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8 - 第8章 揺れる剣 囁く光

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2025年06月30日

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 王の命によりノアの名は禁じられた語となった。

 人々はその名を口にした瞬間、なぜか意味を忘れ、記憶が曖昧になる。


 王の能力《深層制律》

 それは命令の絶対性を無意識下に刻み込むものだった。


 


 「このままでは、声の戦いに負ける」


 


 ノアは、箱舟の地下戦略室に集まった契約者たちの前で言った。


 


 彼らの前の壁面スクリーンには、王都各地の監視映像が映し出されていた。

 人々は静かに働き、買い物をし、生活している。

 だがその表情に、かつて見られたわずかな覚醒の光は消えていた。


 


 「言葉で届かないなら、他の方法で記憶に焼き付ける。

  民衆が再び気づくための象徴を創る」


 


 契約者No.3、記憶操作の男・シエルが呟いた。


 


 「直接、脳を操作する王の能力には正面からは敵わない。

  だが、視覚や感覚、反復記憶を通じた“刷り込み”には一定の耐性があるはず」


 


 ノアは頷く


 


 「今回は映像と数字を使う。

  誰にも消せない形で疑問だけを植え付ける」


 


 彼らが実行したのは、「言葉を使わない演説」だった。


 翌朝、王都各地の建物の壁に、突如数字が投影され始めた。

 【3456】唐突な数字。それだけ。


 誰も意味を知らない。

 が、その数字は毎日変化していった。

 【3578】、【3721】、【3894】……


 


 市民たちはざわつき始めた。


 


 「これ、何の数字だろう?」

 「テレビでもネットでも説明してない……でも、気になる」


 


 やがて、匿名のネット空間である書き込みが流れる。


 


 > 「あれは、失踪者の数じゃないか」

 > 「いや、各地区ごとの沈黙した声を数えてるんだ」

 > 「ノアの演説で言ってた声なき人々か?」


 


 ノアという単語は検索不能となっていた。

 だが、人々はその象徴仮面、マント、数字を通して意味を感じ始めていた。


 王宮。会議室。

 白冠騎士団と幹部たちが、数字の映像拡散について報告していた。


 


 「まるで言葉を使わず、思考を誘導している……!」


 


 レオナール団長が苦々しくつぶやく。

 ミレイユは黙ってその会話を聞いていた。


 


 「ノアの手法は、もう演説ではない。芸術、数字、絵、行動すべてが意味に変わっている」


 


 そして数日後、王都の巨大ビルにあの映像が出現する。


 夜、無音の空間に突如現れた黒い影。

 仮面の男が、何も語らずにろうそくに火を灯す。


 1本、2本、3本……そしてその数は100本を超えた。


 やがて火は風で吹き消されていく。

 1本、2本……そして、1本だけ残った最後の炎が、画面中央に残される。


 


 そのときだけ、わずかに字幕が浮かぶ。


 


 > 「最後の光を消すな。それが、君だ」


 


 言葉を語らず、意思を伝える。

 誰にもノアという名前は出ていない。

 だが、国中の誰もが、その仮面の意味を理解していた。


 その翌日


 ミレイユは騎士団の訓練場の壁に、こっそり刻まれた数字を見た。


 【4032】


 


 「昨日より増えてる……」


 


 隣の隊士が訊ねた。


 


 「それ、何の数字かわかるか?」


 


 ミレイユは答えなかった。

 だが胸の奥で、あの雨の日の声が、再び甦っていた。


 


 > 「願いは、言葉を持って初めて世界に届く」

 > 「でも、言葉を奪われたとき、願いはどこに宿る?」


 


 彼女は剣を握りしめた。

 もう、命令だけでは心が従わなくなっていた。


 


 (あの仮面の男のやり方は、狂っている。だが……)


 


 (…間違っていないかもしれない)


 一方、王は苛立ちを募らせていた。


 


 「ノアを語る者はいない。だが……ノアを語らないという形で民が団結し始めている」


 


 臣下の一人が震えながら報告する。


 


 「仮面の映像を見た者の一部に、能力の深層制律が効かなくなっているようです……!」


 


 王の目が細まる。


 


 「……ならば次は、象徴そのものを断て。

  この国にマスクを許すな。

  黒を着る者を見つけ次第、拘束せよ」


 


 言葉の封鎖が、象徴の弾圧へと移行し始めた。

 火は、灰になる前に炎となる。


 その夜、箱舟。


 ノアは一つの提案を出す。


 


 「次は民衆の中にまぎれた仮面たちを使う。

  俺だけがノアではない。仮面とは、誰の顔にもなれるという意味だ」


 


 契約者たちは静かに頷いた。


 誰か一人の英雄に頼る時代は、終わった。

 誰もが願いを抱く者となったとき国の構造は、音もなく崩れていく。


 



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