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青桃短編集

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青桃短編集

4 - 「いたずらっぽく 共犯 朝まで」

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2025年04月25日

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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります

この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します

ご本人様方とは一切関係ありません


ワードパレットでリクエストいただいた3つの言葉(サブタイトルになってます)を本文中に使用してのお話になります



「いたずらっぽく 共犯 朝まで」



いつもふざけている奴が真面目な顔をしているとどうも調子が狂う。

隣でほとけが真剣な面持ちで静かに歩いているから、不気味さすら感じるほどだった。


普段ならふざけたりうるさくしているのに、今日はやけに大人しい。

テンションの浮き沈みが激しい奴ではあるから静かになることもあるけれど、そういうときは大体機嫌が悪そうに黙り込む。

今みたいに、何かを思案する雰囲気でただ大人しいのとはワケが違う。



調子が狂うとは思いながらも、俺は無理に話しかけようとはしなかった。

話したいことが出てきたら向こうから口を開くだろうし、触らぬ神に祟りなしだ。

変に首を突っ込んでやっかいごとに巻き込まれたくない。


そう思って互いに黙り込んだまま、並んで歩道を歩く。

今日はないこの家でメンバー全員が集まり、久しぶりに泊まりで飲み会をしようという話になっていた。


仕事を終えてないこハウスへ向かう途中の路上で、ばったりほとけに出くわした。

会って短く挨拶をしたきり、ほとけはこの調子だ。

同じ場所に向かうのに別々に行くのも妙な気がして、黙りこんだまま並んで歩いている。



「…いふくんさ」


もうすぐないこの家に着くという頃になってから、ようやくほとけが呼びかけてきた。

絞り出すような声に隣を振り向くと、ぐっと唇を引き結んだ後、意を決したようにこちらを見上げてくる。



「僕と共犯にならない?」

「……は?」



きょーはん? きょーはんってなんやっけ?


日常生活で聞き慣れないその単語は、ほとけの口から出るとは想像だにしていないものだった。

だから脳内で変換するのに時間がかかる。

首を捻って見つめ返した俺に、ほとけは唇を歪めながら続けた。



「僕、今日さぁ。ちょっと頑張りたいことがあるんだよね」


はぁ、勝手に頑張ったらえぇやん。

喉元まで出かかったそんな言葉は、さすがに空気が読めなさ過ぎて息と共に飲み込んでしまう。



「りうちゃんに積極的にアピールしようと思って!」



アピール……アピール? あかん、マジで今日は頭が追いつかん。

頭の上に疑問符が浮かんで消えないままの俺に、ほとけは少しだけ眉を顰めた。



「今までは黙って見てただけだったけど、それじゃダメだと思って。だからいふくんに協力してほしいんだよね」



えぇ…と引き気味の表情で見やったけれど、ほとけはそんな俺からの視線には全く動じない。

…というか気づいてすらいないのかもしれない。



「最初は見てるだけで満足だったんだよ、本当に。でもさ…ほら、ここのところ赤組仲良すぎない?」

「…そうか? 色分けで一緒に何かすることが多いから必然的にそうなるだけちゃうん」

「だからまずいんだって…! だってないちゃんだよ? ふざけてばっかりだけど優しいしビジュもいいし実はハイスペックだし、ないちゃんが本気になったら落ちない人絶対いないじゃん…! りうちゃんだって好きになっちゃうかも…」

「…お前の中でのないこの評価が意外に高いことだけは伝わってきたわ」


メンバー同士でお互い面と向かって褒め合うことなんてほとんどない。

ほとけがそんな風にないこを評するのは少し意外だったけれど、りうらを取られるかもという焦りが余計にそういう判断をさせているのかもしれない。



「だからいふくん、赤組ができるだけ接近しないように今日は協力して!」

「…えぇ…めんど…」

「泊まりなんてことになっちゃったから、朝までないちゃんを抑え込んでてほしい!」

「要求高なっとるやん…さすがに無理やろ」



なんだかんだ言いながらりうらがないこに懐いているのは事実だし、ないこがりうらを構い倒すのもいつものことだ。

今日だけそこに割り込んでいくのはさすがに変で怪しまれそうだ。



「お願いね! いふくん頑張って!」



お前が頑張れや、という言葉を再び飲み込んで、俺はすぐ目の前に見えてきたないこのマンションを見上げた。







「あれ、まろとほとけっち一緒だったんだ」


部屋を訪れると、ないこがにこにこしながら出迎えてくれた。

他のメンバーはもう全員集まっている。

飲みながらつまめるような料理をあにきが手際よく用意していたし、しょにだはソファに座ってりうらとスマホで動画を視聴していた。

あにきの料理はもうすぐ完成するところらしく、ないこがそれ以外の既製品のつまみなんかを皿に開けて手伝っている。



「ないくん、りうらも手伝うよ」



忙しそうな保護者組を見かねたのか、しょにだの隣に座っていたりうらが立ち上がった。

キッチンに立つないこの方に向かうそんなりうらの姿に、ほとけが慌てた様子で俺に身振り手振りで何かを訴えてくる。

ないこが「えー助かる。ありがとりうら」と穏やかな声音で礼を言っているのが、ほとけの耳にも聞こえてきたんだろう。




……いや、知らんやん。

呆れた声でそう返したかったけれど、拒否するのも反論するのも面倒くさくなった。

仕方なくりうらの後に続き、俺もキッチンの方へ向かう。


「俺も何か手伝う。何したらいい?」

問うと、ピンクの目が驚いたようにこちらを見上げてきた。


「…え、まろがそんなん言うの珍しくない?」

「なんも珍しないやろ。この前のタコパでも食器洗いましたけど!?」

「あー…そういやそうだっけ。うーん、でもりうらが来てくれたらから手は足りてるかな」



じゃあしょうがない。

手伝おうかと進言しただけでも、ほとけへの体裁は保ったはずだ。

「じゃああっちでしょにだと遊んどるわ」そう短く言い置いて、リビングの方へ踵を返そうとした時だった。



「ないくん、この缶詰も開けて出していいやつ?」

冷蔵庫の中の缶詰に気づき、りうらがそうないこに声をかけた。


「あ、そうそう。そっちの器に出してくれる? それスタッフさんにお勧めされて買ってみたらめっちゃうまくてさ。今日皆にも食べさせたいなと思って用意しといたんだよね」


カットされたフルーツの缶詰は、パッケージデザインからして高級そうな代物だった。

「へぇ」と呟きながら缶を開ける最年少。

庫内には3つほど同じ缶が積まれていて、それを全て開けるとないこが指定した透明の深皿に汁ごとトプリと流し込んだ。



「確かにおいしそう」

「味見してみる? りうら桃好きじゃん」


艶やかな黄桃にフォークを刺して、ないこはそのままりうらの方へ向けた。

一瞬目を瞠ったりうらが、そのままないこの方へ一歩近寄り口を開けようとする。



…その時、だった。



俺の視界の向こうで、ほとけが複雑そうな表情を浮かべる。

そして俺の視線に気づくと、また身振り手振りで何かを訴えかけてきた。



……めんどいな、マジで。



呆れたように胸の中でそう呟いてから、俺は内心でため息を漏らす。

それからりうらの動きより素早く、横からひょいと身を乗り出した。



「…え、まろ!?」



ないこが手にしたフォークに、そのままかぶりつく。

瑞々しい黄桃を一口で口内に含み、もぐもぐと噛んでから飲み込んだ。

ふわりと甘い匂いが口の中いっぱいに広がる。



「ほんまや、めっちゃうまい」



唇の端から零れそうな桃の果汁を親指で拭いながら笑って言うと、俺の前でないこは目を見開いて驚いていた。

りうらはというと、「…それりうらのじゃん…!」と抗議口調で言ってくる。



「まだいっぱいあるやん。ほら食えば?」

ないこが手にしたフォークを取り上げ、器の中の桃にまた突き刺す。

それをりうらの前に差し出すと、あいつは受け取ってから自分の口の中へ桃を放り込んだ。



「ん、ホントだ! ないくん、めっちゃうまいねこれ…!」

目を輝かせてないこを振り返るりうら。



…最年少が、こういう色恋沙汰に超鈍感で助かったな。

ほとけへ向けてそう思いながらあいつを見やると、少しほっとしたような複雑な顔を浮かべてこちらの様子を眺めていた。






賑やかな飲み会の時間はあっという間に経過していった。

せっかく泊まりだしオールで飲もう!なんて意気込んでいた白黒組は、2時を回るころにはソファで二人仲良く並んで寝てしまった。

2人は今日ダンス練があったから、肉体的にも疲れが溜まっていたんだろう。

互いにもたれるようにして熟睡してしまっている。



「おい、何が共犯やねん」

意図せず2人になった瞬間に、俺はほとけにそう言った。



「お前何もしとらんやん。俺ばっかりないことりうらの間に割って入らされて」

「いや、だってさ…実際に行動に移すのって難しいし…」


人差し指と人差し指をちょんちょんと顔の前で突き合わせても、そのあざとさに騙されるわけもない。

ふん、と鼻であしらって、俺は手にしていたチューハイを呷った。



「俺もう眠いから寝るし、後は自力で何とかせぇよ」

「え! もう寝るの!?」

「あのなぁ、俺はお前らとは違うの! 朝から会社で働いてきとんねん」


ふわぁ、と欠伸を漏らしてリビングへ戻る。

そこにはテレビの前でスマホを見ているりうらがいた。

こちらもそろそろ眠くなってきたのか、いつもぱちりとした目は細くなり、瞬きが深くなっているように見えた。



それに気づいてほとけも焦ったのか、慌ててりうらの方へ近寄る。

まだ今日何もできていないという思いが燻っているんだろう。

りうらの横に正座するように膝をつく。

そんなほとけを、訝し気にりうらが「どうしたの、ほとけっち」と首を捻りながら振り返った。


「りうちゃん、今から僕とゲームしない?」

「え、ゲーム? いいけど…」

すぐ近くにあるないこのゲーム機を指さしながらの急な申し出に、それでも一つ頷くとりうらはそのまま後ろにいる俺を見上げる。


「まろもやる?」

そう尋ねてくるりうらの言葉に、俺は首を竦めてから頭を左右に振った。


「俺はもう眠いから寝る。2人でやったら?」

「まろゲーム弱いもんね」

「一言多いねんクソガキ」


風呂はさっき借りて入ったし、もう寝てしまおう。

ほとけもりうらを誘えて2人で過ごせそうなんだからもう自分の出番も終わりだろう。



…と言うか、「アピールする」「頑張る」っていうから何をするのかと思えばゲーム…?

子供か、と思わず乾いた笑いがこぼれ落ちそうだった。




「ないこたーん、ベッド借りるなー」

白黒組に毛布をかけたりキッチンの片づけをしたりしていたないこに、遠くから声をかける。


「えぇっまろ、半分開けといてよ!? 俺もこの後風呂入ったらもう寝るから。まろこの前、あにきの家に行ったとき斜めに大の字で寝てベッド占領したらしいじゃん」

「んはは、大丈夫大丈夫。あにきのベッドよりないこのベッドの方がでかいもん」

じゃーねー、と3人に声をかけて、ひらひらと手を振る。


そのまま歯磨きだけを手早く終わらせると、俺はないこの寝室のベッドに勢いよくダイブした。






ベッドの上でスマホを眺めていると、時折リビングの方からほとけとりうらの楽しそうな声が聞こえてきた。


ないこが部屋に入ってきたのは1時間くらいしてからだった。

風呂上りでルームウェアに着替えている。

開いた扉の向こうからはほとけの笑い声とゲーム音がより大きく聞こえてきた。

ないこが後ろ手にパタンとドアを閉めると、遮断されるように消える。



「…まろ」



俺の名前を呼びながら、ないこはベッドの方に近寄ってきた。

その声がいつもより数段低いことに気づいていたけれど、「んー?」と能天気な声で返す。



「今日のお前、なんなん」



ベッドに寝転がった俺のすぐ傍に、ないこは座った。

スプリングに腰を沈めて、床についた片足にもう片方の足を行儀悪く組む。



「んー? 知りたい?」



ニヤっと笑って言うと、ないこは嫌な予感がしたのか少し訝し気な目線を返した。

そんな空気には気づかないフリをして、俺は今日のほとけとのやり取りを話し始める。


聞き終えたないこは、思わずといった感じに吹き出した。



「何それ、ほとけっちかわいいとこあんじゃん」

「『ないちゃんが本気になったら誰でも落ちちゃう』やって」

「ホントかわいいな、あいつ」



はは、と声を上げて笑って、ないこは「よいしょ」とベッドの上に上がってきた。

俺の隣に横になり、近距離でピンクの瞳がこちらを見据えてくる。



「それでまろが今日やたらと俺とりうらの間に入ってきてたわけね。あーん、の横入りしてきたときはマジでびっくりしたわ」

「びっくりしすぎて固まっとったもんな、ないこ」

「そりゃそうだろ。人前でそういうの絶対やんないじゃんまろ」



言ってから、ないこはその時の光景をもう一度はっきりと思い出したのか困ったように眉を下げて笑う。



「俺がりうらにあーんしようとしたから本気で嫉妬したのかと思った」

「するわけないやん、それくらいのことで嫉妬しとったらないこと付き合われへんわ」

「ごもっとも」



ふふ、と笑うピンクの目が細められた。

その頬に手を伸ばして、ゆっくりと撫でる。

指先でそっと頬を伝うように触れると、ないこは気持ちよさそうにうっとりと目を伏せた。



「それにさ、『共犯』て何? ほとけっち大したことしてないからそれはまろが『協力』しただけじゃん」

「それ俺も本人に言うた」

「どっちかって言うと共犯って言ったら俺らの方がぴったりだよな」



言いながら、ないこは再び目を開ける。

頬に触れる俺の手に自分のそれを添え、楽しそうにいたずらっぽく笑ってみせた。



ないこと付き合うことになってから、メンバーや周りに迷惑をかけないようにこの関係は秘密にしようと互いに誓っていた。

好きだなんて感情は微塵も表には出さない。

それが許されるのは2人きりの時だけ。



「それにしても本当にメンバーにすらこれっぽっちもバレてないんだね、俺ら。すごくない? 完全犯罪みたいじゃん」

楽しそうに笑う目が、また三日月のような形に細められる。

…ほんまに、こういうことには人一倍嬉しそうにするよな。



「ねぇまろ、このままえっちしよ」

言葉をオブラートに包むこともせず、ないこは笑ったままこちらに手を伸ばした。

俺の背中に腕を回して、頭をぐいとすり寄せてくる。



「ないこ声出すからダメ」

「出さない、絶対出さないから」

「皆おるし」

「あにきとしょうちゃんは一回寝たら朝まで起きないし、ほとけっちとりうらはやかましく遊んでるから大丈夫だよ」

「お前の言う『完全犯罪』が崩れ去るかもよ」

「いいねぇ、スリルあるじゃん」



余裕そうな笑みを浮かべて、ないこは「らしい」言葉を吐いた。





こいつが声を出しそうになったら、全部キスで塞ごうか。

そんなことを考えながら、俺は上体を起こしてないこの上に覆いかぶさった。



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