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かつて、バンカラ街は眩しいほどに色鮮やかだった。
昼夜を問わず広場には音楽が鳴り響き、笑い声が溢れ、インクの飛び交う音は日常の一部となっていた。フェスの夜には街全体が光に包まれ、広場の中央に設けられたステージの上では人気のアイドルが歌い、群衆が熱狂した。どのイカもタコも、そこにいるだけで「自分はこの街の一部だ」と感じることができた。インクを武器に塗り合うことは、単なる遊戯であり、文化であり、そして誇りでもあった。
しかし、栄光の日々は長くは続かなかった。
気づけばフェスの参加者は減り始め、華やかな舞台も虚ろな照明だけを残していた。広場に集う群衆の数は日に日に減少し、やがてあれほど熱狂的であったフェスは、冷え切ったイベントと化した。参加者は極端に少なく、無理やり成り立たせたステージの上でアイドルが歌っても、返ってくる歓声はまばらで、街に響くのは寂しい空虚な音だけだった。
ナワバリバトルも、バンカラマッチも同じだった。
かつては数秒で埋まったマッチングも、今では参加者不足のために数十分、時には数時間を待たされる。やっと始まった試合も、熱気など欠片もなく、義務的に武器を振るうだけの消耗戦。インクを飛ばし合う喜びも、勝敗にかける情熱も、そこには存在しなかった。
街は確実に死にかけていた。
だが、それはただの衰退では終わらなかった。
その隙間を埋めるように、彼らが現れたのだ。
化物(チーター)と呼ばれる存在。
彼らは現実にはあり得ない力を振るった。
インクの物理法則を無視し、弾丸のように撃ち出す。通常ではあり得ない速度で移動し、あり得ないほどの硬さで攻撃を弾く。中には、インクを操るどころか、爆発や炎を生み出す異能を持つ者すらいた。イカやタコたちは彼らを恐れ、同時に嘲笑した。「現実にあってはならない力」――そう断じて。だがその力は紛れもない現実であり、しかも日増しに増えていった。
最初はバトルの場だけを荒らす存在に過ぎなかった。
だが、やがて彼らの中には「殺す」ことに快楽を見出す者たちが現れた。
ルールは無視され、命を奪うためだけの戦いが繰り広げられる。ナワバリバトルは血で染まり、バンカラマッチは狂気の舞台と化した。スプラトゥーンの名を冠するこの街で、インクの色に混じるように血の赤が広がるのを、多くの住民が恐怖に震えながら目撃した。
だが、街は何もできなかった。
「化物」たちの力は常識では太刀打ちできず、秩序は崩壊した。
イカやタコたちは一人、また一人と武器を手放し、街を出て行った。残った者も諦めに沈み、ただやり過ごすだけの生活を続ける。バンカラ街はいつしか、絶望を孕んだ廃墟のような場所となった。
そんな街の片隅に、一匹の少年がいた。
アマリリス。
彼はその目で、街の衰退と崩壊を見てきた。
幼い頃から愛されることなく、育ての親からは道具のように扱われ、罵声と暴力にまみれた生活を送った。義理の姉弟からは笑われ、学校では孤立し、ただ一匹、アスデム・グリードという友を除けば、彼に理解を示す者はいなかった。
そして彼は、大切な存在を奪われる痛みも知っていた。セリナ・コルヴィア。自分に想いを寄せ、正直に気持ちを伝えてくれた少女を、理不尽な大人の手によって失った。彼女の亡骸を目にした瞬間、アマリリスは声にならぬ叫びをあげ、心の奥で何かが決定的に壊れたのだ。
しかし、それと同時に彼の中で生まれたものがあった。
それは、冷たくも揺るぎない「決意」だった。
アマリリスは知っていた。自分の過去は決して消えない。
孤独も、絶望も、失った命も戻ることはない。
けれど、これから生まれる未来が同じ苦しみに沈むことを、彼は許せなかった。
「もう誰も不幸にさせない。世界の悪を、必ず滅ぼす。」
それは願いであり、誓いであり、そして彼自身の存在理由だった。
彼は誰かに愛されたかったわけではない。
誰かの期待に応えたいわけでもない。
ただ、これ以上「奪われる」ことを望まなかった。
そして、同じように傷つく者を放っておくこともできなかった。
その心に宿ったのは、かつて失ったすべてを繋ぎ合わせるかのような強烈な「正義」だった。
アマリリスは立ち上がった。
化物が支配するこの街を裁くために。
誰もが恐れ、諦め、背を向ける中で、彼だけは前に進むことを選んだ。
彼の宝物であるパソコンは、孤独な日々の中で唯一の光だった。ネットの海に潜り、情報を掴み、化物の存在を追跡する。準備は整っていた。彼の手はもう迷わない。
夜の街に足を踏み出す。
廃れたネオンがちらつくバンカラ街を、少年の足音が淡々と刻む。
その姿はまだ華奢で、どこにでもいるような一匹の若者に見えるかもしれない。
だが、その胸に宿る意志は鋼よりも硬く、誰よりも熱く燃えていた。
彼の名はアマリリス。
かつては孤独と絶望に沈んだ少年。
だが今は、街を救うための正義として立つ。
化物を狩る旅は、今まさに始まったばかりだ。
そしてその旅路の果てに、彼が見るものが希望か、それともさらなる闇か――
それを知る者は、まだ誰もいなかった。
静寂は、退屈を育てる。
退屈は、狂気を呼び寄せる。
スロスは、そのどちらにも支配されていた。
彼女は、よく笑う。だが声は出ない。喉を震わせることも、息を吐き出すこともない。ただ唇の端を吊り上げ、裂けるほどに歪ませる。無音の笑み。それは喜びの表現でもなければ、悲しみを隠す仮面でもなかった。ひたすらに、空白を埋めるための「反応」にすぎない。
足取りは怠惰。歩いているのか漂っているのかもわからぬほど、だらりとした姿勢でスロスは街を徘徊する。誰に呼ばれたわけでもない。行き先があるわけでもない。ただ、惰性で動く。呼吸するように。瞬きをするように。
――100年。
数えたことはないが、もうそれくらいは経っているはずだ。化物になってから。死なぬ肉体を得てから。傷が塞がるのは一瞬で、痛みは形を保てない。喉を掻き切られても、心臓を貫かれても、数秒と経たぬうちに血は止まり、肉は盛り上がり、皮膚が閉じてしまう。
「死ねない」というより、「死ぬことが成立しない」。
そんな身体を持つ彼女にとって、時間はもはや進まない。
季節が巡ろうと、祭りがあろうと、誰かが泣こうと笑おうと、スロスの目にはすべて同じ速さで流れていく。ゆっくりと、限りなく薄っぺらく。
退屈。
それが、彼女の世界の全てだった。
けれども。
ある日、ふとしたきっかけで、その退屈がほんのわずかに揺らいだ。
すれ違った化物の一人が、無意味にイカを斬りつけて笑っていた。その姿を見たとき、スロスの頬が震えた。喉は震えない。ただ唇だけが歪んでいく。無音の笑み。
ああ、まだ、遊べるかもしれない。
そう思ったのだ。
彼女は「正義感」で動かない。世界を救うつもりもない。むしろ世界などどうでもいい。ただ、「自分がまだどれほど戦えるか」。その確認がしたくなっただけだ。
ナイフの冷たい重みが、懐で静かに訴えかける。
いつでも抜ける。いつでも刺せる。
骨を砕き、肉を裂き、血を撒き散らすことができる。
そして、切り裂かれた己の肉体は、瞬きの間に再生する。
――殺し合いにおいて、自分は絶対に退場しない。
その確信が、狂気を後押しする。
スロスの歩みは止まらない。
彼女の目の前を、化物が通り過ぎる。腕から火を噴き出す者。背中に刃を生やす者。目に見えぬ力で他者を押し潰す者。どれもこれも、現実を裏切る力ばかりだ。
かつてなら怯えただろう。震え、逃げ、命乞いをしたかもしれない。
だが今は違う。
――くだらない。
声にならない思考が、脳内にぽつりと響く。
誰も気づかない。誰も聞かない。
ただスロス自身だけがその響きを味わう。
歩道に腰を下ろし、ぼんやりと空を見上げる。
空はどこまでも澄んでいる。だが、その澄明さでさえ、彼女には退屈の一部にすぎなかった。
だから、笑う。
音のない笑みを。
思い出す。
かつて、教室で自分を囲んだ同級生たち。机を奪われ、靴に画鋲を仕込まれ、背中に墨を浴びせられた日々。教師すら目を逸らした、滑稽で惨めな舞台。
彼らは知らなかった。自分がどれほど異常かを。どれほど死に損なえない存在かを。
そして――ナイフの冷たい背が、どれほど簡単に恐怖を刻むかを。
あの時、笑った。無音で。
泣きもせず、怒りもせず、ただ、笑った。
百年経った今も、その笑みは変わらない。
眼下に一人の化物がいた。
路地裏でイカの首を掴み、爪を突き立てている。犠牲者の目は恐怖に見開かれ、助けを求めて震えていた。周囲は見て見ぬ振りをする。誰も止めない。誰も叫ばない。
退屈。
再び、内側で言葉が響く。
立ち上がる。
怠惰な姿勢のまま、歩み寄る。
背筋は伸びず、足取りは緩慢。だが一歩ごとに空気が重く沈んでいく。
化物が振り返る。目が合う。
その瞬間、スロスの唇が吊り上がる。
声はない。ただ、深淵を覗き込んだかのような笑み。
化物の手が止まる。掴んでいたイカが逃げ出し、必死に走り去る。
残されたのは、化物と、スロスだけ。
「……なんだ、お前。」
問いかけ。
だがスロスは答えない。
懐から、ナイフを取り出す。
その動きに力強さはない。ただ怠惰に、だらりと持ち上げる。
刃先は光を弾き、沈黙の中に冷たさを刻む。
そして――無音の笑み。
化物の喉がひくつく。
その力がどれほど強大であろうと、今、この瞬間だけは「理解」してしまった。
自分が対峙しているのは、同じ[[rb:化物 > チーター]]などではない。
笑うことすら、狂気に侵された「なにか」だと。
ナイフの背が、頬に当てられる。
軽く、なぞるように。切り裂くことなく、ただ存在を示すように。
声はない。
だがその笑みだけで、十分だった。
化物の目が恐怖に濁る。背を向け、逃げ出す。
スロスは追わない。
ただ、その場に立ち尽くし、笑みを保ち続ける。
退屈が、ほんの少しだけ薄れた。
それで十分だった。
〈キャラ紹介のコーナー〉
アマリリス・フロルディア
イカボーイ。
厳格な性格の持ち主で、イカタコ不信。
彼には生みの親2匹と育ての親2匹がおり、生みの親はアマリリスが生まれてすぐに育ての親に引き渡した。(この事は育ての親から聞いたが理由を含めたこれ以上の説明はしてくれない)
育ての親は会社相続の為、(元々頭が良かったのもあり)アマリリスを勉強漬けにし道具のように扱う。それどころか姉弟が親にえこひいきする為、義理の姉弟にも相手にしてもらえない。テストで悪い点を取ればもちろん殴る蹴る、罵声の嵐、姉弟のくすくすと笑われる。死にかけたことも何度か。
学校でも勉強だけしていた為か、日頃のストレスを他の生徒で発散している為か、友達はアスデム・グリード1匹だけである。
ある時からくっつき告白までしてくれたセリナ・コルヴィアを父親に殺され家族全員の抹殺計画を立てたものの、当日に皆が姿を消した。
数十年の時を経て、自分だけでなくもう誰も不幸にさせまいと[[rb:化物 > チーター]]を裁く為立ち上がった。
スロス・レクラム
イカガール。
怠惰な性格で、悪く言えばめんどくさい奴。ただ(余程のことがない限りキレないが)キレた際は狂気な顔で笑う。 彼女と仲良くすることはほぼ不可能。 やる気もないのにナワバリバトルをしていた理由は不明。
中性的で幼い見た目をしているが「ボーイみたい」「子供っぽい」などと言うとキレる。
彼女は「再生のチーター」。 あらかじめ切っておいた小指を家に保存しておく事で、万が一死んでもその小指から再生する事で実質的な「不死身」を確立している。 子供っぽい見た目なのは化物になった瞬間にそこから成長が止まってしまうから。
街と村の中途半端な間である場所で生まれ最初こそは豊かな感情だったが、時々現れるようになった「カズ様」と言う謎の存在に次第に洗脳されていく街の人々に吐き気を催し感情が死んでいく。父母共に3年前に「神に捧げる」というとんでもない理由で街のイカタコに殺された。その時、完全に感情が死んでしまった。通う学校でも、頭もよく運動神経もいいスロスをいじめの標的にし教師は見て見ぬ振りをしていた。
自分がどれ程この超能力バトルについていけるか、自身が化物になってからやく100年程たち、久しぶりに好奇心が湧き、世に蔓延るチーターを狩っていくことになった。
〈用語解説コーナー〉
化物とは
現実にはあり得ないような力を得たものの総称。いわば超能力者。外見での判別は不可。
メタ的な話をすると、あまりスプラトゥーンから逸脱しないように(超能力の時点である程度逸脱してるが)能力は控えめなものを多くする予定。