「んん…んー…?」
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
少し重く感じる体を起こしてみると薬研藤四郎さんも疲れて寝てしまったのか弟さん達の近くであぐらをかいて寝ていた。
よっぽど疲れているのだろう。少し動いたくらいでは起きそうもないらしい。
私はゆっくりと立ち上がり余っていたブランケットを優しく慎重に掛けて部屋から出ていく。
時刻は3時過ぎだった
「さて、遅めのおやつにしようかな」
「それならお供しますよ主さま!」
「うわっこんのすけ!?いたの?」
「主さまがお目覚めになった時からずっと後ろから見守っておりましたよふふふ」
「怖い事するんじゃないよもう」
すみませんとしっぽをフリフリさせながらついてきている。確実に反省してないなこの狐
「さてこんのすけよ」
「はい主さま」
「ちょっと手伝ってほしいんだけど、そのおてて使える?」
「お任せ下さい!」
こんのすけは小さい手をぐーぱーさせながらニコニコしている
「では、作りましょうかね」
今回作るのはあんこ餃子、簡単にどんなものか言うと餡子を餃子の皮で包み油で揚げた物。
カロリーは凄いけど美味しいんですよねこれが…
「餡子と餃子の皮買っといて良かったな」
前燭台切が「これも買っといていいんじゃないかな」とカートにぶち込んでくれていたのだ。
「これでいいかな」
餡子をボールに移して餃子の皮を隣に出す。
「さぁさぁこんのすけ出番だよ」
「頑張ります!」
こんのすけには餡子を乗せてもらう。手袋をしてもらい、少し難しいかと思ったけど意外と器用なのか綺麗に餡子が乗せられている。
最近の狐は凄いな
「流石こんのすけ」
「これくらいなら楽勝ですね!」
こんのすけが楽しんでいる間に私は餃子の皮に乗せられた餡子をちびちびと包んでいく。中の餡子が漏れたら良くないのでしっかりと包もう。
何個か量産していた時ふと視線を感じて厨の入口を見るとそこには桃色の髪色の少年、秋田藤四郎さんがこちらを覗いていた。急に見られてびっくりしたのかささっと後ろの方へ隠れてしまった。
「起きられたんですね、おはようございます」
「お、おはよう…ございます」
消え入りそうな声でお返事をくれる。流石にまだ一対一は怖いのだろう。
「良ければ一緒におやつ、作りませんか?」
猫の手も借りたいくらいなのですと言うと意外とすぐに中に入ってきて
「僕も…一緒に作っていいんですか?」
「勿論。みんなで作った方が美味しくできあがりますからね」
ご飯は誰かと作ったり、食べた方が美味しい。それは昔から言われている事だ。
「じゃあ一緒にやってみましょうか」
「はい…!」
服の袖を肘あたりまで捲ってしっかり手を洗い椅子へ座る
「ではこちらを包んでもらえますか?」
そう言いながら餡子を乗せた餃子の皮を渡してみる。
彼は少し緊張しながらも両手でゆっくりゆっくり包んでいく
「凄い、上手に包めましたね」
少し形は崩れてはいるが初めてにしては物凄く綺麗にできている
「えへへ…ありがとうございます…」
照れているのかほんのり頬が桃色になっている。可愛い
「じゃあこの調子で作っていきましょうか」
もくもくと餃子を作っているとふと気になっていた事を思い出した
「そういえば秋田藤四郎さんはどうしてあの2振りに着いてきたんですか?」
「え…と、ダメでしたか…?」
「いやいやいや全くダメじゃないです、ただ気になっただけなんです…」
見た目で判断するのは良くないが、自分から見た薬研藤四郎さんの方は身長もそれなりに大きく私一人なら簡単に殺せてしまうだろうにと思ったのだ、なら1人で来ても良かったのではと
「…です」
「え?」
「あの…飴が欲しくて…来たんです…」
「あ、飴?」
予想外の答えに一瞬固まってしまう
「陸奥守さんに飴を分けてもらって、とても美味しかったのでもう一度食べたくなったんです」
「どこで貰ったのか聞いてみると貴女から貰ったのだと教えてくれて…」
陸奥守…もしかしてあのワンコ(みたいな)お兄さんの事だろうか
「ごめんなさい…貰えるはずないのに…」
彼は少し涙目になりながら俯いている
「飴ならいつでも言ってくれればあげますよ!」
あわあわとしながら泣きかけの彼を慰める
「少し待ってて下さい!」
そう言いながら爆速で廊下を走って飴を取りに行く
「お待たせしました…!好きなの選んで下さい…!」
ぜぇぜぇと息を荒くしながら飴を山盛りに積んだ籠を差し出す
「わ、わぁっ…こんなに沢山…」
驚きながらも大きな瞳をキラキラさせながら飴をじっと見ている
「本当に好きな物を選んでも良いんですか?」
不安そうな顔をしながらこちらを見つめてくる
「もちろん、好きなだけ」
そう言うとどれにしようかと色々な飴を手に取って見ている
「これ、食べてみたいです…!」
彼の手にあったのは包みに入った桜型の飴だった
「他に欲しいものはないですか?」
「はい…!…あの、今ここで食べてみても良いですか?」
「はい、どうぞ」
彼は恐る恐る包みを取り、そのままぱくっと口の中に放り込んだ
「…!!!」
「お、美味しいです!!」
えらく気に入ったのか頬を両手で抑えながらぎゅっと目をつぶって飴を味わっている。天使だ。ここに天使がいる。眩しい。
あまりの可愛さに今すぐにでも頭をどこかに打ち付けたい気分だったが流石にマズいと全力で手を握りしめながら堪えた
「また飴が欲しくなったらいつでも来てくださいね、居間に置いてありますから」
「はい!ありがとうございます!」
そのまま笑顔でいてくれ
「主さま!!」
「うわっ何こんのすけ」
「手元をしっかり見て下さい!!」
そう言われ手元を見てみると…
「あー……」
作りすぎちゃいました
「さて油で揚げていきましょうか」
用意していた油を鍋に注いで火を付ける
あとは揚げて完成だ
「あ、危ないので秋田藤四郎さんは後ろで待ってて下さいね」
「はい、見守っていますね!」
なるべく油が散らないように餃子を鍋に入れて揚げていく。鍋の大きさによるけど入れるのは大体3つ4つにしておいた方が良い。
ジュワァ…っと良い音が厨に響く。この瞬間好きです
「できましたよ〜!」
「わぁ!いい香りがします!」
「早く食べたいです主さま〜!」
「少し待ってね〜」
大きめのお皿に山盛りになった餃子に数本お弁当などで使うピックを刺していく。念の為買っておいたのだ
「秋田藤四郎さん、先に居間の方へ行って2振りを起こしてもらえますか?」
「分かりました!」
たたたっと素早く廊下を走って行き、奥の方から「起きてください!おやつの時間ですよ!」と彼の声が聞こえる。
「私達も早く行こうかこんのすけ」
「はい!」
「これはまた凄い量を作ったな」
薬研藤四郎さんと五虎退さんは目をぱちくりしながら餃子の山を観察している
「僕もお手伝いしたんですよ!」
頬をほんのり赤く染めながら体を揺らしている
「それじゃ遅めのおやつ頂きましょうか」
「はい!」
皆で「いただきます!」と声を合わせてピックに餃子を刺して一口ほおばる。
「…!美味いな!」
「甘くて…さくさくしてて…とっても美味しいです!」
「お口にあったようで何よりです」
この光景を一生眺めていたいと思う程に尊い。ここがリングなら今頃私は場外へ吹き飛んでいるだろう。
かなりの量あったはずのあんこ餃子は気が付けば無くなっていた
「とっても美味しかったです!」
「お腹いっぱいです…」
「また食べたいな」
「食べたくなったらいつでも作りますよ」
それぞれ満足してくれたようで良かった
「もうこんな時間か」
そう言われて外を見るともうすぐで日が暮れそうになっていた。
「そろそろ帰らなきゃ…ですね」
「そうですね…」
なんだか帰りたくなさそうに2振りはしゅんと落ち込んでいる。
「帰りたくないんですか?」
「いえそういう訳では…」
「…今帰っても母屋の方は穢れが充満していてとても過ごしやすいと言える環境じゃないんだ。」
「ふむ…」
なら
「今日はお泊まり、していきますか?」
「「「えっ」」」
「布団はネットで頼めば日が沈んだ頃に届くはずですし、ご飯もありますし…風呂は無いけど…」
「…でも少しばかりですが安心なら用意できます。」
「……」
全員だんまり状態。少し気まずい。
「3振りとも。特に薬研藤四郎さん。ろくに寝てないでしょう?目元にりっぱな隈ができてます」
「はは、少し寝て回復したと思っていたんだがな」
「今日は大人しくお泊りしていってください」
少し強引だがあちらへ戻して状態を悪化させるよりずっといい。
日が沈んだ頃
「お布団はこれを頼みましょうか」
1番シンプルな敷布団を3枚カートに入れる
「そうだ、パジャマも買いましょうか」
「ぱじゃま、ですか?」
「寝巻きみたいなものです」
そう言いながら色々なパジャマが並ぶページを見せる
「どれにしますか?」
「わぁたくさんありますね…」
「迷いますね…」
「ふむ、色々あるんだな」
画面を見ながら3振りともうーんと唸っている。
「おっこれいいな」
「これも良さそうですよ!」
「僕これにします…!」
「決まりましたか?」
「あぁ、これで頼む」
「じゃあ注文しましょうか」
ポチッと購入ボタンを押した。あとは来るまで待つだけだ
「じゃあ頼んでいる間に夜ご飯の準備をしましょうか」
もう既にたくさん食べたが夜ご飯もしっかり食べるべきだ
厨に向かおうとしたその時
ピンポーン
「おぉこんな時間にどちら様だ…」
スタスタと玄関まで歩いていく。何故か3振りも着いてきている
「はーい」
扉を開けるとそこには燭台切がいた。