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中央のテーブル。
そこに、皿いっぱいのクッキーが
置かれていた。
(……露骨だな)
すちは一瞬だけ立ち止まったあと、
何事もなかったかのように席につく。
一枚手に取り、匂いを確かめてから
——口に運んだ。
甘い。
普通の、どこにでもある味。
「……」
全員の視線が集まっているのが分かる。
すちは気にせず、もう一口かじった。
その時。
「……すち」
らんの低い声。
「平気で食べてるけど……
毒とか、考えないのか?」
すちはクッキーを咥えたまま、
ちらりとらんを見る。
「考えてるよ」
咀嚼して、飲み込む。
「でも、プレイヤーもお腹はすく。
そこら辺は一応、配慮されてる
みたいだから」
そう言って、もう一枚取ろうとした
——その瞬間。
「……っ」
手元が空になる。
「え?」
思わず声が出た。
見ると、みことがそのクッキーを
掴んでいた。
少し震える手で。
「ご、ごめんなさい……」
みことは目を伏せたまま、早口で続ける。
「お腹空いちゃって…でも食べるのは
怖くて……すちくんが食べてるやつなら、
大丈夫かなって……」
一瞬、沈黙。
(……なるほど)
すちは困ったように眉を下げ、
それから軽く息を吐いた。
「あぁ……そういうことね」
怒りはない。
むしろ、理解。
「まあ、怪しむのは生き残れる可能性にも
繋がるから」
肩をすくめる。
「別にいいよ」
みことは、ほっとしたように
そのクッキーを一口かじった。
(完全に信用したな)
すちは、内心で静かにメモを取る。
改めて、別のクッキーに手を伸ばした、
その時。
また、手元が空になった。
今度は、迷いがなかった。
いるまだ。
何も言わずにクッキーを取り、
一口だけ食べる。
それから、何事もなかったかのように
—— 机の下で、なつにそれを渡した。
なつは一瞬戸惑い、
それから小さく頷いて受け取る。
(……なるほどね)
すちは、ようやく全部を理解した。
みことは「すち」を基準に安全を測る
こさめは、それを見てさらに安心する
そして、いるまは——
(自分で確かめてから、
大切な相手に渡す)
合理的で、冷静で、
一番信用できる判断。
すちは、何も言わずにその様子を眺めた。
(……最終候補、確定)
テーブルの上には、
まだ手を付けられていないクッキーが
残っている。
誰も、すぐには取らなかった。
甘い匂いだけが、
この場の不信を、よりはっきりと
浮かび上がらせていた。
すちは、クッキーを前に固まっている
こさめに気づいた。
(……1枚も食べてないよな)
そっと距離を詰め、
皿から一枚取って差し出す。
「大丈夫……美味しいから、食べてみな」
こさめが一瞬、戸惑ったように
目を瞬かせる。
「……いいの?」
「もちろん」
小さく笑うと、こさめは安心したように
受け取った。
「ありがとう」
ぱく、と一口。
次の瞬間、頬がふわりと赤くなる。
こさめは身を寄せ、
すちの耳元で小さく囁いた。
「……この味、美味しい」
「よかった」
すちは自然な動作で、
こさめの頭を撫でる。
柔らかく、守るように。
——その様子を、黙って見ていた
視線があった。
「……あんな、ゆっくりしすぎじゃない?」
らんだった。
すちは手を下ろし、穏やかに答える。
「いいんだよ。まだ時間は5時間はあるし」
「らんらんも食べる?」
「まぁ…頂くけどさ」
らんがもらったクッキーをたべる。
テーブルに視線を落としながら、続ける。
「こうやってゆっくりしてるとさ……
見落としてたもの、
ふと思いつくことも あるかも」
その言葉に、らんの表情が変わった。
「……あ」
何かに気づいたように立ち上がる。
「まだあるじゃん。探してない所」
そう言って、らんはクッキーの
皿を持ち上げた。
その下 —— 鍵。
「おぉ!あったあった」
嬉しそうに声を上げ、鍵に手を伸ばす。
その瞬間だった。
「——ちょっと、重要なものの近くには
トラップが——」
すちが言い切る前に、
鋭い音が空気を裂いた。
8⁄23
一瞬の出来事。
らんの頭に矢が刺さっていてその場で
崩れ落ち、動かなくなる。
鍵だけが、床に転がった。
——沈黙。
みことの顔から、血の気が引く。
「……ぁ……」
声にならない声。
目の前の現実を、受け止めきれない表情。
10⁄23
一方、こさめは一瞬だけ視線を伏せ、
静かに顔を背けた。
(……冷静だな)
すちは内心で、そう思う。
そして、いるま。
何も言わず、
机の下からそっと手を伸ばし、
なつの目を塞いでいた。
なつの小さな息遣いだけが、聞こえる。
(……)
すちは、床に落ちた鍵と、
動かないらんを交互に見た。
(……一人目、か)
表情は変えない。
声も、震えない。
ただ、確信だけが深まっていく。
——このゲームは、
“ゆっくりしている時間”すら、
選別のために使う。
そして、
それを一番よく分かっているのは——
(俺だ)
ーーー
床に座り込んだみことが、
らんの方へ向き直る。
震える指を揃えて、
ぎこちなく手を合わせていた。
「……」
その光景を見て、すちは一歩近づく。
声は低く、でも強くはしない。
「みこちゃん……それ、
やめといたほうがいいよ」
みことが、びくっと肩を揺らす。
「え……?」
「今は、ね」
すちは視線をらんから外し、
みことを見る。
「らんらんにはやった。でも、さ」
一拍置いて、言葉を選ぶ。
「これから先、他の人が脱落した時に……
同じように、毎回手を合わせられる?」
みことの喉が、小さく鳴った。
「……それが、できなかった時」
すちは静かに続ける。
「“あの時はやったのに、
今はやらなかった”っていう
その小さな差が、誰かに見られる」
誰も口を挟まない。
いるまも、
なつの目を塞いだまま動かない。
「こういうゲームってね」
すちは、少しだけ目を細める。
「命そのものより、
一貫性のない感情のほうが、
不利になることがある」
みことの手が、ゆっくりと下がる。
「この先、手を合わせる暇なんてない
状況も来るかもしれない」
淡々と、事実だけを並べる。
「その時、今の行動が足を引っ張る
可能性もある」
みことは唇を噛みしめ、俯いた。
「……ごめんなさい……」
「謝る必要はないよ」
すちはすぐに言った。
「“やめといたほうがいい”ってだけ。
判断するのは、みこちゃんだから」
そう言って、床に落ちた鍵に視線を戻す。
(……理解したかどうかは、別として)
でも、
この一言で——
みことは感情を抑える癖を覚える。
周りは、すちを冷静で正しい人だと
再確認するそれで十分だった。
すちはすかさず鍵を拾い上げ、
軽く音を鳴らす。
11⁄23
「じゃあ、切り替えよ」
誰も反論しない。
らんのいた場所には、
もう誰も目を向けなかった。
ーーー