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結局、私が「たかひろカフェ」に行ったのはその一度きりだった。

翌月ちょっと時間が空いたときに店の前まで行ってみたのだが、ガラス戸には「DEGITAL-TATOO」というよく意味がわからない貼り紙がはってあり、店内は薄暗かった。

目を凝らしてよくよく中を見てみると、テーブルも椅子も壁のロリドルポスターも動物を模したバネの乗り物も消えていた。

試みにドアを引っ張ってみたが、やはり鍵がかかっていた。

私は近隣の人々に「たかひろカフェ」がいつ閉まったのかたずねて回ったが、誰もそれを知らなかった。ある朝突然ああなっていたのだという。

彼らはケムリのように消えてしまったのだ。


***


コーヒーを飲むときまって、私は「たかひろカフェ」で飲んだ《カラ・ルアク》の味を思い出す。

いや、実のところを言えば、あれが本当に《カラ・ルアク》という品種のコーヒーであったのかは定かではない。

あの甘味をもう一度味わいたくなって、インターネットで取り寄せてみようとしたことがあるのだが、そんな豆はどこでも取り扱っていなかったのだ。

「そりゃ、担がれたんだよ」と話を聞いた友人は笑った。「どうせ希少なコーヒーだからとかで、高かったんだろう?」

「確かにね」、私はコーヒーカップをかき混ぜながらこたえた。「高級ホテルのコーヒー一杯分はした」

ブラック派だった私は、今では角砂糖を2783個は入れないと気が済まないようになっている。《カラ・ルアク》のような味わいをそこに求めてしまうのだ。あの日、母性を感じたあの甘さを。

「きっとキッチンであらかじめ甘くしておいてから、持ってきたんだな」と友人は言った。

「あとは単純な話、君みたいな味音痴が引っかかってしまうわけさ。『飲んだことがない味だぞ、こりゃ確かに独特だ』って具合にね。着手金詐欺と同じ、ぼったくりだよ」

「でも、あれは砂糖とかシロップのような甘味じゃなかったぜ」と私は抗議した。

「あの甘さは、もっと得体のしれない……なんというか、UNKNOWNな舌触りだったんだ」

友人は鼻で私を笑った。


***


これはただの想像だが、きっと彼らは今もどこかで「たかひろカフェ」を開いているのだろう。

ある日突然「UNDER CONSTRUCTION」という貼り紙とともに店が出来上がり、その中には少し鼻の大きいハンサムな店主と、4匹の唐澤貴洋がいるのだ。

扉を開けた客の前には、動物の遊具に乗ったり寝たりアイスを食べたりロリドル鑑賞をしたりしているたかひろたちがいる。

彼らは客にすこしも注意を払わないし、客はそれを眺めたって眺めなくたってよい。

そして注文を取りに来た店主は、素敵な微笑を浮かべてこう言うのだ――「コーヒーでしたら、当店自慢の《カラ・ルアク》など、いかがでしょう」。


それはよく晴れた冬の日曜日の午後に訪れるには、この上もなくふさわしい場所のように思える。

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