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朝の教室。窓から差し込む光は白く濁り、机の表面を鈍く照らしていた。

イカやタコたちの笑い声が低くざわめいている。スロスが無表情で扉を開けた瞬間、その空気がわずかに揺れた。

彼女の席に机はなかった。教室の隅、ゴミ箱の隣に放り出され、天板いっぱいに赤いチョークで「バカ」と書き殴られている。おそらく相当強い筆圧だったのだろう。チョークに粉が大量に床にこぼれ落ちている。

「見ろよ…w」

「マジでやったんだ…w」

囁き声と笑い声が背後から降り注ぐ。教師はまだ来ていない。クラス全員が、彼女の反応を待っていた。

スロスは机を見下ろす。何も言わない。瞳は濁り、感情の色がまるでない。ただ口元が、ゆっくりと歪む。音を伴わない、無機質な笑み。見た瞬間、笑っていたイカの一人がなぜか背筋を冷やした。ぞっとした感覚を振り払うように、わざと大きな声で「キモッ!」と叫ぶ。再び笑いが弾け、教室がざわつく。スロスは机を引きずり戻し、何もなかったように腰を下ろした。

授業が始まる。教師は黒板に文字を書き続け、背後で起きている小さないたずらに気づかないふりをしている。スロスの後頭部に小さな紙玉が当たる。振り返らない。背中に消しゴムのかけらがぶつかる。無視する。机の中には、教科書の代わりにインクを染み込ませた布が押し込まれていた。鼻を刺す腐臭。彼女は黙ってそれを外に出し、机に手を置いた。手のひらに残った黒い染みを見つめ、また視線を戻す。その顔に怒りも悲しみもなく、ただ口角だけが不自然に吊り上がる。

昼休み。下駄箱を開けると、上靴の底にびっしりと画鋲が敷き詰められていた。銀色の針がぎらつく光を放つ。スロスは何も言わず、それを履いた。針が足裏を刺す。鮮やかな赤がにじみ、次の瞬間には消えた。破れた皮膚は閉じ、血はどこにも残っていない。

遠巻きに見ていたイカたちがざわつく。

「え、今血出たよな?」

「滲みもしてないぞ?」

誰かが笑い飛ばそうとしたが、その声は震えていた。スロスは振り返らない。ただ一瞬、肩越しに彼らを見て、口元を持ち上げた。音のない笑み。クラスの数人が思わず視線を逸らした。

給食の時間。配られた皿には黒いインクが注ぎ込まれていた。誰かが笑いをこらえている。皆が見ている前で、スロスは無表情のままスプーンを取り、墨ごとすくって口に運んだ。苦味が舌に広がっても表情は変わらない。淡々と食べ続ける。やがて皿を空にし、何事もなかったかのように片付けた。

「……やべぇな。」

「気持ち悪……。」

「本当にイカなのか?」

囁きが広がる。スロスは聞いていない。机に座り直し、窓の外を見ている。その顔は無機質だが、唇の端がまたゆっくりと吊り上がっていった。

放課後。

帰ろうと教室を出ようとするスロスを、数人のイカが取り囲んだ。机の上に鞄を置き、無言で立ち上がる。押し込まれるように壁に叩きつけられ、インクが飛び散る。拳が頬に直撃した。鮮やかな赤が走り、しかし次の瞬間には傷が消えた。血も跡も残らない。

殴ったイカが息を呑む。

「……なんで?」

「今、殴ったんだよな……?」

もう一人が椅子を振り上げ、背中に叩きつける。鈍い音。だがスロスは倒れない。皮膚が裂けても瞬時に塞がり、椅子を振ったイカの手首の方が赤く腫れていた。

「なにこれ……。」

「マジでおかしいだろ……。」

恐怖が混じった声。クラスメイトたちの笑いは消えていた。そこにあるのは疑念と恐怖だけ。彼女は無表情のまま彼らを見返す。そして――口元が大きく歪んだ。歯を剥き出しにし、頬を引き攣らせ、極端に吊り上げた笑み。音はない。声はない。けれども紛れもなく「笑っている」。

「やめろ……。」

「なんなんだよお前……。」

背後で震える声。クラスの空気が凍る。スロスはゆっくりと机に手を伸ばし、鞄を開いた。中から銀色の光が漏れる。ナイフの刃。蛍光灯の下で鋭く輝いた。

誰も動けなかった。息すら詰まったように静まり返る。

その時、スロスは机に手を伸ばした。鞄を開く。

銀色の光が漏れる。ナイフ。蛍光灯の下で刃が冷たく輝く。

誰もが固まった。動けない。声すら出ない。

スロスはゆっくりとそれを引き抜いた。指で刃をなぞり、光を確かめるように。

「っ……!」

前にいた一人のイカが悲鳴をこらえる。だが次の瞬間、スロスは刃を振り下ろさなかった。

代わりに――

ナイフを持った手をそのまま差し伸べ、イカの頬にそっと当てた。

刃ではなく、背の部分を。冷たい金属が皮膚を撫でる。

「……っ!」

イカの全身がびくりと震えた。刃先でないことは理解している。だが、わずかに角度を変えれば血が噴き出すと分かる距離。死がそこにある。

スロスは無言で見つめていた。目に感情はない。ただ無機質な闇が広がっている。

頬に押し当てられたナイフの冷たさと、笑みだけが異様に際立っていた。

「……やめろ、やめろよ……!」

イカが声を上げる。他のクラスメイトも椅子を鳴らしながら後退する。教室全体が凍り付いた。

スロスはナイフを離すと、何事もなかったかのように鞄に仕舞い込んだ。

そして再び口角を吊り上げ、音のない笑みを浮かべる。

誰も近づけなかった。誰も言葉をかけられなかった。

その日以来、クラス全体を覆ったのは「笑い」ではなく、「恐怖」だった。


朝の教室。

スロス・レクラムの机には、今日も誰かの悪意が積もっていた。机の中には墨を満たしたビニール袋が仕込まれており、椅子に腰を下ろせば破裂して全身が濡れるよう仕組まれている。表面には、インクで大きく「死ね」と殴り書きされていた。

誰もがそれを知っていた。クラス全員が、笑いをこらえて彼女が来るのを待っていた。

スロスが無表情のまま教室に入る。机を見て立ち止まる。その沈黙に、くすくすと笑い声が広がった。

彼女は何も言わず、椅子に腰を下ろした。ぶちりと音がし、黒い液体が破裂する。制服の裾がぐっしょりと濡れ、床に滴が広がる。

笑い声が爆発した。

「だっせ!」

「黒インクまみれ!」

「ほんとバケモノだな、似合ってんじゃん!」

しかし、スロスは表情を変えなかった。濡れた制服のまま、淡々とノートを広げる。彼女の口元が、ゆっくりと吊り上がる。音は出さない。

その笑みを見た者は一瞬だけ息を呑む。笑い声は一瞬揺らぐ。けれどすぐに別の悪意がかぶさり、また笑いに戻っていく。

チャイムが鳴り、担任のタコが入ってきた。黒板に教科書のページを書き出す。

その視線が、インクに濡れたスロスをかすめる。椅子から滴る黒い跡も、机に書かれた「死ね」の文字も、すべて目に入ったはずだ。

だが、教師は何も言わなかった。

一瞬の沈黙のあと、そのまま授業を始めた。

「はい、教科書32ページを開いて。」

教室中のイカタコが、含み笑いを押し殺して視線を交わした。大人も同じだ。

――見ている。だが、見ないふりをする。

それがこの学校の「当たり前」になっていた。

スロスは何も言わない。声を出すことすらしない。ただ、黒板を見つめながらノートに淡々と文字を記していく。濡れた袖口から水滴が落ちても、気に留めない。

教師は一度も注意しなかった。いじめを止めることもなかった。まるでそこに「イカではない何か」が座っているかのように扱った。

昼、給食のトレーを手にしたスロスの前に、新たな悪意が待っていた。

パンの袋には切れ込みが入れられ、中身は墨で汚されていた。スープ皿の底には錆びた画鋲が沈んでいる。

「うわ、マジで食うのかよ。」

「バケモノだから平気なんじゃね?」

クラスの数人が囃し立てる。

スロスは無言でパンを置き、スープを一口飲む。口の中に鉄の味が広がる。舌先に刺が触れる。血が滲む――が、すぐに消える。

「……っ。」

それを見ていた隣のイカが、微かに息を呑んだ。

血は確かに出たのに、もうない。痕跡すら残っていない。

「な、なぁ……。」

「……なんで平気なんだよ…。」

囁きが広がる。笑い声が揺らぐ。

スロスは淡々とスプーンを置き、無音の笑みを浮かべる。その笑顔が、誰よりも雄弁に答えを告げていた。

「怖……。」

「やっぱバケモノだろ……。」

その場の空気が冷え込む。

彼女は食事をやめ、トレーを静かに片付けた。まるで何事もなかったかのように。

放課後になっても、懲りないグループがいた。クラスの中心で、笑いの火を絶やしたくない連中だ。彼らは恐怖よりも好奇心に突き動かされていた。

「アイツ、殴っても蹴っても傷ひとつ残らねぇだろ。」

「じゃあさ……落としたらどうなんだよ。」

その夜、グループは校舎裏にスロスを呼び出した。理由は適当だった。「掃除当番が残ってる」とか「先生が呼んでる」とか。

スロスは黙って従った。何も疑わず、いや、疑っていながらも抗わないように。

屋上の扉を開けると、風が吹き込んだ。沈む夕陽が街を赤く染めている。

彼らはスロスを囲み、背後から押した。

「ほら、飛べよバケモノ!」

「死なねぇんだろ!? 証明してみろよ!」

抵抗する暇もなく、彼女の身体はフェンスを越えて宙に放り出された。

一瞬、風が切り裂く音が響く。スロスの視界が回転し、空と地面が入れ替わる。

ドン、と地面に激突した。鈍い衝撃が全身を叩く。血が吹き出す音が自分でも聞こえた。

だが次の瞬間には――すべてが元に戻る。散った体は音もなく繋がり、裂けた皮膚は滑らかに閉じる。

スロスはゆっくりと立ち上がった。制服につく砂をはらいながら。制服に皺は寄っていたが、身体には一つの傷も残っていなかった。

屋上から見下ろしていたイカたちは、言葉を失った。

「……う、嘘だろ」

「死んでねぇ……? あれ……。」

スロスは顔を上げた。

夕陽に照らされ、口元が大きく吊り上がる。声のない笑み。

屋上の影たちに、冷たい視線を向ける。その目に感情はない。ただ、全てを飲み込む虚無の奥に、狂気だけが残っている。

彼女はゆっくりと鞄から何かを取り出した。

――ナイフ。

刃が夕陽を反射して赤く輝く。

スロスはそれをひと振り掲げ、ゆっくりと頬に当てた。刃ではなく背の部分。冷たい金属の感触を自らの肌で確かめる。

そして、そのまま屋上に向けて一歩を踏み出す。

その仕草だけで、上にいたイカたちは悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

校庭に立つスロスの周囲には、もう誰もいなかった。

風が吹き、夕陽が赤く沈む。

彼女はナイフを静かに鞄に戻し、無音の笑みを浮かべた。

その笑顔は、誰も見ていない。

だが確かにクラス全体を蝕み、教師をも黙らせる影となって広がっていった。

――笑っているのは、スロスだけだった。

声もなく、音もなく。


夕暮れ時の村は、どこかねじれた静けさに包まれていた。瓦屋根にインク色の雲が垂れ込み、薄暗い街道には灯りがぼんやりと揺れている。遠くで子供の笑い声が響くが、その笑みには温かさも無邪気さもない。どこか壊れた楽器の音のように甲高く、耳に刺さる不快さを孕んでいた。

スロス・レクラムはその声を聞きながら、街道を歩いていた。目的はない。帰るべき家も、待つ者もいない。ただ、歩く。足音を響かせるたびに、舗道に染み付いた墨の汚れがわずかに光を反射する。

そのときだった。

「――カズ様が、おいでになるぞ!」

誰かの叫びが風を切ったように響いた。村人たちの反応はあまりに速かった。まるでその瞬間を待ち構えていたかのように、通りを歩いていたイカもタコも一斉に膝を折り、地面に額をこすりつける。誰もが両手を掲げ、涙を流す。

スロスはその光景を見て足を止めた。心臓の鼓動は変わらない。ただ、吐き気を覚えるような感覚が喉を通り過ぎる。

街道の先、霧のように漂う墨の影から、ひとりの影が現れた。

それが「カズ様」だった。

正体は分からない。イカでもタコでもない。形を持ちながらも輪郭が常に揺らぎ、瞳は深い空洞のように空虚で、それでいて全てを見透かしているかのような圧を放っていた。その存在が近づくだけで、村の空気は重く、呼吸すら難しくなる。

「カズ様! カズ様!」

「我らが救い主!」

「我らが神!」

住民たちは声を枯らして叫び、額を地に擦り付けて血を滲ませても止めない。身体を痙攣させながら、その名を呼び続ける。

スロスはそれを見ていた。

声は出ない。

カズ様が歩みを止め、最前列のイカに視線を落とす。

その瞬間、イカは狂喜したように叫び声を上げ、自らの頭を石に叩きつけ始めた。血が流れ、骨が軋む。だが止まらない。

「カズ様が、私を見てくださった!」

「ありがとうございます、ありがとうございます……!」

周囲の者たちも負けじと己の身体を傷つけ始める。爪を剥ぎ、頬を爪で裂き、墨を吐きながら笑う。

その姿は信仰というより狂気そのものだった。

スロスは立ち尽くしていた。感情は動かない。ただ、冷めた視線でその惨状を見下ろしていた。

――これが日常。彼女の生まれ育った場所で繰り返される、吐き気のする儀式。

カズ様は何も言わない。言葉を発することすらない。ただ視線を落とすだけで、村人は勝手に泣き、笑い、崇め、壊れていく。

やがて、一人の子供がカズ様の前に連れてこられた。まだ小さなタコの子供だ。両親らしき者が背中を押し、泣き叫ぶ我が子を前へと突き出す。

「カズ様! この子をどうか、お受け取りください!」

スロスの目がわずかに細められる。

彼女はもう驚かない。三年前、両親が「神に捧げる」という理由で殺されたときと同じ光景が、今また繰り返されているだけだからだ。

カズ様がその子供を見下ろす。影の手が伸びる。触れられた瞬間、子供の身体は光に包まれ、次の瞬間には霧散して消えた。血も肉も残らない。ただ、そこにいたはずの存在が「なかったこと」にされた。

両親は涙を流しながら地面に額を押し付ける。

「ありがとうございます……! ありがとうございます……!」

狂ったような感謝の声が夜空に響く。

スロスはその場から歩みを離した。吐き気が喉を焼く。だが顔には感情は浮かばない。口元だけが吊り上がり、無音の笑みが刻まれる。

背後ではまだ村人たちの狂信が続いていた。

カズ様の名を呼びながら、自分の身体を傷つけ、涙を流し、笑う。

その光景が、村の「平和」だった。

スロスの耳には、笑い声と泣き声が混じり合って響いていた。だがそのどちらも、彼女にとっては同じだった。――ただの雑音。


村には古くから一つの言葉があった。

「カズ様の名を忘れるな。名を呼ぶ者は救われ、名を疑う者は消える。」

子供のころから耳にしてきたその言葉を、村人は信仰として受け入れ、恐怖としても受け入れていた。信仰と恐怖は表裏一体。誰もがその意味を理解していた。

この村はかつて「干魃の村」と呼ばれていた。数十年前、川が枯れ、作物は実らず、住民は飢えと渇きに苦しんでいたという。村は滅びを待つばかりだった。そんな折、突如として「彼」が現れた。

――カズ様。

村の古老たちは語る。

空が裂け、インクのような雲が渦を巻いた。その中心から降り立ったのが「彼」だったと。形はイカタコのようでありながら、どこかそうではなく、触れてはならぬ何か。言葉を持たぬ存在。だが、その影が村を見下ろした瞬間、干上がった川底から水が湧き出した。畑には一夜にして芽が伸び、作物が実り、人々は飢えから解放された。

それは「奇跡」だった。

だが同時に、恐怖の始まりでもあった。

人々が歓喜してその存在に近寄ろうとしたとき、ひとりの男が言った。

「これは怪物だ。信じるな。」

次の瞬間、その男は影に触れられ、声もなく消えた。血も肉も残さず、「存在そのもの」が抹消された。

その瞬間を見た村人たちは震え上がった。救いの奇跡をもたらす存在が、疑念を抱く者を無慈悲に消す。

――それが「カズ様」だった。

以降、村は変わった。

毎年、収穫の時期になると、村人は収穫の一部を川辺に捧げた。すると必ず、影が現れ、村を見下ろす。捧げ物を怠った年は、一夜にして畑が枯れ、村の家屋が黒いインクに飲み込まれた。

信じる者は救われる。疑う者は消える。

それが村の「日常」になった。

子供たちは物心ついた時から、母親に抱かれながら教え込まれる。

「カズ様を信じなさい。そうすればお腹は空かない。でも疑ってはいけない。疑ったら、あなたはいなくなる。」

子供が泣きじゃくるたびに、親はその耳元で呪文のように唱える。

「カズ様が見てる。カズ様が聞いてる。」

村人にとってカズ様は神であると同時に監視者であった。夜眠る時も、畑を耕す時も、子をあやす時も、その影を忘れることは許されない。

やがて、「崇める」という行為そのものが村人の精神を形作るようになった。

それは「救いを求める祈り」ではなかった。

「恐怖から逃れるための習慣」だった。

だが、年月を重ねるうちに、人々の恐怖は徐々に形を変えていった。

誰もがこう思い始めたのだ。

――信じる者は救われるのではないか。

――カズ様に愛されれば、自分は他の者よりも強く生きられるのではないか。

その思考は村を狂わせた。

人々は競い合うように信仰を示すようになった。

祭壇に食物を捧げるだけでは足りない。血を流し、爪を剥ぎ、髪を焼き、自らの肉を供物とする者が現れた。彼らは「私の信仰は他の者より深い」と誇り、それを見た周囲の者もまた同じことを繰り返した。

次第に、信仰の証は「自己犠牲」から「他者犠牲」へと移り変わっていった。

親は子を、夫は妻を、友は友を捧げる。

「これでカズ様は我らを見てくださる。」

「これで我らは滅びぬ。」

恐怖と欲望が絡み合い、村は狂気へと沈んでいった。

スロスが見たのは、その末路だった。

笑いながら涙を流し、血を流し、己を傷つけ、隣人を差し出し、そしてなお「救い」と呼ぶ。

カズ様は一度たりとも言葉を発さない。

ただ見下ろすだけで、人々は勝手に意味を与え、勝手に狂っていく。

なぜ崇められるのか。

答えは単純だ。

彼らにとって「崇めること」こそが生きる唯一の方法だからだ。

もしも信じなければ、ある日突然「存在を消される」かもしれない。

もしも崇めなければ、畑が枯れ、村が滅ぶかもしれない。

だから崇める。

狂ったように、血を流し、涙を流し、笑いながら崇める。

それが何十年も繰り返されるうちに、恐怖は「日常」となり、狂気は「伝統」となり、崇拝は「文化」となった。

そして今日もまた、村人たちは叫ぶ。

「カズ様! カズ様! 我らが神!」

声が枯れ、身体が壊れてもやめない。

なぜなら、やめることは「死」だからだ。

スロスはそれを見ている。

心の奥底でただ一つの言葉を思う。

――くだらない。

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