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エルスはスキル研究の権威であるカンガード家の令嬢だ。
彼女は元々口数が少ない。淡々としているタイプで、背の低い女の子だった。
とても可愛らしいのだが、薄紅色の敵意を持っていることには変わりない。
どうも、エルスは私に敵意があるというよりも、誰に対しても警戒心が強いタイプのようだ。
あまり敵意の色が濃くない人間はそういうタイプが多い。
スキル研究というのは、この国で誰もが関心を持っている分野である。
みんなが頭を悩ますスキル枠の五枠制限がなくなれば、町の暮らしや産業は大きく発展するはずだからだ。
もちろんエルスの家、カンガード家の優先研究対象の中にはスキル枠の拡張がある。しかし、未だに研究は進んでいないようだ。
といっても、彼女の家やその管轄下の研究所にはスキルに関する膨大なデータがある。
それを外部の人間に狙われることが多いため、常に警戒しているのでは、と私は考えていた。
「キリナの家には『スキル枠無限』についての伝承が残っているのよね。今度、もっと詳しく教えてくれない?」
「エルスは研究ばかりですわね。もっと紅茶の匂いを純粋に楽しめば良いですのに」
「わたしは優雅に暮らすだけの貴族とは違って、研究者でもあるから。これは大事なことなの」
「む。その言葉、もしかしてわたくしに喧嘩売ってます?」
と、私とリンをそっちのけで険悪なムードになるアルメダとエルス。実際の令嬢のお茶会などこんなものだ。
城下町の人々の可憐で尊いイメージとはだいぶ乖離しているのが現実である。
「ふ、二人とも! 今はお茶を楽しんでいるんだからやめようよ!」
そうやって仲裁に入るリン。やはりリンは優しい子だ。
リンの家は他の家と比べると、一段階、貴族としての格が落ちる。
だが、城下町の商売の公正さを見極める役目を持っており、城下町の人間とよく接し、リンのお父上もリンも人柄が良いため、一般民からは好かれている。
その一方で、上流階級のみで交流している貴族からは、一般国民と仲良くしている底辺貴族と蔑まれることもあるのが事実だ。
「リンさん、あなたに止める権利なんてありませんよ。私たちの方がより上級の貴族ーーむぐっ!」
私はこっそり、魔法スキル『強制沈黙』をアルメダに対して使用した。
これは本来、敵の魔法職が強力な魔法を使用する際に用いる、詠唱を行えなくするためのものだが、リンへの悪口を防ぐ使い道もある。
「???」
うまく声が出せなくなって、あわてて目を白黒とさせるアルメダは、そうしていれば可愛くも見える。
私はすぐに解除してあげた。
「あ、あれ? 今のなんでしたの……?」
アルメダはリンに対して悪口を言おうとしていたことを忘れてしまったようだ。
目的達成である。