テラーノベル
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二宮は、楽を捉えると、楽に向けて手を翳す。
「や、やべぇだろ……」
手には、轟々とした焔の弾が凝縮されて行く。
そして、真紅の眼が輝き、手から放たれる。
「ま、ま、待て! 悪魔!!」
楽は急いで悪魔を憑依し、真逆の壁まで避難した。
ゴゥッ……!!
轟音を立て、焔弾は壁に激突する。
そして、そのまま暫くコンクリートを焼き尽くす。
暫くして消滅し、半径数メートルの穴を開けた。
楽は呆然と口を開けてしまう。
「こ、これ……マジでどうすんだ……」
壁にぶつかった瞬間、大きな衝撃はが発せられ、近付くことすら危うい状況となっていた。
(アイツ……ここまでの力があって俺のことを守ろうとしてたなんて知らなかった……)
楽は、この業炎を前に、以前の行いを悔いていた。
そんな楽が唖然としている瞬間だった。
ゴゥ……!
二宮の目の前に、黒炎が突如として現れる。
そして、中から高身長で、顔に大きなアザのある男が姿を現した。
「な、なんだ……? ここまでの幻影を用意しといて、また新たに増やしたのか……?」
男は辺りを静かに見渡すと、二宮を睨む。
「ふむ……」
少し唸ると、静かに二宮に近付く。
二宮の標的は楽の為、その男に対して攻撃をする素振りは見られなかった。
「なんだ……?」
男は、二宮の首元を掴む。
「幻影か……」
すると、首からそのまま消滅させ、紅くエネルギー体として残った残骸を口の中に頬張った。
「夏目!! アイツは……!」
「大神官……喰者……!!」
夏目は頬に汗を滴らせる。
「幻影とは言え、起源の炎を再現した……。そのオーラを感知してしまったのかも知れませんね……」
「どうする……? 流石に助けた方がいいんじゃないか……? 幻影と違って、危ない時に消滅させることなんて出来ないぞ……!」
「そうですね……助けま……」
しかし、夏目の顔色が曇ったその時だった。
「ハハッ! 炎の女を食っちまったぜ! でもコイツからは全然恐怖なんて感じねぇや!」
楽は指を差して笑っていた。
楽が恐怖を抱いていたのは、二宮の並外れた力ではなく、根源たる起源の炎、フェニックスのオーラに対しての恐怖心だった為、この男に対する恐怖心はなかった。
その為、楽は楽観視していたのだ。
コイツは二宮よりも怖くない、と。
「コイツ……馬鹿なのか……? アイツが何をしたのか、楽は分かってないんじゃないのか……!?」
「いえ……何をしたかくらい、楽くんでも分かっているでしょう。幻影だとは思ってるみたいですが……」
「それにしても、あんなことを言って、喰者が何をするかもう分からないぞ!! 早く助けに……」
その言葉を、夏目は遮る。
「いや……様子を見ましょう……」
楽はニタニタと男に近付く。
「おめぇ、その女のエネルギー喰っちまったなんてすげぇなぁ〜! でもよぉ〜、その女じゃねぇなら俺は今、どんな奴にも勝てる気がしてんだよなぁ〜!」
男はギラッと楽を見遣る。
まるで、今まで視界にもなかったかのように。
「私の今の行動を見て恐れぬか……」
「あぁ? そういう能力なだけだろ? 食うくれぇなら俺だって肉も魚もなんでも食えるぜ!!」
「ふむ……。面白い……」
男は、ドバッ! と、オーラを放つ。
「我が名は大神官の一人、“喰者” 。名を、ギブソス=アレクサンドルスと言う。貴様のような恐れ知らずに遭うのは久方振りだ。存外、幻影に騙されてみるものだな」
「何言ってっか分かんねぇけど、やんだよな〜?」
そして、楽の方から喰者の眼前に飛び掛かる。
「ふむ……スピードは悪くない」
そのまま楽に手を伸ばす喰者。
しかし、楽はこれまでの戦いで成長していた。
「憑依……切り替え……」
瞬時に悪魔の速度から愛に憑依を切り替える。
そして、無駄のない動きで喰者の眼前で背後に回る。
「更に憑依……切り替え……! 悪魔!!」
背後から突如として悪魔の強力な強打を打ち込む。
喰者も、予想外の動きにモロに顔面に喰らう。
「よし……! 成功……!」
しかし、瞬時に楽は戦慄する。
「ふむ……悪くない」
悪魔を憑依した上での楽が今出せる全力のパンチ。
それを受けて尚、喰者は微動だにしなかった。
「嘘……だろ……」
今までの『幻影』とは違うことを肌に直感する。
そして、即座に距離を取った。
「ふむ……それも良い判断だ」
余裕に構えていた楽は、一気に緊張が走り、喰者に対しいつでも逃げられる態勢で距離を置いていた。
そんな楽に、喰者はゆっくりと振り返る。
「貴様の齢でそこまでの実践力、そして、格上と見越した瞬間の退避の判断力……。実に良い……」
そして、喰者は初めて笑みを浮かべた。
「フフフ……フハハハハハ!! 今ここで喰らってしまうのは惜しい。もう少し……熟すのを待とう……」
すると、楽でも気付かなかった超小型の監視カメラに向かって喰者は目を向ける。
「夏目だな」
夏目は苦笑いを浮かべながら、諦めた顔で背後の男に笑みを浮かべる。
そして、喰者の前に姿を現した。
「お前……夏目ってヤツ……!!」
また、半笑いで楽に会釈を送る。
そして、喰者に向かい合う。
「お久し振りですね、大神官 喰者様」
「中々に愉しい余興だ。しかし、その子供は殺すな。これは命令だ。いいな」
「畏まりました……喰者様……」
そして、喰者は改めて楽を見遣る。
「小僧、私に喰われるまで死ぬな。分かったな」
楽は何も言い返すことが出来なかった。
そして、喰者は再び黒炎を放つと、その場から消えた。
楽と夏目の間に静寂が訪れる。
そして、当然の疑問が楽の口から放たれる。
「なあ……アンタ…… “どっち” なんだ……?」
楽の言う “どっち” という言葉。
それは、『異能教徒か、異能探偵局員か』という、今のやり取りを見て誰しもが感じる疑念。
「俺ァ、睦月隊長から聞いたことある……。さっきの大神官って奴は、異能教徒を束ねるマジのマジのボスみたいな奴らなんだろ……。戦ってみて分かった……アイツは幻影じゃなかった……本物の大神官だ……!」
楽と夏目の間に緊張が走る。
夏目はそっと笑いながら楽を見つめた。
「今は何も話すことはできない」
その夏目の目が笑っていないことは、楽でも分かった。
「実は、もうすぐ君たちがここに来て一年になる」
「は……? 一年……? 数ヶ月だろ……?」
「いや、一年だ。半年以上、君たちは眠っていたんだ」
「そんなこと……あってたまるかよ……!! そ、それじゃあ祓魔院の奴らもとっくに捜索……」
すると、夏目は少女をワープさせた。
「彼女の名は影。異能教徒の幹部だ。君たちが戦っていた『幻影』を生み出す能力者だ」
そして、また一人、全く同じ顔立ちの少女が横に現れた。
「彼女は双子の妹、陰。異能教徒ではない。この子の異能は『瞬間』。指定エリア数平方メートルの時間を操作することが出来る」
「つまり、俺たちは……」
「そう、俺や君たちだけの時間のみ、一年過ぎたんだ」
「なんで……そんなこと……」
そしてまた一人、夏目はワープさせた。
「すみません、お願いします」
「楽だったか。またどこかで会うだろう。覚えていたら、今度はちゃんと味方だ。背中を任せられる戦士になれ」
そう言うと、男は静かに楽の頭に手を乗せる。
楽の視界は、急に暗くなり、全員の意識が消えた。
最後に、夏目の声だけが聞こえた。
「幸か不幸か……。ふふ、合格だ」
そして、楽は異能祓魔院の布団で目を覚ました。
覚えているのは、誰かと地下で戦った記憶、そして、新しく得た異能の使い方だけだった。
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