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うわ、この30話、すごく重くて静かで、でも確かに熱が通ってる回でしたね……。 「はじめまして」というタイトルが、この緊迫した電話の場面で逆に効いてくる。スピーカー越しに伝えた「はじめまして」の冷めた落ち着きと、そのあと堰を切ったように溢れる本音のギャップに、読んでるこっちの心臓がぎゅっとなりました。特に「彼のことは本気で好きでしたか?」と聞くところ、21歳でここまで冷静になれるものかと、驚くと同時に胸が痛みました。 最後の「ありがとうございました」で線を引く潔さ、時計の音だけが残る余韻が、とても綺麗で切なかったです。読後感がずっと尾を引く、いいエピソードでした。
家のドアを開けると、ヤマは朝と同じ場所で正座をしていた。
顔色は真っ青で、目もほとんど合わない。
私は荷物を置いて、静かに言った。
「電話して。」
ヤマは小さく頷き、震える手でスマホを握った。
もちろん、スピーカーのまま。
数回のコール音のあと、電話が繋がる。
「どうしたぁ〜ん?」
甘えたような女の声が部屋に響いた。
胸の奥が熱くなる。
怒りなのか、悲しみなのか、自分でも分からなかった。
私は聞こえるように言う。
「まだ寝ぼけてるなら、顔洗ってきてって言って。」
ヤマは小さく息を吸ってから口を開いた。
「朝言ってた話やねんけど。」
「うん、大丈夫やで。」
当たり前のような返事だった。
「浮気がバレてん。」
少しだけ沈黙が流れる。
「俺は遊びのつもりやった。」
「彼女とは別れたくない。」
「だから、もう連絡せんといてほしい。」
電話の向こうから聞こえたのは、短い返事だけだった。
「……わかったぁ。」
あまりにも呆気ない返答に私は呆然とした。
私はヤマからスマホを受け取った。
自然と背筋を伸ばしていた。
「はじめまして。」
驚くほど落ち着いた声が出た。
自分でも不思議だった。
最初に聞いたことは、一つだけ。
「彼のことは、本気で好きでしたか?」
少しだけ間が空く。
「……うん。多少は。」
その一言を聞いた瞬間、不思議と怒りが少しだけ消えた。
この人だけを責めるのは違う。
結婚していたわけでもない。
好きになってしまったなら、奪いたいと思う気持ちも分からなくはない。
「中途半端な男を放ってすみませんでした。」
私はそう伝えた。
でも、二十一歳だった私は、それだけでは終われなかった。
胸に溜め込んでいた悔しさも。
怒りも。
悲しみも。
全部、言葉になって溢れた。
自分でも驚くくらい、止まらなかった。
最後に女の謝罪を聞いて、私は静かに言った。
「ヤマに代わります。」
スマホを渡す。
「謝って。」
その一言だけを伝えた。
ヤマは震える声で謝罪をした。
電話の向こうから、小さく「はい。」と返事が聞こえる。
私は最後に、
「ありがとうございました。」
そう言って電話を切った。
部屋には、時計の音だけが響いていた。
東 桃子
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