「ネロ。大丈夫か?」
暖かい低い声が背後からして、驚いて振り返ると同時にネロの視界がぐるんと回った。
おっと、とゆっくりした声と裏腹に素早く手を伸ばしたレノックスは倒れる寸前のネロを抱きあげて歩き出した。
「ちょ、、降ろせって」
「だが、熱がある。」
「…わかってるよ」
そう、自覚はあったのだ。
こうもぼーっとした頭では朝食を作るのにもいつもより時間がかかってしまいそうで、今日は簡単に作れるもので、、と考えていた矢先だった、
レノックスが朝の鍛錬から帰って来たのは。
「フィガロ様のところに行く。」
行こう、と言う提案ではない。
行く、と言う決定事項。
落ち着いた声に、焦っていた気持ちがすっと冷めていく。
「…ありがとな、正直どうしようかと思ってたんだ」
いつになく素直に口から出た感謝の言葉に、自分でも驚きながら。
その大きな胸に安心して顔を寄せた、
孤独感が紛れる気がして。
熱があるから、ただそれだけと自分に言い聞かせて、
羊飼いの服の袖をぎゅっと掴むと、わずかに息を呑むような間の後、優しく抱え直されたのを最後に記憶は途切れた。