湊は学生時代の友人に会いに行っていた。
だが、帰宅予定時刻をとうにすぎているのに湊は帰って来ない。
心配になったシンは、何度もLINEも電話をしているのだが湊から返答はなかった。
日付が変わる頃やっと湊から電話がかかってきた。
「湊さん!何処に居るんですか?!」
「シンのば〜〜〜か…」
「…お酒呑んでます?」
「呑んでねーよ…これは……魔法の水だぁぁ〜笑」
「……完全に呑んでますね…ってか確信犯です……」
「ケラケラ…笑……魔法の水…うま〜笑」
「で、今何処にいるんですか?」
「さぁ?………何処でしょう 笑」
「ふざけないできちんと答えて下さい!今何処にいるんですかっ!!」
「おっきい声出すなよ〜………さて…」
「……?」
「問題です。名探偵シームズくん、湊さんは何処にいるでしょう!」
「なんすかその、名探偵シームズくん、って。名探偵ホームズのパクりですか?」
「なんだよ…シームズ、って…ケラケラ…笑」
「あんたが言ったんだろっ!」
「ストーカー慎太郎くん。湊さんは何処にいるでしょう?笑」
「はっ?名探偵じゃねーのかよ……」
「んなもんどっちでもいいのっ!30分以内に見つけてごらんなさい…笑」
「ふざけんなよ、おっさん!」
「あ〜美味い水だな~ケラケラ…笑」
「おいっ!」
「ぷっはぁ〜…」
「待ってろよ!絶対見つけるからそこ動くなよ!」
「あ〜風が気持ちいいなぁ〜……ケツ冷っめてぇ〜ケラケラ…笑」
笑いながらプツッと電話が切れた。
「おいっ!………」
暗くなった画面を見ながら
「ふざけてんなよ……湊晃!」
そう言ってシンはダッシュで家を飛び出す。
まずは、コインランドリーに向う。
店は閉まっていた。
「…いない……」
人がいる気配はない。
ーー商店街?
殆どの店は閉まっていて、開いている店内を覗くが湊はいない。
ーー海か…?
急いで向うが、やはりここにも湊のいる気配はない。
(何処に居るんだよ……)
携帯が鳴る。
「まだ見つけらんね~のか〜?降参ですか〜もうすぐ30分経つんですけど〜」
「こっちは走り回って、あんたを探してるよっ!」
「勉強が出来ても推理力ゼロだな。し〜んちゃん…そんなんじゃ名探偵になれね〜ぞ〜…ケラケラ…笑」
「おっさん!何処に居るんだよっ!」
「おに〜さん。だろっ…ケラケラ…笑」
「んなのどっちでもいいよ!」
「寝みぃ〜…ったく、ここゴツゴツして寝づら〜枕が幾つもあるのに硬くて枕になんね〜じゃね〜か…ッイテな〜手すりの棒邪魔っ…………俺、嫌いなんだよ…」
「えっ!」
シンは湊の発言を思い返す。
『風が気持ちいいなぁ〜』
(外…?)
『ゴツゴツして…』
(石…?)
『枕が幾つもある…』
『手すりの棒…』
(…………!)
思い当たる場所がひとつだけある…。
シンはその場所に向かって走り出す。
走りながらシンは、以前した湊との会話を思い出していた。
《湊と買い物に出掛けた時の事だった…》
「シン、あっちの道から行こうぜ…」
「スーパーにはこっちから行った方が近いと思いますけど…」
「………俺、嫌いなんだよ……」
その時はさして気にもせず、何も聞かなかったが…
ーーこの故郷(まち)で、唯一嫌いな場所…
そんな風に何気なく話をしていた……
(多分…いや…絶対あそこだ!)
息を切らして着いた場所に
(!!)
湊が居た。
「湊さんっ!!」
「おっせーよ〜…ケラケラ…笑」
シンを見上げ手をひらひら振りながら湊が笑う。
シンはゆっくり降りて湊に近づく。
「こんな所で寝たら風邪ひきますよ…」
湊と同じ場所まで着くとそっと肩に手をかける。
着いた場所は、シンが落ちて記憶をなくした階段だった…
「やっと見つけたか…名探偵シーズー…だっけ…?ケラケラ…笑」
「シーズーは犬の種類です…こんな所で何してんすか?」
呆れ顔で湊に聞く。
「……決着をつけに…笑」
「何の決着ですか………?」
「みんなさ〜」
湊は先程の同級生との事を話始めた。
「カミさんがぁ〜とか彼女が〜とか楽しそうに話してんだよ…笑」
「………」
「だけど…俺は……言えなかった……」
湊から笑顔が消えた。
「………」
「恋人いんのに……お前がいんのに……居ないふりして、いいなぁ~…って笑ってた……」
「………」
「…っと、情けねえ〜………」
「情けなくなんかないです。そりゃ紹介してもらえたら嬉しいですけど…湊さんが辛い思いするなら俺は平気です…」
「お前は強いよな~胸張って堂々と言えるもんな…すげぇ〜よ……」
「凄くなんかないですよ…」
「俺は弱いから…ずるくて…また逃げて……」
「……」
「隠そうとして……」
「……」
「……」
「……」
「しっかし、こんな所から落ちて良く無事だったな〜…」
話題を変えるように湊は階段を見上げて言う。
「あ〜〜!魔法の水無くなってる……」
湊は空になった缶を振って残念がる。
シンが途中で買った水に気がつくと
「おっ!いいの持ってんじゃん…笑」
そう言って取り上げる。
「かったぁ〜開かね〜…」
キャップを開けようとするが酔っていて手に力が入らない。
「湊さん。貸して…」
シンは湊から水を取り上げるとキャップを開ける。
ゴクッゴクッ……
「おぃっ!」
シンが一気に半分飲み干す。
「走ってきたから、のど乾いちゃって…」
「あほシン!俺にもよこせっ!」
手を伸ばし水を再び取り上げようとするが
「そんなに飲みたいなら飲ませてあげます…」
シンは残りの水を口に含むと
「!!」
湊の唇に自分の唇を重ねる。
口に含んた水を口移しで飲ませる。
ゴクッ……
「……ぅおおおぃっ……何すんだよっ!」
「のど乾いてたんでしょ?」
「ひとりで飲めるわっ!」
「酔っ払ってキャップも開けられなかったくせに…笑」
「…………うっせぇ…」
「……湊さん」
「ん?」
「………聞いても良いですか?」
「ぉう……」
「……湊さんの嫌いな場所ってここ?」
「………あぁぁ…」
「……俺が落ちたから?」
「………それもあるけど…ちが…う…」
「じゃ……なんで……」
「………お前ん中から…………俺が消えた場所だから…」
「えっ……」
予想していなかった湊の言葉にシンは驚きを隠せなかった…
「シ〜ンちゃん。おじさん酔っ払って登れないからおぶって〜」
湊がシンの袖を引っ張る。
シンは屈むと
「……ほらっ」
そう言って湊を背中に乗せる。
「湊さん、暴れないでくださいね。落ちたら危ないから」
階段をゆっくり登る。
「落ちたらまた、忘れられんのかな~俺…ケラケラ…笑」
冗談めかして湊が笑う。
頂上まで上りきると、そっと湊を下ろす。
「……忘れませんよ。二度と……」
湊に背を向けたまま真剣な声でシンが答える。
だが、
「………忘れていいよ…」
「えっ?……」
振り返り湊を見る。
「で、また聞いて…」
真面目な顔で湊が言う。
「………」
「どちら様ですか?って…」
「…イヤですよ」
「……今度はちゃんと言うから」
「………」
「誤魔化さないで…逃げないで……きちんと最初から言うから…」
湊はシンに近寄り首に腕を回し抱きしめる。
「俺は…お前の恋人だっ。て……」
この場所を避けていたのは忘れられた寂しさを思い出すから。
だけど…逃げてばかりではいけないと…前に進む為にこの場所に来て自分の本当の気持ちを確かめたかった。
逃げるより、大切にしたい慎太郎(ひと)が居ることを…
湊の自分の気持ちとの決着はついた……
(湊さん……)
シンは湊の背中を強く抱きしめる。
そして互いに顔を近づけ唇を重ねた……。
【あとがき】
今作はちょっと切ない真面目な?(笑)お話でしたがいかがでしたか?
最後まで拝読ありがとうございました。
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次回作でまたお会いできますように…
月乃水萌
※本日、少しだけ手直ししました♪
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