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すぐに切り替えて部屋に出て
鍵の合う部屋を探す。
ようやく見つかってーー
鍵が合う感触は、拍子抜けするほど
あっさりしていた。
「……開くよ」
すちがそう言って回すと、
重い音を立てて扉が開く。
中は——五角形の部屋だった。
無機質な壁とレバー。
天井は高く、柱もない。
逃げ場のなさが、形そのものに
表れている。
全員が中に入った、その瞬間。
——ガンッ
背後で、扉が勝手に閉まった。
「……え?」
反射的に、すちがノブに手をかける。
回す。引く。叩く。
びくともしない。
「……まじか」
誰かが小さく呟いた。
次の瞬間、
天井から——雨音。
ぽつ、ぽつ、ではない。
最初から、はっきりとした降り方だった。
「……雨?」
みことの声が震える。
すちはすぐに視線を落とした。
床。角。壁際。
(……ない)
一瞬で、理解する。
「……ちょっとやばいね」
すちは声を張らず、でもはっきり言った。
「早く見つけないと」
全員を見る。
「この部屋、排水口ないみたいだし」
雨は止まらない。
床に水が溜まり始める。
ほんの数センチ。
でも、それが確実に増えていくのが
分かる。
こさめが靴先を見て、息を詰まらせる。
「……上がってきてる」
いるまは周囲を見回しながら、
短く言った。
「壁か、天井か……どっかに抜け道あるな」
「ある前提で動こう」
すちはすぐに頷く。
(ここで“ない”と考えたら、終わりだ)
水音が、さっきより大きくなる。
五角形の部屋が、
少しずつ閉じていく感覚。
すちは頭の中で、即座に切り替えた。
(……ここからは、スピード勝負)
視線が、自然と全員に配られる。
誰が動けるか。
誰が遅れるか。
誰を、引っ張るか。
——そして、
誰を、置いていくか。
「…みこちゃんは俺と一緒に
床探してくれない?」
すちは静かに言った。
「時間、そんなにない」
雨は、答えを待ってはくれなかった。
どこを探しても、何もなかった。
壁を叩いても、床を踏んでも、
天井を見上げても。
隠し扉も、通気口も、数字も印もない。
水位だけが、静かに、
確実に上がっていく。
(……詰みかけてるな)
すちの視線が、最後に残った一点へ向く。
壁に取り付けられた、レバー。
「……このレバー引くしかないかな、もう」
言葉にした瞬間、空気が張りつめる。
いるまが、即座に反応した。
「これでどうもなんなかったら」
短く、でも焦りを隠せていない声。
「この雨が積もるまで待機」
一拍置いて、続ける。
「泳げないやつは……」
言葉を選ぶ余裕がない。
「脱落、しかないね」
「ッ…まじかよ」
いるまが歯を食いしばる。
視線が一瞬、なつに向いたのを、
すちは見逃さなかった。
(……どっちだ)
(自分か、なつか。泳げないのは)
すちは何も言わず、レバーに手をかける。
——動かない。
「……固くて無理だ」
もう一度、力を入れる。
それでも、びくともしない。
水が、足首に触れた。
「……みんなで一斉に引いてみていい?」
すちの提案に、全員が無言で頷く。
13⁄23
それぞれ位置についてーー
「せーの」
力を込める。
——動かない。
金属が軋む音だけが、虚しく響いた。
その時、すちは気づいた。
レバーの根元。
片手だけを通せる手錠。
(……そういうことか)
「これをはめて、
レバーを下げる方法しか」
すちは静かに言う。
「もう、残ってなさそうだね」
沈黙。
こさめが、はっきりと震えた。
手を胸元で握りしめ、唇を噛んでいる。
「……」
誰も、名乗り出ない。
水は、くるぶしを越えた。
その沈黙を破ったのは——
「……やってみるぞ」
なつだった。
全員が、息を呑む。
「なつ?」
いるまが思わず名前を呼ぶ。
なつは、視線を逸らしたまま続けた。
「ここで、誰も動かなかったら……
それこそ、終わる」
声は震えている。
でも、逃げてはいない。
「なつ待て…俺が先につけr」
いるまが言う前になつは一歩前に出て、
迷いながらも——最初に手錠をつけた。
金属音が、やけに大きく響いた。
すちは、その横顔を見ていた。
(……覚悟、決めたか)
それとも——
誰かを守るためか。
水位は、もう膝に近づいている。
この選択が、
誰の生死を分けるのか。
——答えは、すぐに出る。
続いて、いるま、すちも無言で
手錠をつけた。
こさめは少しだけ躊躇ったものの、
意を決したように急いで手錠をはめる。
最後にみことも、震える手で同じように
手錠をつけた。