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#ヒューマンドラマ
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第二部私だけの1人の彼氏 第8話:弟は姉に勝てない、狂愛のバレンタイン
父が不倫相手のもとへ去り、母が心を閉ざした風宮家。かつての幸福な面影は消え失せ、家を支配しているのは姉・桃の鋭い声だった。 「詩音! いつまで寝てるの、起きなさい!」 強引に首根っこを掴まれ、詩音は痛みと共に目を覚ます。今日はバレンタイン。世間が浮き足立つ日だが、今の詩音にとって、それは姉という「監視者」の目を盗むための命がけの日だった。
学校では、親友の黒沢と山下が、女子と話す詩音を「人を殺すような目」で見つめていた。 「よー、風宮。女子からチョコ14個も貰った裏切り者くん」 「犬のフンに滑って死ね」 嫉妬に狂う友人たちの視線に晒されながらも、詩音はある一人の女子から特別なチョコを受け取っていた。それはかつて詩音が助けた、大切な「光との約束」を果たすための希望だった。
家に帰ると、待っていたのは桃の「持ち物検査」だった。 「全部出しなさい。……これ、全部チョコ? あんた、女心を弄んじゃダメって言ったよね!」 桃は詩音が必死に守ろうとしたチョコを、無慈悲にゴミ箱へと捨てた。 「勝手に捨てるな!」 「……何、その反抗的な態度は?」
桃の瞳が暗く沈む。彼女は詩音の首を締め上げ、呼吸困難になるまで力を込めた。 「あんたは一生私の弟なの。女子となんか関わらなくていい。将来も私とずーっと一緒に住むの。わかった?」 「……はい」 恐怖に屈するしかない詩音。しかし、彼の心には一筋の反逆の火が灯っていた。
一ヶ月後、ホワイトデー。詩音は桃の目を盗み、密かにやり取りしていた女子とついに付き合い始めた。 (これで、光との約束が果たせる……!) 喜びを胸に帰路につく詩音。しかし、駅のホームで待っていたのは、大学を早退してまで監視に来ていた桃だった。
「……正座して」 家に戻るなり、桃の狂気が爆発した。詩音が隠していた「彼女」の存在を知った彼女は、泣き叫びながら詩音を壁に押し付ける。 「なんで私だけを見てくれないの! パパもあの泥棒猫女に盗られた。あんたまでいなくなったら、私はおかしくなっちゃう!」
首を絞められ、ビンタをされ、愛という名の呪縛に雁字搦めにされる詩音。 「別れるって言いなさい! 言わないならもっと酷いことをするわよ!」 桃の震える声と、執着の涙。その重圧に、詩音の精神はついにポッキリと折れた。 「……わかったよ、姉さん。別れるから……」
「やった! 嬉しい……詩音、大好き!! ずっと、お姉ちゃんと一緒にいようね」 狂喜して抱きついてくる姉の体温を感じながら、詩音は絶望の淵で、ただ心の中で叫んだ。
(神様……お願いです。僕を過去に戻してください。……どうか、お願いします!)
しかし、どれだけ願っても時間は戻らない。 かつての親友も、かつての恋人もいないこの現実で、詩音は「姉」という永遠の牢獄に閉じ込められた。
(つづく)
今回の物語のポイント
* 「窒息」のメタファー: 愛良が物理的に美羽を殺したのに対し、桃は詩音の「心と自由」を窒息させる形で描写しました。
* 絶望の深化: 自分の居場所を求めて戻った「本当の家族」が、結果として「逃げ場のない牢獄」になるというアイロニーを強調しています。