テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,231
#ワンナイトラブ
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
謎は解けても再び謎を呼ぶので、フレームレスのベッドからそろりと降りる。
運良くベッド脇のサイドテーブルに自分の眼鏡を見つけると、肌触りのいいラグの上に丁寧に正座をした。
心地よいスプリングのマットレスに手を着いて家主と思われる人物の寝顔を焼き付けるよう見つめる。
会社でこんな贅沢出来ないし、そもそもこんなシチュエーション二度と無いだろうから。
小さく聞こえる寝息さえもを独り占めするのが申し訳なくて、ずるずるとベッドの縁に隠れる。
だけどやっぱりもう少し見ていたくて目元だけちょこんと出した。
一昨年の今頃。
初々しいはずなのに誰よりも熟れていて、時には先輩を指摘する彼の教育係を押し付けられた私は、少しの重圧で胃に穴が開く思いをした。
嫌味なのにこの顔面の良さで帳消しにしちゃってたんだよなぁ。
人生でこんなイケメンと四六時中行動した事のない私は気が緩めばヨダレが垂れそうで、必死で無表情を徹底していた。
今日のこれはドッキリ?違うよね、隠しカメラとかないよね?
辺りをぐるりと見渡してもそれらしきは無いので、再度目に幸せを与えようとじぃっと寝顔を見つめると、自然と意味合いの違ったため息が漏れる。
とおった鼻筋、長い睫毛、右の目じりにポツンとある涙黒子、キメ細やかな肌。いつ何時もかっこいいってちょっとずるい。
でも、こんなイケメンを地上に産み落としてくれて、ありがとうございますご両親……!!
拝みながら、見たことも見る予定もない人達に感謝をする。
で、この人と、事後って、そういうこと……?
痛いというか、重いというか、久しく感じない甘ったるい倦怠感。熱が冷めきってないような、二日酔いの名残のような。疼きが残る、下腹部の奥。
うん、してる。シちゃってる。
ちょうど真上に当たる部分を擦りながら確信すると、同時に後ろめたさも生まれる。
というよりも、その前に、だ。
私、なんで覚えてないの……!?
振り出しに戻る。
勿体ないでしょ私、なんで断片すら覚えてないの!?
こんなイレギュラー、私の人生でこの先二度と起こらないだろう緊急イベントなのに。
最早浮気された事よりそっちを思い出せない方が悔しくなってきた。
なので再度、こめかみに手を当てて記憶を掘り起こした。
昨日、玄関の扉を閉めて沸騰しそうな頭をどうにか落ち着かせようとも、浴室からは艶のある嬌声が響き始めたので耳を塞いで部屋に上がった。
やたらと騒ぐ心臓、息をする肩、足音を消して忍び込んだ自分の家。
私の足跡だけが惨めに整理された部屋は自分の部屋では無いみたい。だけど、どうしてか見覚えがあった。
そうだ、旺くんが掃除をした後は決まって私の荷物は必ず一箇所に纏めてあったのを静かに思い出したのだ。
掃除とか、洗濯とか、自分から進んでする人だから、将来も分担して家事出来たらなぁって、淡い夢見てた自分が愚かで情けなく、指先は震えた。
ソファーに唯一残る女物のバッグには、去年入社したばかりの女性社員のIDが下がっていたので、熱がすぅっと冷めた。
……その後…確か…
浴室から聞こえる声を無視して簡単に荷物を纏めて、部屋干し用のつっかえ棒を外して、お風呂場の扉が開かない様に設置して、合鍵残して家を出て……
おお、凄い。昨日の事ように思い出してきた。
いや、実際数時間前のことなのだけど、随分と時間が経過した出来事のようだと錯覚する。