翌朝。カーテンの隙間から差し込む光が、えとのまぶたをくすぐった。
まぶしくて目を細めると、隣で寝息を立てているうりの姿が見える。
彼の腕が自然と自分の腰に回されていて、
夜のあたたかさがまだ残っていた。
うりの体を少し揺さぶって起こす。
すると半分寝たような声でおはようとだけ伝えてきた。
まだ寝ぼけたままの顔が、少しだけ子どもみたいで、えとは思わず笑ってしまう。
この関係を誰にも知られちゃいけない──
そう分かってるのに。
こうして隣にいると、それを忘れてしまいそうになる。
「起きて、うり。みんなもう起きてるかも」
えとが小さく声をかけると、うりは目を細めながら「んー、あと5分」と返す。
それを聞いて、えとはふっと息を漏らした。
それでも、うりの髪を指先で軽く撫でてから、そっとベッドを離れた。
廊下に誰も居ないのを確認してから部屋をでる。
リビングに出ると、もう何人かが動いていた。
「おはよー、」
最初に声をかけてきたのはゆあん。
髪を少しだけ寝ぐせのままにして、お茶を片手にキッチン側からでてくる。
ここでコーヒーじゃないのがやっぱまだ子供だなあと感じる。
「おはよー、ゆあんくんいつもより早いね」
「なんか、もふくんが掃除機かけてて音で起きた」
「うわ、朝から元気すぎ」
えとが笑うと、キッチンの奥から「聞こえてるぞー !」と声が返ってきて、
その声にみんなが笑った。
テーブルのほうでは、なおきりとひろがテレビのニュースを見ながら話している。
「どぬちゃんまだ寝てんの?」
「たっつんも。てかあのふたり、昨日も夜更かししてたでしょ」
「だよなぁ」
自然な流れで、えとは何気なく答える。
「うりもたぶん、まだ寝てる」
その一言に、なおきりが「うりも?」とだけ返して、
すぐ話題はまた別の方向へ流れていった。
誰も怪しむことなく、何気ない会話のひとつとして。
えとはキッチンに向かってトーストを用意する。トーストを置いた皿にコーヒを両手に持ってリビングに戻ると廊下から微かに足音が聞こえてくるのがわかった。
すると間もなくまだ寝ぐせのついたままのうりが、ゆっくりとリビングに入ってくる。
「…おはよ」
目を擦りながらソファーに座っていたえとの横に腰を下ろす。
「眠そ〜 」とひろが笑いながら声をかけ、
「うり、パン食べる?」とえとが聞く。
「うん、半分ちょうだい」
短いやり取りの中で、
ふたりの間にだけ流れる静かな空気。
朝から賑やかなリビングにそんなふたりの空気はバレることのないものだった。
しかしその何気ない会話や空気感に、
えとの左側に座っていた
ゆあんの視線が一瞬だけ止まる。
「俺もトースト焼こっかな」
ひろが言いながら席を立つ。
「あ、俺も」
思い出したかのようにゆあんが自然に続くと、
「みんなパン派だな」とじゃぱぱが笑い、
キッチンのあたりが一気に賑やかになった。
笑い声と話し声がまざって、
シェアハウスの朝は、いつものように穏やかに流れていく。
えとは、
この穏やかでどこか柔らかい雰囲気が好きだった。
秘密を抱えたままでも、
みんなの中にいられる今が、心地よくて。
その中、ふと感じる視線の先には、
何かを言いたげに笑うゆあんがいた。
うりだけがその視線を感じ取っていたがあまり気にせず、その場の雰囲気にいつも通り溶け込んでいた。
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