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夜。うりの部屋の照明は落としてあって、デスクの上の小さなスタンドライトだけが灯っていた。
ノートパソコンを膝に置いてキーボードをカチカチと鳴らし編集をするえと。
ソファの端に腰を下ろすと、
ブランケットがずり落ちる音がして、
隣からうりの手が伸びた。
「寒い?」
「ううん、大丈夫」
返事をした瞬間、
その手がえとの指を絡めた。
細くて、温かくて、
そのぬくもりが、心まで温めてくる。
付き合って、もう三ヶ月。
喧嘩もしていない。
不満もない。
ただ──
メンバーに隠しているこの関係、いつまで続けられるのだろうという不安だけが毎日気持ちを落ち込ませる。
沈黙が流れる。
エアコンの音と、外を走る車のライトが窓をかすめる。
編集のせいで少し疲れたような目をしているえとを見てうりがブランケットを直して、
えとの肩にそっと掛け直す。
背中が少しだけ重い。
長時間の作業のせいもあるけど、
静まり返った夜の空気が、体の奥にまで入り込んでくるせいもある気がした。
「もう寝る?」
うりが優しい声で問いかけてくる。
フードの影から覗いた目は眠そうで、
けどその指先は、えとの手首をそっと包み込むように触れた。
「うーん、もうちょっと。データの保存だけ」
「じゃあ終わるまで待ってる」
「いいよ、先寝てて」
そう言って笑うと、
うりは少し唇を尖らせて、けど何も言わずにソファの背にもたれかかった。
スタンドライトの明かりが柔らかく照らして、
そのままえとの肩に頭を預けてくる。
こういうとき、
言葉がなくても安心できる。
お互いの忙しさも、
考えていることも、
全部は分からなくてもいいと思えるような、
そんな静かな時間。
「ねえ、明日って朝から撮影?」
うりの声が、
布に吸い込まれるように小さく響く。
「うん。ゆあんくんと回すやつ」
「あぁ、あれか」
会話のテンポは緩やかで、
まるで何度も繰り返したような自然さだった。
けど、うりのまつ毛の影が
少しだけ伏せられるのを、えとは見逃さなかった。
「どうしたの?」
「んーん。なんでもない」
ほんの少しの間。
それだけの沈黙が、
えとの胸の奥に波紋をつくった。
でも、責めるような気持ちはまったくない。
うりの優しさを知っているからこそ、
その“なんでもない”を、
ちゃんと信じたいと思った。
「じゃあ、保存終わったら一緒に寝よ」
えとはそう言って、パソコンに視線を戻す。
カタ、というキーの音。
隣で、うりがえとの手を離さずにいる。
ずっと、ずっとこの時間が続けばいいのにな。なんてこと、もう何度考えただろうか