“好き”
その言葉を言うのは、私にとってはとても難しく、苦しいことだ。
私はいつからか、貴女を目で追うようになった。
可愛くて、おっちょこちょいで、天然で。
お互いに話すようになってから、段々と惹かれていった。
そして、私たちは恋に落ちた。
幸せな日々が増える、そんな希望を抱いた。
…しかし、それは砂のようなものだった。
周りには言えない、苦しい秘密。
周りでは、同性愛を否定する声が聞こえる。
私と貴女は、限界まで追い込まれた。
-私たちは、同じ苦しみを抱く仲間なのだ。
そして、お互いに依存するようになった。
愛が増す度、苦痛がのしかかる。
都合のいいハッピーエンドなど、私たちには訪れるわけがなかった。
本音という宝石を飲み込む。
それは私の心を蝕み、隠しきれないほどの光を放つ。
午前9時、窓の外では、家の屋根に雨粒が勢いよく当たる音がする。
空気が霞んでいて、白く靄がかかっている。
ニュースを見ると、天気予報士の女の人が今日は強い大雨が続くだろうと言っていた。
私はそれを、重要視することなく外出の準備を進める。
持つのは1回分の乗車賃とスマホだけ。
傘を持たず、雨に打たれながら、隣町の無人駅を目指す。
駅にはすでに彼女がいた。
雨のせいで、笑っているのか、泣いているのか分からない。
「今日、どこに行こうか」
『うーん、海とか?笑』
彼女は明るく笑って答えた。
「遠くない?1番近いところだと…」
「……7時間だね、」
『大丈夫だよ、時間なんてあっという間だし』
「そうかもね、」
私たちは電車の席に座り、手を重ねて、周りを気にせず、他愛のない会話をする。
気づいたら眠っていたみたいで、スマホで時刻を見ると、15時過ぎだった。
冬だからか、すでに空は燈色に染まっていた。
夕焼けの光が、私たちの影を電車に映し出す。
隣を見ると、まだ彼女は眠っている。
ときどき寝言を言っているのか、口をパクパクと動かし、幸せそうに笑っていた。
1時間ほど経ち、海が目の前に広がる廃れた駅に到着した。
私は彼女を起こし、駅を離れる。
朝起きた時はうるさかった雨音が、今は止んでいる。
私は広大な海を目の前に、彼女と二人で笑い合い、一人で苦しく泣いた日々を思い返す。
けれど、そんなこともうどうだっていい、
これからは苦しまずに、貴女とずっと一緒にいれるから
「冬だから水冷たそうだね」
『そうだね。手でも繋ごうか?』
「いいね。ちゃんと握っておいてよ?笑」
波の音が近づく。
そのうち、足がひんやりと冷やされていく。
下半身は完全に浸かり、少し寒さで身震いする。
「…ねぇ、」
『なぁに?』
「キスしてもいい?」
『そんな直球に聞かれると照れるなぁ…』
『いいよ。』
彼女は少し顔を赤く染める。
私たちは、お互いの手をギュッと握りながら、向かい合って、そっと唇を重ねる。
お互いの愛を確認するように、
世界へ別れを告げるように、_
私たちは、誰も知らない海の底まで沈む
嗚呼、神様。
来世は晴れにしてください_
海面に、
泡がこぽこぽと小さく浮かび上がった。
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