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お互い仕事が終わって、まずは私が部屋に帰り、そして、樹が帰宅した。
これは決して当たり前じゃない。私達の関係性はやっぱり微妙なまま。それでも、これがまるで普段の生活かのように、ごく自然に食事が始まった。
今夜のメニューは、ボロネーゼ。
前に1度作ったことはあった。ネットとにらめっこしながら、さらに美味しくなるように頑張った。
その甲斐あってか、樹はそれを絶賛してくれた。
お店のよりも美味しい――
その言葉で、天にも登る気持ちになった。何でも得意な樹に褒められるとすごく嬉しい。
また次も頑張って作ろうと意欲が沸いた。
これが、世の中の奥さん達の思いなのか?
仕事から帰ってくる旦那様のために、毎日毎日温かい食事を作って待つ――
それって……かなり大変なことだ。ましてや、自分も仕事をしていると、家事との両立は難しそうだ。
そんな大変なこと、私にできるのかな?
私は、もっと女性としての自分を磨かなければならない。まだまだ修行が足りないと反省した。
「ご馳走さま。柚葉、無理しなくていいけど……でも、たまに……こんな美味しいの作ってくれたら、すごく嬉しい」
「う、うん。まだまだ勉強中なんだけど……美味しいものが作れるように挑戦するね」
どんなに苦手なことも、樹の励ましがあれば頑張れる気がした。
食事が終われば、また2人だけのおしゃべりの時間が始まる。
樹の口からどんな言葉が飛び出すのか、なぜだか全てにドキドキしてしまう。
「柊さ……今すごく仕事頑張ってる。必死な姿を見てたら、無理して体壊さないか心配になる」
「柊君、また頑張り過ぎてるんだね。体調大丈夫なのかな?」
「何度言っても、大丈夫だって言うから。あいつは昔からそうなんだ」
柊君、私も体のことは心配だよ……
無理する柊君を、私は誰よりも知ってるから。
「あいつのことは俺が見てる。だから心配しなくていい」
「うん……お願い」
「柚葉……」
「……?」
「俺、柚葉のこと、ずっと前から知ってた」
えっ?
何? どういうこと?
「あの日、空港で会う前から、本当は……お前のこと知ってたんだ」
「えっ……私達、会ったことあった……?」
樹は首を横に振って、そして、言った。
「実際に会ったのは、あの時が初めてだ。でも、そのずっと前に、柊から柚葉のことを聞いてた」
「……」
「柊からもらった手紙に、柚葉と柊の写真があって。その時に俺はお前を知った。その後も柊から柚葉の話をいろいろ聞いてた」
「そうだったんだ……。全然知らなかった」
「柊は、柚葉のこと本当に嬉しそうに話してた。優しくて可愛いんだって。でも、俺、お前の話を聞くうちに、まだ会ってもいないお前にどんどん惹かれてしまって……。おかしいよな、そんなの」
嘘みたい……
そんなことって……
「お前らの写真を半分に切って、柚葉のだけをコルクボードに貼り付けてた。ごめん、気持ち悪いよな」
「き、気持ち悪いなんて……。でも、なんか信じられない」