私達はこの世界の未来を知っている。だからといって何かが変わるわけではないけれど。
私達の目の前には幾つもの扉がある。そのどれもが同じに見える。
私達に与えられた選択肢は一つだけ。選ぶことを許されたのはたったひとつだけ。
この先に待つ結末はわかっている。それでも私達が選んだ道なのだから仕方が無い。
「また来世で会えるといいわね」
彼女はそう言って笑うのだ。
私達の前には一つの扉しかない。そこにあるのは果てしない暗闇だけだ。
私達に許されたのはこの道を進むということだけだった。
僕たちはもうすぐ死んでしまうんだろう。
君たちと過ごす時間は本当に楽しかった。
ありがとう。君たちのおかげで僕はここまで生きてこられた。
でも、それもそろそろおしまいみたいだよ。
僕の身体がだんだん動かなくなってきているんだ。
ほら、見てみてよ。こんなに血が出てる。
僕はこのまま死ぬんだろうか。それとも別のなにかに変わってしまうのか。
どちらにせよ、ろくなことにはならないと思うけど。
もし生まれ変わったとしたら、今度はどんな姿になるんだろう。
わたしはずっとここにいたわ。あなたを待ってたの。でもあなたはいなくなっちゃった。だからあなたを探しにきたの。
もうすぐ夜が明ける。
ぼくたちが最後に見たのと同じ夜明けがくる。
この瞬間だけは現実を忘れられる。
ああ、なんて美しい光景なんだろう。
こんな日がまた訪れるとは思ってもみなかった。
おれの人生ってほんとうに最悪だったからなぁ。
でも、やっと終わる。これで終われる。
最後の審判のときが来たのだ。
これから起こることがすべて終わったら、そのときこそすべてがはじまる。
それがどういうことなのかはわからないけど、いまはそれしか考えられない。
その先にあるはずのものを求めて、ただ歩き続けるだけだ。
おれはこの手で世界を終わらせなければならない。そのために生れてきた。それこそが生きる意味なのだから。
なにもかも忘れてしまいたかった。だが記憶は決して失われることはなかった。
思い出すことだけが救いとなった。
おれはいったいなにをしているんだろうか? なにもしていないのか? それともしている最中なのか? わからなかった。
それでも、おれはまだ生きている。
なすべきことをするために、まだこうして存在している。
それならば生き続けようと思う。
たとえどれほど苦しんでもかまわない。
なぜ? そんなことも考えたことはなかった。
ただ生きていたかっただけなのかもしれない。
あるいは死にたくなかっただけなのかもしれなかったが、それもいまとなってはよくわからない。この身体にはもう自分のものではない記憶が染みついてしまっているから。
その女はとても綺麗で賢くて優しい女性だったが、わたしにとっては恐ろしい化け物にしか見えなくなっていた。
「大丈夫だよ、わたしがついているから。安心して」
彼女は優しく微笑む。しかしそれがかえって恐ろしかった。いつまた襲われるかと思うと夜も眠れなくなる。だから常に彼女を監視している必要があった。
「あなたは悪くないわ。悪いのはこの人なのよ」彼女の夫が憎かった。こんな醜悪な人間が存在していることが許せなかった。彼女を苦しめたあげくに捨ててしまったのだ。絶対に殺さなければならないと思った。だがそれはできなかった。彼女が望まないからだ。それに自分が殺したら意味がないではないか。彼女に復讐させなければならない。そのために自分は存在しているはずだ。
ある日のこと、とうとう我慢できなくなって家を出た。行き先なんてどこでもよかった。とりあえず遠くへ行こうとしただけだ。
駅に着くまでに日が暮れていた。そこでようやく冷静になった。いったいどこへ行くつもりだったのか。あてもなく電車に乗り込んでしまい、それから途方にくれた。どこか適当な駅で降りようと思っていたのだが、気がつくと知らない街にいた。見知らぬ風景が広がっている。ここはどこだろう。まるで見当もつかない。
しばらくお休みなさい、また会いましょう。さよならは言わないわ。だって、わたしたちもう会えないんだもの。
夢を見るために眠るなんて変だと思わない? ねえ、眠らなくても夢を見れるとしたら、あなたはどっちを選ぶかしら? この世には二つの道しかないわ。ひとつは目覚めている間ずっと歩きつづける道。もう一つは眠っている間にだけ辿り着ける道。どちらも同じくらい素晴らしいけど、どちらをえらぶかはその人次第。わたしは迷わず後者をとるわ。
現実なんてくだらないもの。夢こそがすべて。だから夢の中の世界ではわたしが一番偉いの。
あなたたちみんなは、わたしの夢の中に迷いこんだ哀れな虫ケラってこと。ふふっ。でも安心して。ちゃんと助けてあげるから
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