーあ、陽さんよりも早くお店に着いちゃった……」


中をこっそり覗き見ると、いつも早く到着している橋本が来ておらず、宮本は微妙な表情をキープしたまま店内に入った。


「宮本様、いらっしゃいませ!」


営業スマイル全開の野木沢に見つめられるだけで、この間のやり取りを思い出し、背中に嫌な汗が噴き出す。


「ど、どうもです」


後頭部をバリバリ掻きながら、きまり悪そうにしている宮本を、野木沢は微笑みを唇に湛えて眺めた。


「宮本様とやりあったあと、次の日に橋本が店に来たんです」

「えっ?」


そんな話をひとことも聞いていなかったこともあり、宮本はビックリするしかなかった。


「僕の目の前で、橋本にものすごく惚気られましてね。「アイツ以外ほしくない。アイツじゃないと俺はもう駄目なくらい、とことん惚れ込んでる」なぁんてデレた顔で言われたせいで、あえなく玉砕させられました」

「陽さんがそんなことを……」


実際に聞いてみたかったと、思わずにはいられない。どんな顔でどんな声色で、それを野木沢に告げたのか――二次元についての想像力には自信があったけれど、橋本に関することは、からっきしダメなのを自覚しているので、残念でならなかった。


「僕らはもうあの頃には戻れないんだって、改めて思いました。年数が経ちすぎたせいでしょうね。橋本の考え方が変わっていたし」

「確かに学生時代と社会人じゃ、いろいろ変わって当然かと……」

「でも橋本の好みは、変わってないと思っていたんだけどなぁ。そこのところが、すっごく残念でした」

「まぁ確かに、陽さん面食いですし」

「何気に、自分はいい男だって言ってます?」


笑いながら野木沢に突っ込まれ、宮本は思いっきりあたふたした。


「ちちちっ、違いますっ! 俺はいい男じゃないですけど……」

「けど?」


語尾の上がった独特な問いかけに、ごくりと唾を飲み込んだ。アレを言うならこのタイミングだと考え、両手を強く握りしめる。


「えっと、むぅ…あのですね、俺が陽さんを抱いているので、もう離れられないっていうか」

「えっ?」


宮本のセリフに、野木沢は目を丸くした。まじまじと宮本の顔をを凝視し、そのまま固まる。


「ぉ、おお俺が陽さんを抱いてるんですっ。なにか疑問はありますか?」


真っ赤にしつつ、震える声で宮本が豪語したら、野木沢は乾いた声色で訊ねる。


「だって橋本はタチなのに……。僕とは違って男らしくて、見るからに抱く方でしょ。抱かれてるなんて、アイツはそんなヤツじゃ――」

「陽さんは言ったんです。好きなヤツに抱かれるのは、悪いもんじゃないって。俺はそんな気持ちに報いるために、全力で陽さんを抱きました」


宮本がここ一番で両手を握りしめた瞬間に、扉の開く音が店内に響いた。


「おっ、珍しく雅輝が先に来てる」


ふわりと微笑んだ橋本が入ってくるのを、野木沢と一緒に眺める。注がれるふたりの視線から、そこはかとなく漂う空気を読みとり、「あー、なんかタイミングが悪かったか」なんて呟いた。


「いらっしゃい。タイミングはばっちりだと思うよ。ね、宮本様?」

「へっ?」

「たった今、橋本が抱かれてるって話を、聞いたところだったんだ」


野木沢はショーケースに頬杖をついて、ニヤニヤしながら橋本を見つめる。宮本はなんと言っていいかわからなくて、あたふたしつつ、ふたりの顔を交互に見やった。


「ああ、抱かれてる。信じられないだろ?」

「僕を抱いてた頃の橋本なら信じられないけど、今の橋本ならありえそうだなぁって」


ふふふと意味深に笑ってしゃがみ込み、奥から書類らしきものを取り出した。


「信じてくれるのか?」

「信じるもなにも、宮本様が言ったんだ。あんなふうに熱意を込めて言ったことを信じないとか、普通はありえないと思うな」


野木沢はふたりに書類を見せるためにショーケースの上に置き、指先でトントン叩いた。そこにあったものとは――。


「陽さん……」

「これにしてくれたのか」


雁首揃えて見入ってしまったそれには、指輪のデザインが描かれていた。正面や斜め上、内側まで細かくイラストが描き込まれいて、仕事の丁寧さを表すものだった。


「橋本に、車関連で宮本様とお付き合いがはじまったから、それをモチーフにと言われた時点で、いろいろ考えた。車の部品で丸いものと言えば、最初に思いつくのはタイヤ。他にもライトやマフラーだったり、エンジンルーム内の部品に至るまで徹底的に調べつくしたけど、指輪にするモチーフには似合わなかった」


胸の前に腕を組み、得意げに笑う野木沢を、宮本は橋本と一緒に凝視した。


「どうして野木沢さんは、ステアリングホイールを選んだんですか?」


気がついたら、疑問が口から出ていた。

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