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「僕、剣持刀也っていいます貴方の名前は?」
「…か、加賀美ハヤト、です」
「加賀美さんですね、覚えました!」
鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌な人形
ホラーというには緊張感が全く感じられないが逆に自然すぎる言動がいっそ怖い
「んふふ〜♪久しぶりに目が覚めたから嬉しいなぁ」
ニコニコ笑顔で一つ伸びをして子供みたいに足をバタつかせる姿はただただ小さいだけの人間に見える
私は彼に思い切って声をかけた
「あの…」
「はい?」
「貴方は、その…。呪いの人形か何かで?」
表現が不思議だったのか数回、目を瞬かせ考える素振りをする剣持さん
「うーん…この器に縛られているという意味では呪いと呼べるのかもしれませんね、ですが僕が誰かを呪うアイテムかと聞いているのでしたら答えは、NOです」
「そうですか…」
「ふふ安心しました?」
「…ええ、まぁ多少」
何故、人形が動いて喋るのか根本的な問題が残っているが
「それは良かった!これからお互い長い付き合いになるのに怖がらせたままというのは忍びないので」
「え?」
「ん?」
「だ、誰と誰が長い付き合いになるんです?」
「もちろん僕と加賀美さんが」
はあああああああ!?
「いやいやいや、何言ってるんですか!?」
「何って…加賀美さんは、僕を購入されたんですよね?僕の持ち主という事でしょう?」
購入…?あ
「えっと、非常に申し上げ難いんですけど剣持さん…」
私は、これまでの経緯と店主の言葉をそのまま細かに説明した
「…オ、オマケ?僕が?」
ふるふると小刻みに震えてショックを受ける彼に少し同情心が芽生える
無駄に高価な見た目してるしプライドだってあるでしょう
小さい体が更に縮んだような錯覚が起き、もう最初に感じていた恐怖は遥か彼方に消えていた
「………。」
まさか泣いて
「あのクソじじい!」
なかった
「そういう訳ですので私としても予想外で…ここは、お互いの為にも元の場所へ帰るというのは、どうでしょう?」
すっかり気分を害し頬を膨らませる剣持さん
駄々を捏ねる子供への対応よろしく優しく微笑みながら提案してみると「絶対嫌です!」と叫びながら鞄の後ろに隠れてしまった
テーブルに近付き座り直して目線を再度合わせる
「加賀美さんは、僕を“巻きました”責任とって下さい」
どうやら一瞬で彼の信用を失くしたらしくジト目で痛い所をついてくる
「ゔっ…でもあれ選択肢が限られていましたが…」
「でも巻いたのは、加賀美さん!」
「…仰っしゃる通りで」
好奇心旺盛な自分が恨めしい
項垂れる私を見て焦りを覚えたのか剣持さんが、おずおずと顔を出しシュンとした表情で目の前に出てきた
「困らせているのは、わかっています…でも僕は、またあの暗い鞄の中で眠りたくないんです…」
「剣持さん…」
「僕は元々人間でした。色々あってこの死ぬ事の出来ない体になってからも長い時間を過ごしています、それでも暗く一人ぼっちな環境には全然慣れません」
体が変わったとして、心まで変化するとは限らない
永遠に続く命を喜べず悲しさを…寂しさを感じるならば、それこそ彼が人間である証明かもしれない
「…一人は寂しいですよね」
今にも涙が溢れそうな表情が苦しくて私は剣持さんの頭をそっと撫でた
「っ…」
びっくりしたのもあってか彼の頬から一粒涙が滑るのを見た時
【刀也さんを泣かせたのは、お前か】
重々しく響き渡る声
畏怖の感情すら持たせるほどの威圧感
また、このパターンか
今度は何が出てくるんだと頭を抱えていると私と剣持さんの間にボワンと白い煙のようなものが立ち込めた
「!?」
ようやく視界がきくようになると頭を撫でていた私の手が誰かに、ペシっとはらわれ行き場を無くす
「刀也さんを、いじめる奴は俺が許さないっスよ」
言葉の鋭さとは裏腹にフワフワ、モフモフの愛らしいキツネが剣持さんを守るようにそこにいた。
つづく