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そんなことを考えていると携帯が鳴った。
メールの受信、朋也さんからだ――
忙しい合間にメールをくれたんだ。
『恭香、今度の日曜日、久しぶりに一緒に出かけないか?』
嬉しい……
だけど、私と会う時間なんてあるのだろうか?
今の朋也さんの状況は、よくわかってるつもりだから。
あんな事件があって、社長は急に心配になって朋也さんをすぐ近くに置くようになった。
社長だけではなく、朋也さんだって、積極的に社長の近くで経営を学ぼうとしているような気がする。
やはり大きな心境の変化があったんだろう。
あの事件がいろいろ変えた。
私も、そうだ。
でも、この誘いはやっぱり受けたい。
大事な時だとわかっているけれど……
なぜか絶対に断ってはいけない気がした。
『嬉しい、ありがとう。日曜日、大丈夫だよ』
返信した途端、朋也さんからすぐに返事がきた。
『良かった。11時、そっちに車で迎えにいく』
日曜日は、私の誕生日――
でも、あまり期待はしないでおこう。
ただ、朋也さんに会えるのがすごく嬉しい。
***
日曜日の朝、私は早くから起きて出かける用意をした。
いつもより念入りにオシャレしている自分が少し恥ずかしいけれど、久しぶりのお出かけにテンションが上がるのは仕方がない。
昨夜のうちに、部屋を綺麗に片付いていた。
準備は万端、忘れ物もない、大丈夫。
私は、戸締りをして、マンションの下に降りた。
11時前――
「おはよう」
「おはよう。今日は誘ってくれてありがとう。忙しいのにごめんね」
「そんなこと気にしなくていい」
「うん」
目の前にいる朋也さんは、今日もキラキラ眩しくて、超一流のモデルのようだ。
あった瞬間から、私をドキドキさせる。
「さあ、車に乗って」
朋也さんの優しい声、私の好きな声。
朋也さんは、紳士的にドアを開けてくれ、私は助手席に座った。
名前はよく知らないけれど、すごくカッコ良くて中が広く、乗り心地は最高だ。
「久しぶりだね、こんなふうに出かけるの」
「すまない。いつも忙しくしていて」
「ううん……大切なお仕事だから、仕方ないよ。朋也さんが頑張っている姿を見るととても嬉しいから。だけど、退院してからお仕事の内容、急に変わったもんね。体は大丈夫なの? 無理してない?」
「心配してくれてありがとう。俺は大丈夫だ。無理もしていないし、仕事は楽しい。学ぶことがたくさんあって大変だけど、今は前よりも元気なくらいだ」
目の前に元気な朋也さんがいる。
それだけで充分幸せだった。
「良かった、元気になって本当に嬉しい。それに今日も……こんなふうに誘ってくれてありがとう。ちょっとびっくりしたけどすごく嬉しいよ」
「ずっと、恭香とちゃんと話せてなかったし、メールも返事がなかなかできなくて……。中途半端になるのが嫌だったから、あまり送れなかった」
「うん。大丈夫だよ。毎日夜中までお仕事だったんでしょ。そんなのメールする暇なんてないよ。それでも、たまにくれたメールがすごく嬉しかった。文章がお父さんみたいだったけど」
「ひどいな、本気で心配してたのに」
朋也さんとの何気ない会話がとても嬉しくて、幸せな時間を満喫していた。
「私のこと、心配してくれてたんだね。ありがとう」
「当たり前だ。忙しくしていても、いつも恭香が心の中にいてくれたから、俺は頑張れたんだ。そうじゃなければ、とっくに折れてた」
そんな……
でも、そんな風に言ってもらえて感激だ。
本当に大変な世界だと思う。
大会社の跡取りになるんだから、簡単にはいかない。
想像もできないくらいの重圧なんだろう。
そこに立ち向かって、しかも仕事が楽しいなんて、朋也さんは本当にすごい。
こんなにタフな人、私は他に知らない。
「ちょっとは役に立てたんだね。それなら良かった」
「ああ、いつだって、お前は俺を支えてくれた。それがどれだけ力になったか。でも、逆に俺は……恭香を支えてやれなかったな」