「燭台切…??」
扉を開けるとそこにはまた怪我をした彼が立っていた。
今回は前より酷い。服のあちらこちらが破れていてそこから赤い液体がぽたぽたと垂れてきている。
「どうしたんですかその傷」
あまりにも痛々しいその姿に思わず体が固まる
「…っはは…少しやらかしちゃって…」
そう言うと彼はそのまま気を失いその場に膝から崩れ落ちてしまった。
「燭台切!!」
私が叫んだ隙に 間一髪で薬研藤四郎さんが頭を支えて体を起こす。
「出血がかなり酷い。とりあえず居間の方へ運ぶぞ」
「…っ」
「ひとまず止血はしておいた。しばらくは安静にさせた方がいいだろう」
「燭台切さん…」
後ろでポロポロと目から涙を流しながらすんすんと啜り泣く声が聞こえてくる。
私もあまりの事に思考が上手く働かない。
普通の人間は絶対に目にする事ない場面、そんな所に今居るのだ。正常な思考ができるわけない。
「なぁアンタ」
「な、何でしょうか」
「ここには確か手入れ部屋があったよな。五虎退の傷もここで治したはずだ」
そうだ。ここには手入れ部屋を増築していた。
「急いで手入れ部屋に運びましょう。」
急いで手入れ部屋の襖を開いて準備を始める。
「こんのすけ!!」
「こんのすけはこちらに」
「急いで奥にある包帯と打ち粉を持ってきて。私は布団を引っ張り出してくる。」
「承知しました。」
顔に冷や汗を垂らしながら急いで布団を敷いていく。
「包帯と打ち粉、お待たせしました。」
「ありがとうこんのすけ」
「薬研藤四郎さん、傷が開いて血が滲んできています。包帯を巻き直していただけますか」
「あぁ任せろ」
燭台切の本体。刀の刀身を目の前に優しく慎重に置く。
せっかくの美しい刀身は刃こぼれやヒビが入ってしまって台無しになってしまっている。
「…っ」
どこのどいつか知らないけどあんなに良い人をここまで傷付けるのは例え部外者であろうと許せはしない。
打ち粉をそっと刀身にトントンとしながら唇を強く噛み締める。
あれから数時間。夜中になってもまだ手入れは続いていた。
他の3振りには申し訳ないが届いた荷物を回収してもらってお礼に簡単な卵焼きとお湯を入れて作れるお味噌汁を振舞った。
それでも「美味しいです!」と笑顔で食べてくれたので流石に涙が溢れたよ。
あわあわと慌てながらどこか痛みますかと駆け寄って来ていたが大丈夫だと返事をしてそのまま手入れ部屋に戻った。一刻でも早く治したい。
「流石にそろそろ体力が持たないな…」
霊力というものにも限界があるのだろう。手入れがほとんど終わる頃には全身に疲労感や頭痛、目眩などなかなか酷い状態になっていた。
「主さま、一旦お休みになった方がよろしいかと…霊力不足は主さまの身体に負担をかけてしまいます。」
「別にそこまで命を削るわけではないんでしょう。ならさっさとやらなきゃ」
「確かにダメージは少ないですがしっかり蓄積されていきます…」
「今の私なんかよりも燭台切の方がもっとしんどいし苦しいはずだ。それを放置していられるか」
「主さま…」
呆れたような複雑そうな顔でこちらを覗いてくるこんのすけと共にゆっくり燭台切の刀身を修復していく。
手入れ部屋にいる式神さんも刃こぼれやヒビの部分を撫でたり力を込めて修復を手伝ってくれている。後でお礼の品を用意しなくては…
そう思っていた時だった。急に視界が暗転して身体に力が入らなくなる。
「……あ…れ…」
異常に重たい体を必死に起こして周りを見る。
あぁそうか気絶していたのか
「目が覚めたのか」
「薬研藤四郎さん…まだ起きていたんですか」
時刻はもう夜中の3時くらいのはずだ。
ずっと見ていてくれたのだろうか
「ご迷惑をお掛けしました…」
「いや気にするな。あそこまで霊力を使えばこうなるのも仕方ない」
「そういえば燭台切さんの手入れは…」
「安心しろ傷は塞がって後は目が覚めるのを待つだけだ」
「そうですか…良かった…」
傷を治せたという安心感から全身から力が抜けて枕にぼふんっと倒れ込む
「ほんとに良かった…」
内心怖くてたまらなかった。刀剣男士さんは手入れをすれば大丈夫と聞いたけど人間と同じく死ぬ時は死ぬ。
「お疲れ様、だ。改めて礼を言う。ありがとう」
「当然の事をしたまでですから…」
いえいえと頭を横に振る
「なぁどうしてアンタはここまでやってくれるんだ」
「どうしてって…うーん」
「突然こんな所へ連れてこられた挙句命を奪われかけたりなんなり散々だろ?嫌じゃないのか?」
「まぁ確かに最初は怖くて堪らなかったです。起きたらいきなり丸太に括り付けられて刀向けられるしあちこち血まみれだし嫌にもなりました。」
「なら」
「けど、そんな事よりもこの本丸がこれ以上壊れていく方が嫌でした。元は皆さんいい人なんでしょう。燭台切から聞きました。ここの主だった人も笑顔が素敵な方だったと」
「…」
「何より誰かが傷付いたり、悲しむのが嫌だったんです。悲しむ顔なんかよりも笑顔でいてほしいですから」
「ごめんなさい、私馬鹿だから上手く言えてるか分からないな…」
「いや十分分かったさ。答えてくれてありがとう」
そう言いながら月の光があたる縁側へと彼は座る
「なぁ…俺はアンタを信じても良いんだろうか」
「別に信じなくたっていいんじゃないですか」
「え」
「無理に信じろとは言ってませんし、何よりこんなやつ信じる方が危ないですからね」
「ははっ確かにそうだな」
クスッと笑う彼は月の光に照らされて美しさが増している
「貴方が信じたければ信じれば良いし信じたくなければ信じなくてもいい。それでいいんです。」
私的には少しでも信じてくれると嬉しいですけどねと笑うと
「なら、少し信じてみようか。」
すると彼はこちらに振り向いて月を後ろにしてこう言った
「アンタを大将と呼んでいいか」
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