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ストーンゴーレムの討伐を終えて馬車に戻ると、御者のブルーノさんが興奮気味に出迎えてくれた。
「お疲れ様でした! 遠目で見ていましたが、凄かったですね!
最初の2体の瞬殺劇!! さぞかし名のある剣士様なのでしょう!!」
……あ、ルークが『剣士』から『剣士様』にランクアップしてる。
「ははは。私はC-ランクのしがない冒険者ですよ」
「え……? あの強さで……?」
ルークの返事に、ブルーノさんは意外そうな表情をした。
実際のところ、ルークの冒険者ランクが低いのは依頼をこなせていない、っていうのが理由だからね。
たくさん依頼をこなしていけば、いずれは強さに見合ったランクにはなるとは思うんだけど――
……私とずっと一緒にいたら、上がるものもなかなか上がらなさそうだ。
その点については、毎回申し訳なく思ってしまう。
「ところで私たちは昼食にしようと思うんですけど、ブルーノさんはどうしますか?」
「私は自分の分は持ってきていますよ。
お客さんたちは大丈夫ですか? 荷物がやたらと少ないですけど」
「あ、ご心配なく。私がアイテムボックスを持っていますので」
「なるほど、それならかさばる荷物も安心ですね!」
「ええ、本当に助かってます。
それじゃエミリアさん、お手伝いをお願いします。ルークは火を起こしてー」
「はーい」
「はい」
今日のために用意していたものは特に無かったけど、『循環の迷宮』のときのお料理がもう少しだけ残っていた。
アイテムボックスの中は時間が流れないから、いつでも問題なく食べることが出来るのだ。
……とは言っても、さすがに今回でおしまいになっちゃう感じかな。
エミリアさんには食べる場所を作ってもらって、ルークが起こしてくれた火でお料理を温め直して――
「……お客さん、凄いことをやってますね……」
「え?」
気が付くと、私たちはブルーノさんに驚きの目で見られていた。
「いや……、こんな出先で、そんな料理を用意しちゃうんですか……?
良いですね……。自分のと比べると、何だかこう……」
そう言う彼の手には、大きなパンが1つあった。
もう片方の手にはジャムの瓶を持っている。私としては、それくらいの食事でも十分良いと思うんだけど――
「もしよろしければ、ご一緒しませんか?
もう1人分くらいはありますので」
「えぇー! 良いんですか!?
それじゃ、お言葉に甘えて! ああ、それなら私も手伝いますよ!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。三人で役割分担が出来ているので。
座って待っていてください」
「す、すいません……!」
私たちは恐縮するブルーノさんの前で、てきぱきと食事の準備をしていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――美味っ!?」
エミリアさんも気に入っているププピップのお料理を頬張ると、ブルーノさんは驚きながら言った。
しかしブルーノさん、よく驚く人だなぁ。
「そのお肉、美味しいですよね。
錬金術師ギルドの特別メニューなんですよ」
「錬金術師ギルドの? ……なんで錬金術師ギルドが?」
確かにお料理のことだし、急にそう言われても困っちゃうか。
「錬金術を使って研究しているお肉なんです。
食堂には試験的に卸しているみたいですよ」
「へぇー……。私も王都暮らしは長いですけど、まだまだ知らないことがあるものですねぇ……」
裏を返せば、私が知らない王都もまだたくさんあるということだろう。
王都に滞在してから2か月以上が経つけど、見ることが出来ていないものはなかなか多いと思うし。
「気に入ったら是非、錬金術師ギルドの食堂にも寄ってみてください。
あ、お茶もどうぞ」
「ああもう、ありがとうございます!
しかしこのパーティは良いですね。超強い剣士様と司祭様、それに一家に一台レベルの錬金術師さん!
一見何かが足りなさそうに見えて、でも上手く完結していますよね!」
「あはは……」
ちなみに、私だけが親しみのある感じになっているのは何故だろう。
……まぁ、一家に一台っていうことだし、深く考えるのは止めておこう……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王都に戻る頃には、辺りは少し暗くなり始めていた。
でも、テレーゼさんとの待ち合わせにはまだ2時間くらいあるから、それを考えれば余裕で戻れたことにはなる。
ブルーノさんには昼食のお礼ということで、冒険者ギルドの前まで馬車に乗せていってもらった。
本当は街門のところまでの約束だったから、この気遣いは地味にありがたいところだ。
「――お疲れ様でした。
こちらがストーンゴーレムの討伐報酬になります。ご確認ください」
冒険者ギルドの報告用のカウンターで、担当の係員から今日の報酬を受け取る。
3体の討伐で金貨6枚。敵の強さの割には安い気もするけど、過疎ってる採石場だったし、それも仕方ないだろう。
金貨6枚から馬車代を引いて――……まぁ、そこそこの収入にはなったかな?
「さて、少し時間があるけどどうしましょう。
一旦お屋敷に戻っても良いですが、たまには冒険者ギルドを見ていっても良いですね」
「それなら食堂に寄ってみませんか?
今はどんなメニューがあるのか、興味があります!」
「では少し休憩していきましょう。
夕飯は用意してもらっているので、飲み物だけ頼んで時間を潰す感じで」
「はーい、賛成ですっ!」
「分かりました」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルド内の案内に従って進んでいくと、休憩所と食堂を兼ねた大部屋に辿り着いた。
「先日も少し来たんですけど、ここは冒険者の溜まり場になっているんですよね」
「わたしも久し振りに来ました! ふむふむ……、昔と変わっていませんねー」
エミリアさんは懐かしむように周りを眺めていたが、しばらくすると、その視線は季節限定のメニューに釘付けになっていた。
何とも彼女らしいというか――……何とも微笑ましくなってしまうというか。
「――あれ? アイナちゃんじゃん! 久し振りー♪」
「え?
……あ、こんにちは!」
突然の声に振り向くと、そこには冒険者パーティ、|紅蓮の月光《クリムゾン・ムーン》の四人が立っていた。
「こんにちは! そっちの司祭様はアイナちゃんの仲間?」
「はい、ずっと一緒に旅をしてるんですよ」
「へぇ~、そういう仲間もいたんだ。ちょっと残念……」
「え?」
「リーダーはアイナちゃんを仲間に引き込もうとしていたからね。
……あ、もし良ければ二人でうちに来ない?」
「いやいや……。それに私のパーティにはもう一人いますから」
「え、そうなの? 紹介して!」
「分かりました。ルーク、ちょっと来てー」
「「「「え?」」」」
「え?」
四人の驚きの声に、私も驚きの声を上げてしまう。
「アイナ様、どうされましたか?」
「うん、ちょっと前に知り合った冒険者の人たちなの。紹介しておくね」
「そうですか。
初めまして、ルークと申します」
ルークは爽やかに挨拶をするが、挨拶をされた四人はどこかぎこちない。
私とエミリアさんが女の子だから、もう一人も女の子だと思ったのかな……?
「は、ははは……。
初めまして、|紅蓮の月光《クリムゾン・ムーン》のリーダーのリーダーです」
「……え?」
「ああ、こちらの方は『リーダー』っていうお名前なの。
立場的にリーダーもやってるから、『リーダーのリーダーさん』」
「なるほど、良い名前ですね。
今後ともよろしくお願いします」
「良い名前……? そ、そう言われたのは初めてかもしれない……」
リーダーさんは自分の名前を褒められて、何だか少し照れていた。
「……それにしてもアイナちゃんって、凄い剣士と組んでるんだね……」
「ほんと……。うちのリーダーとナガラじゃ、ちょっと格が違うね……」
ルークたちが挨拶をしている横で、|紅蓮の月光《クリムゾン・ムーン》の女性二人は小さな声で話していた。
確かにルークは最近、パワーアップイベントをこなしてきたばかりだからね。
そんじょそこらの冒険者とは、比べるわけにもいかないだろう。
……もしかして最初に四人が驚いたのって、レベルの違いを察したからなのかな?
一目見ただけでそう感じるのは、やっぱり冒険者としての勘所なのだろうか。
私は何も思わなかったから、少し負けた気がしたかもしれない……。