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夏祭りの帰り道。夜遅いせいか、電車は思ったよりも混んでいた。
「めっちゃ人多いやん……」
「……ほら、こっち来い」
そらとがまなみの手を引いて、ドア付近のスペースへ移動する。
けれど、次の駅に着くたびどんどん人が乗り込み、あっという間に身動きが取れなくなった。
揺れる電車。
背後から押され、まなみはそらとの胸にぐっと押し付けられる形になる。
「っ……!」
「おっと、危なっ」
そらとはとっさにまなみの腰を支えて、そのまま壁際に押し込むように庇った。
そして、ほぼ自然に腕がまなみの横に伸びて「壁ドン」状態に。
「そらと、ち、近っ……」
「しゃーねぇやろ、人多すぎるっちゃけん」
「で、でも……」
「動くな。我慢しろ。」
低めの声で囁かれ、まなみは顔を真っ赤にしたまま黙り込む。
けど、電車が揺れるたび、そらとの体温と心音がすぐそこに感じられて、余計に意識してしまう。
次の揺れで、まなみの耳元にそらとの吐息がかかる。
「んぅっ……!」
小さな声が漏れ、体がぴくりと震えた。
「……おい」
「な、なに」
「今、声出た」
「出てない」
「出たっちゃろ。……耳、弱いん?」
にやりと口角を上げるそらと。
まなみは慌てて首を振るけど、顔が真っ赤なのは隠せない。
「ふーん……試してみよっか」
「えっ、ちょ、そらとっ」
わざと低い声で耳元に近づき、吐息をかけるそらと。
まなみは耐えきれず小さく肩をすくめた。
「……はは、図星やん」
「そんなんじゃないもん!」
「そうやって否定するとこ、ほんまわかりやすか」
そらとの目が細められ、いつもの柔らかい笑みじゃなく、
どこかSっぽい色を帯びている。
さらにもう一度、電車が大きく揺れる。
そらとの胸に押し付けられたまま、まなみはどうすることもできない。
「……俺から見たら、これちょっと反則やけどな」
「な、なにが」
「その顔」
「っ……!」
耳元で低く笑うそらと。
息がかかるたび、まなみの体は小さく震えてしまう。
「……震えよるん、可愛いな」
「っ、そらと!」
「声、もっと聞かせて」
顔を上げたまなみと、そらとの視線が重なる。
その瞳は真剣で、ほんの少しだけ挑発的。
「……俺、もうちょっと我慢できんかもしれん」
車内アナウンスが次の駅名を告げるけれど、
まなみの耳にはそらとの声しか届かなかった。