それから数週間が過ぎ、朋也さんは無事に退院した。
もう痛みもないようで、いつもの変わらない朋也さんだった。
社長もその姿を見てホッとしたようだった。
仕事も周りが全力でフォローし、朋也さんが関わっていたプロジェクトも大成功した。
もちろん私のチームも――
夏希は、すごく朋也さんのことを心配してくれていたし、私のこともずいぶん気遣ってくれた。
アシスタントカメラマンとして、朋也さんの分もかなり頑張っていたことは、きちんと朋也さんにも伝えた。
夏希は、いつか必ず立派なカメラマンになる。
私はそう確信していた。
梨花ちゃんは、しばらく仕事を休んでいる。
病欠ではないようで……一体どうしたのだろう。
その理由は誰も知らない。
確かに、コピーライターはたくさんいる。
だからこそ、才能のある無しは別として、仕事を休むことはマイナスになる。
ましてや、梨花ちゃんにはコピーライターとしての素晴らしい才能があるのに、万が一、クビになったりしたらもったいない。
でも、今の私には正直、会社に来ない梨花ちゃんを励ますすべはなかった。
それに……きっと私なんかに励まされたら余計に嫌だろう。
そして、菜々子先輩。
先輩は……会社を辞めた。
菜々子先輩も殺人教唆の罪で逮捕されるかもしれない。警察での取り調べで疲弊しているようだとも聞いた。
もし、逮捕なんてされたら……
エリートだった菜々子先輩の人生が破滅する。
ただ、もしお兄さんが勝手にやったことだと罪を免れたとしても、先の人生は厳しいものになるだろう。
私は、菜々子先輩と先輩のお兄さんを許すことはできない。朋也さんにあんなひどいことをしたのだから、絶対に許せるわけがない。
菜々子先輩と梨花ちゃん、才能のある2人がどうしてこんなことになったのか――
自分にも責任の一端があるような気がして、私の心の中から2人のことが消えることはなかった。
2人への思いは複雑だ。
だけれど、人を恨んで生きていくような人生は嫌だ。
そんな人生はとても虚しい。
朋也さんも、そう思っている。
今すぐに菜々子先輩を許すことはできないけれど、それでも……
菜々子先輩も梨花ちゃんも、自分らしく仕事ができて、前に向いていけるようになればいいなと……
応援できるような自分になりたいと思った。
縁があって一緒に頑張ってきた人達だから。
朋也さんはというと、無事に仕事に復帰してから毎日とても忙しく過ごしている。
あまり無理はしないようにとの配慮で、今は仕事のスタイルを大きく変えて、社長と一緒に動くようになった。出張や会議などに参加し、経営陣に混ざって頑張っている。
今は社長の家に戻って、いろいろとお父さんから指導を受けているみたいだ。
お父さんを助けて頑張っている朋也さんは偉い。
少し寂しいけれど、今は忙し過ぎて私を構うどころではないだろう。
それでも、忙しい合間を縫って、朋也さんはたまに連絡をくれる。
「元気か?」とか、「ちゃんと食べてるか?」とか、まるで私のお父さんみたいに。
「一人暮らしを満喫してます!」
と、ちょっと負け惜しみを言ったりしている。
私は、朋也さんとはまだ付き合っていない。
告白されたけれど、あれから、改めて何も言われていない。
私もあの事件をきっかけに、朋也さんのことが好きだとわかったけれど、朋也さんはそのことも聞かない。
今はただ1日1日を大切に過ごしたい。
気持ちは複雑だけれど、いろいろなことに感謝して、前に進みたいと思った。
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