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広い公園の木の下に、少年がいた。
その少年は夢を見ていた。
彼が思い描いている夢。
彼は、両親と暮らしていた。
楽しい日々だ。
いつも通りに彼らに手を繋がれて、笑い合う。
少年はおとうさんっ子だった。
いつも近くの大きい公園でキャッチボールをするのだ。
少年はキャッチボールが得意だった。
彼のお父さんは、そんな息子をみて、(将来は野球選手か?)などと言い茶化す。
少年は野球選手に憧れた。
少年はお母さんのことももちろん好きだった。
たまに買い物へついて行って、母の重い荷物を代わりに持つのだ。
いつも彼のお母さんには、(力持ちねぇ、将来はかっこいい子になるわ。)などといい、少年をめいっぱい可愛がった。
そんなこんなで、家に帰り、いつも通りに過ごしてきたところ、父が仕事から帰ってきた。
右手には野球ボールが握ってあった。
「お父さん、それは?」
(ああ、これか?
もちろん、お前へのプレゼントだ。
これでまた、一緒にキャッチボールしような。 )
そういい、少年にそのボールを渡す。
少年は嬉しそうにボールを固く握り、「うん!」と元気な返事をした。
するとそこに彼の母が、
(あら、そういえば最近、近くに遊園地ができたみたい。週末そこへ遊びに行かないかしら?)
そう言った。
その案にはみな、大賛成だったらしく、少年はさっそく週末が楽しみになっていた。
週末、車に乗り、家族総出で遊園地へ向かっていた……
はずだったのだが。
視界が真っ赤になり、暗転。
少年の意識は元に戻ってしまった。
「だめだ、だめだ、だめだ、やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ… 」
彼の意識はまた暗闇に落ちた。
彼の手には、石が固く握られていた。
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解説
少年は夢を見ている(妄想の中)
夢を描いているのは昔に戻りたいという意味。
そこから、綴られる物語は彼の過去or妄想。
少年一家は遊園地に向かっている際に、事故にあってしまい、彼の両親は他界してしまった。
少年はそのトラウマからか、精神に病を患ってお父さんと遊んだ公園の木の下で未だに1人で夢(妄想)をみてる。
つまり、過去に囚われて、現実を見ていない、現実逃避ということ。
妄想の中の野球ボールと彼が現実で握った石は同じもの。
つまり野球ボールは妄想の部類。
その後の遊園地のくだりは現実。
現実と妄想の区別がつかなくなっている。
視界が真っ赤になったのは両親の血。
そして、最後に3人称が”少年”でなく”彼”になっているのは、彼が逃避をしすぎて、時間が経過してしまい、もう少年という年齢では居られなくなってしまったこと。
つまり、事故からもうだいたい数年は過ぎている。
少年の「」と両親の()が違うのは、かれの夢(妄想)のお話だからということ。
あとがき
彼はもう何年もそこに居座っている。
帰ってこない彼らを待って…
だが、それをあなたは残酷だと思うだろうか?
彼は夢(妄想)の中で本当に幸せに生きているのだ。
彼の大好きな両親と一緒に、なんの憂いもなく。
もしあなたは、彼に真実を伝えられるとしたら、伝えるだろうか?
私は…きっと…伝えないだろう。
世の中には知らなくてもいいこと、そっとしといた方がいいことなど、ごまんとあるのだから。