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人混みを抜けた先の小高い公園。ちょうど丘の上から、夜空に大輪の花火が見える場所だった。
「わぁ……きれい……!」
まなみは浴衣の裾を軽く押さえて、空を見上げる。
色とりどりの花火が、夜空を鮮やかに染めていた。
「……ふーん」
横でそらとが、つまらなさそうにしている。
「なに、なんか文句あるん?」
「別に。……花火なんかより、もっと気になるもんあるし」
「え、なにそれ」
「言わん」
そらとの声は低くて、少しだけ拗ねているみたいだった。
その横顔を覗き込んだ瞬間、間近で上がった大きな花火の音に驚いて、まなみはふらりとバランスを崩す。
「っ、わっ!」
「おいっ」
とっさに、そらとが腰を引き寄せるように抱きとめた。
距離が近すぎて、浴衣越しにお互いの体温が伝わる。
「……びっくりした」
「まったく……はぐれるやろが」
「ご、ごめん」
小声で謝るまなみに、そらとはしばらく黙ったまま。
でも、彼の腕はまだ離れない。
「……そらと?」
「……っ、離したらまた誰かに笑いかけるやろが」
「そんなことせんよ!」
「ほんとやろな?」
そらとがぐっと顔を寄せてくる。
夜空で花火が弾けるたびに、その横顔が一瞬照らされる。
まなみは視線を逸らそうとしたけど、すぐに頬をそらとの手で掴まれた。
「……お前、ほんま無自覚すぎ」
「え、なにが?」
「さっきから、俺の理性ギリギリ削りよるっちゃけど」
そう囁くそらとの声は、花火の音に紛れてまなみにしか届かない。
「……そんな顔、俺の前だけでしとけ」
息が触れそうな距離で、まなみの耳元にかすかに響く声。
胸の奥がきゅっと鳴って、返事ができない。
ただ、小さく頷くだけで精一杯だった。
そらとはそんなまなみをじっと見つめ、ふっと目を逸らした。
けど、その手はしっかりとまなみの手を握ったまま。
「帰るときも、もう離さんけん」
「……うん」
夜空に大輪の花が咲き続ける中、
二人の間に流れる空気は、もう後戻りできないくらい甘くなっていた。