コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌日、楽の様子はいつもと違っていた。
モニタールームで、夏目は一人微笑む。
「分かってきたみたいだね」
楽は、悪魔の憑依を解き、禍々しいオーラをその身体から発さずに逸見の幻影と対峙していた。
それは、夏目も寝静まった昨夜のこと。
「あー! なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう……」
悶々と考え続けていた愛は、突如声を上げた。
「んだよ……。起こすんじゃねぇよ……。お前ら魂は睡眠不要かも知んねぇけど、こっちゃ身体が睡眠を欲してんだ……寝かせてくれ……」
「ちょっと、楽!! 逸見さんに勝てるかも知れないのよ!?」
「ハァ?」
そうして、愛は語り出す。
「まず、楽の異能力って『霊魂を自ら強制的に憑依』からの『憑依した霊魂の能力を支配し使用』の二つが為せる力なわけでしょ?」
「まあ、しっかり説明したらそんな感じだな……」
「冷静に考えてみて、今ってすごく勿体無い状態だと思うの」
「勿体無い……? 何が……?」
「だって楽は、言ってしまえば色んな霊の能力や力を支配して使えるのに、悪魔の力しか使ってないじゃない」
そして、楽もやんわりと理解し始める。
「私の『アイ』の異能も、楽の身体に居る時点で楽は使うことができた。ってことは、悪魔じゃなくて私を憑依したら、また違った戦術が使えるってことにならない?」
「でも、愛ってそんな強そうに見えねぇよ……。今の戦い方だって、悪魔の飛び抜けた力があるから他の奴らと渡り合えてんだ。人間が人間憑依したってあんま変わんねぇだろ……」
その言葉に、愛は口を尖らせる。
「確かに戦闘能力は楽より無いけど、私だって異能教徒の暗殺部隊で生きてきたのよ? それに、楽よりもずっと前の4番目の子供だった。楽よりもずっと早く暗殺術を学んできてるのよ」
「じゃあなんだ? 悪魔の力でも全く太刀打ちできねぇのに、愛の力なら逸見に勝てんのか?」
「それは……やってみないと分からない……。けど、やってみる価値はあるはず……。私は確かに女の子だし、楽や悪魔みたいに力がある訳じゃない。でも、だからこそ培ってきた技術には自信があるの」
そして、現在に繋がる。
「おい……逸見来るぞ……。ものすげぇ早ぇからな。覚悟しとけよ」
「私だってずっと見てたから分かってるわよ! それより楽の方こそちゃんと足下意識してよね!!」
そして、逸見は弾丸の如く楽に迫る。
(やっぱり……! 逸見さんの攻撃、ずっと見てきたけど真っ直ぐの移動しかして来ない……! なら……!)
楽は、直線移動の逸見をスッと小さな動きで交わす。
「あれ……なんだ……? 避けれたぞ……」
「やっぱりそうだ……! 私がやってきたスキル、足の移動、考えてることが楽に反映してるんだ!」
楽は今まで、膨大な力により、大袈裟に避ける、と言うことしかやって来なかった。
その為、避ける位置の確認、筋肉量の変動など、避ける為の発進までに少し間が空いてしまう。
しかし、愛は足を軽やかにステップを踏むように相手の行動を見切って交わすことが出来た。
そして、作戦が成功した愛の心は、一つの感情に支配されていた。
(これで……私も楽の役に立てる……!!)
「おい……愛……また来るぞ……!」
そうこうしてる間に、逸見はまた楽の方を向いて助走の体制に入っていた。
「大丈夫……任せて……!」
弾丸の逸見の蹴りを華麗に交わす。
まるで今までもそうしてきたかのように、楽は不可なくその交わし方で華麗に避ける。
そして、体制をそのままに
「一挙手刀!!」
バシン!!
楽の手は流れるように逸見の脚を突いていた。
決して、相手を吹き飛ばしたり大ダメージを与えるような技ではない。
しかし、愛の培った一点のツボを突く手刀は、逸見の動きを止めるのに十分な攻撃だった。
「幻影なら動きを止められりゃ十分だぜ。よくも痛ぶってくれたなぁ〜、逸見ィ〜!」
そして、ニタニタと封魔の札を携える。
「終いだ!!」
封魔の札を逸見に貼り付けると、逸見は消えていった。
(お見事! あの桂馬くんをよく退けたね!)
甲高く笑い賞賛する夏目の声が聞こえる。
「おーい! 夏目さん? もういいだろ! 新しい異能の使い方も手に入れたし、そろそろ帰りてぇよ!」
(ハハハ、君たちは “僕が君たちを鍛える” と、どうやら誤解して認識して今の現状を受け止めているようだね)
「は? 違うのか……?」
(まあ、半分はその通り。君たちを鍛える目的もある。ただ、ここから帰すにはまだ条件を満たしていない)
「条件……? なんだよそれ、教えてくれ!」
(教えたら意味ないんだよね〜! はい、次行くよ〜!)
そして、間髪入れずに次の刺客が姿を現す。
「ふぅ……まあ予想はしてたけど……。睦月隊長か」
楽の前に現れたのは、隊長、睦月飛車角だった。
「逸見ほど速度はねぇけど……『貫通』の異能はこっちの攻撃通さねぇんだよな……。どうすっか……」
(さあ、それじゃ頑張ってね〜!)
そして再び、夏目の通信は途絶えてしまった。
しかし、逸見を退けた楽が、睦月を倒すまで、そう時間は掛からなかった。
睦月と言っても、単調な攻撃パターンの幻影。
三日間の間に愛は攻撃パターンを網羅し、更に愛から悪魔への “切り替え憑依” も、楽の鋭い経験値により簡単に習得し、僅か四日間で睦月を退けた。
「ありゃ、予定より随分早くなっちゃったな……」
モニタールームで、思わぬ進化に唸る夏目。
「それでは計算に合わない。次の敵だ」
「でもですね? 次の敵と言っても、彼が出会ってきた人間で彼を育てられる人物には限りがあるのですよ」
「実践経験が乏しい、と言うわけか」
「仕方ない……。ちょっと早いけど、この進化速度ならきっと乗り越えられるだろう。ラスボスを出しましょう」
「夏目……俺も相当スパルタな自信はあるが、ラスボスを仕向けるなんて正気じゃねぇぞ……。最悪、死ぬかも知らねぇ……」
「その時はその時ですよ」
そうして、夏目は背後の男に笑い掛ける。
「お、次の敵か! ハハッ! 今ならどんな奴にも負ける気がしねぇぜ!!」
そんな意気揚々の楽の意気込みは、即座に消え去ることとなる。
楽の前に現れたのは、
ボォッ!!
付近のコンクリートを一瞬で消滅させ、真紅の眼を輝かせた、大きな炎の翼を纏った二宮二乃だった。
「コイツ……あの炎の女か……?」
初めて、楽は好奇心よりも恐怖が身体を過った。
それは、人間の本能が刺激されているからである。
「幻影ならこんなことも出来てしまう……。ふふ、Aの幻影は使い所を考えなければ本当に恐ろしい……」
楽は、身体の震えを必死に止め、その場に立つ。
「待て……待て待て待て……。なんだ……なんなんだ、コイツのこの威圧感……。近付くだけでも焼け死ぬぞ……」
生まれて初めての感情。
” 今、ここで死ぬかも知れない “
そんな恐怖心が、楽の全身を支配していた。
相手は幻影、二宮二乃本人ではない為、今までの刺客たちのように本気で攻撃してくる。
本人とは違う。
あの時のように、守ってくれるわけがない。
そして、この状況。
逃げられない。
「楽……大丈夫……?」
楽の恐怖心は、身体の中にいる悪魔や愛にも伝わる。
そして、冷静に悪魔は呟いた。
「夏目という輩は、次こそ殺す気かも知れんな。此奴に、ヒトが敵うわけがない。誰もな」
そうして、真紅の眼は静かに、楽を捉えた。