テラーノベル
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光で出来た純は母親の懐に飛び込んでこう言った。
「お母さん。その世界でもまた僕を産んでくれる?」
「ええ、当り前よ……」
涙声でそう言って純のお母さんは光で出来た純をギュッと抱きしめる。マリア観音が純のお母さんの頭の上に手を置いて告げる。
「では旅立つがよい」
その瞬間、純のお母さんの姿はその場からかき消えた。何の前触れもなくあっという間に消えてしまった。
今までもさんざん信じられない物を見て来た俺だが、今度のはもう次元が違う。こんな事が、こんな事が本当に存在するなんて。でも、これで戦いは終わった。俺の胸に美紅の体が倒れ込んできた。あはは、さすがのこいつもほっとして気が抜けたんだろうな。
「おい美紅。もうだいじょ……」
その時俺はやっと気がついた。美紅はもう息をしていなかった。左胸のナイフが刺さった部分から真っ赤な血が流れて白いセーラー服の上着を染めていた。俺は地面に膝をつき、脚の上に美紅の体を抱えて、頬をはたき肩をゆさぶり、そして……だがもう何をしても美紅は何の反応も示さなかった。
「おい美紅。目を開けてくれ。よせよ、うそだろ、冗談だろ……こんな、こんな……」
マリア観音が俺たちのそばへ近づいて来る。これはやはり俺たちの味方じゃないのか? 俺の視線に気づいたのだろう。マリア観音は両手を広げ、またまばゆい光の塊に戻り、そしてまた別の形に収斂する。それはギリシャ神話に出てくるような女神の姿だった。
「あ、あんたは何なんだ? 隠れキリシタンの神様じゃなかったのか?」
そう叫ぶ俺にその女神は穏やかな声で答える。
「私はいつの時代も変わらぬ一つの存在である。だが、その時代その土地の人間たちによって様々な姿と名前を与えられてきた。遠い昔の西洋の地では人は私をこのような姿として見、大地母神ガイアと呼んだ」
またその光が次々に形を変える。その度にその光で出来た何かはこう言った。
「少し後の世の西洋では聖母マリア……東洋の地では観音菩薩……古代エジプトではイシス……アジアの南ではシヴァ……汝の国ではアマテラス……」
まるで万華鏡のように次々と姿を変えるそれを俺は茫然と見つめていた。そしてそれは最後に沖縄の民族衣装を着た女性に似た姿に変わり、こう言った。
「私は幾千年もの間、愛と慈悲を求めそれにすがる人間たちから様々に違う姿を与えられ、様々な名で呼ばれてきた者。されど、ここは琉球の地なれば、今は女神アマミキヨと名乗ろう」
こ、これが美紅の言っていた沖縄の女神なのか! でも世界各地の神話に出てくる女神たちと実は同じ物? そんな事ってあるのか?
俺の心を見透かしたように、いやきっと俺の心が直接読めるのだろう、その女神はこう続ける。
「時代や土地や国や民族が違えど、人の心が求める物に変わりはない。平穏を願い、愛する者の無事を、幸福を願う心に違いはない。そして親が子を想う心もまた同じ。私は定まった形を持たぬ存在ゆえ、見る者によって違う姿に見える。だが、私は常に同じただ一つの存在であった。人間が編み出した宗教という物の違いに応じて、様々な姿と名前を与えられてきたにすぎぬ」
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