テラーノベル
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十五年前――。
イコル・ヤーレン研究所。
静かな研究室。
義一は椅子へ腰を下ろしていた。
博士がゆっくりと向かいへ座る。
「義一さん。」
「これが最後の確認です。」
義一は静かに頷いた。
博士は真っ直ぐ義一を見つめる。
「能力はランダムです。」
「望んだ能力になる保証はありません。」
「そして。」
「一度投与すれば、元の身体には戻れません。」
「……それでも。」
「後悔はありませんか。」
研究室が静まり返る。
義一は迷いなく答えた。
「ありません。」
「俺は。」
「守るために、この道を選びます。」
博士は小さく頷いた。
「分かりました。」
-–
別室。
研究員が義一の健康状態を確認していく。
「血圧、正常。」
「脈拍、正常。」
「体温、正常。」
「投与可能です。」
博士は薬を静かに手に取った。
透明な液体が、わずかに光を反射する。
「始めます。」
義一は左腕を差し出した。
細い注射針が腕へ刺さる。
チクリとした痛み。
それだけだった。
薬は静かに体内へ送り込まれていく。
数秒後。
注射は終わった。
義一は自分の身体を見る。
「……何も。」
「変わらない。」
博士は静かに微笑む。
「能力は。」
「外から見て分かるものではありません。」
「これから測定を行います。」
-–
研究室。
義一は測定装置の前へ立つ。
研究員が機械を操作した。
「能力解析を開始します。」
静かな電子音が研究室へ響く。
能力解析中――。
誰も話さない。
義一。
蓬萊。
博士。
三人ともモニターを見つめていた。
やがて。
ピッ。
短い電子音が鳴る。
モニターへ文字が浮かび上がる。
『解析完了』
研究員は画面を確認した。
その表情が一瞬だけ変わる。
「……博士。」
静かな声で画面を示した。
博士はゆっくりと歩み寄る。
モニターへ視線を落とす。
そして――。
ほんのわずかに目を見開いた。
研究室へ重い沈黙が流れる。
義一は思わず息を呑む。
「……どうでしたか。」
博士はすぐには答えなかった。
もう一度画面を見つめる。
確認するように、小さく頷く。
そして。
ゆっくりと義一へ向き直った。
「能力を確認しました。」
義一は拳を握る。
蓬萊も黙ったまま博士を見つめている。
博士は静かに口を開いた。
「能力名――。」
一拍。
研究室の空気が張り詰める。
「鉄壁。」
静寂。
誰も言葉を発しなかった。
義一は、その名前を静かに繰り返す。
「……鉄壁。」
「それは。」
「どんな能力なんですか。」
博士は穏やかに答える。
「身体防御に特化した能力です。」
「人を倒すためではありません。」
「守るための能力です。」
義一は目を閉じた。
詩織の笑顔。
「義一さん。」
「心配しすぎですよ。」
あの日の声が蘇る。
血だまり。
震える手。
病室で交わした約束。
すべてが胸を駆け巡る。
そして、小さく呟いた。
「……守れるんですね。」
博士は力強く頷く。
「はい。」
「その能力は。」
「守るために存在します。」
義一は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。」
-–
夕方。
東理病院。
病室。
詩織はまだ静かに眠っている。
義一はゆっくりと病室へ入った。
ベッドの横へ座る。
眠る詩織の手をそっと握った。
「詩織。」
「聞こえてるか分からないけど。」
「今日。」
「俺は能力者になった。」
少しだけ微笑む。
「どんな能力になるか分からなくて。」
「正直、不安だった。」
「でも。」
「俺が手に入れたのは。」
「守るための力だった。」
義一は詩織の手を優しく握り返す。
「もう。」
「二度と同じ後悔はしない。」
「今度こそ。」
「必ず守る。」
病室には静かな夕日が差し込む。
眠る詩織の表情は変わらない。
それでも義一の瞳には、
確かな決意が宿っていた。
病室の棚には、
胸ポケットから取り出された小さなお守りが、
再び静かに置かれていた。
その隣で、
義一は詩織の手を握り続ける。
守るために生まれた力。
その願いは、
静かに未来へと歩き始めた――。
第69話へ続く
コメント
1件
ええええ「鉄壁」!!😭💕✨ 攻める力じゃなくて“守るため”の能力ってのがもう義一の想いそのまますぎて胸熱すぎるんだが…!?詩織に手を握りながら語りかけるラスト、夕日が差し込む病室の情景が一瞬で脳内映像になったよ…。15年前の決意が今にどう繋がるのか、次話が待ちきれない!!
20
あまね🍡💠
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