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お屋敷に戻ってから少しすると、ピエールさんと会う時間になった。
今日は、残りの使用人……庭仕事や警備をする人の確保の件と、裏庭のテーブルセットの件で話があるのだ。
「アイナ様、ご機嫌麗しゅうゴザイマス。
本日も、何卒よろしくお願いイタシマス」
「こんにちは、こちらこそよろしくお願いします」
ピエールさんとは、客室で会うことにした。
まずは簡単に挨拶をしてから、近況を話すことに。
「こちらのお屋敷は、いかがデスカナ?」
「はい。とても素敵で、何も不満はありません。
工房と店舗はまだあまり使っていないんですけど、そちらで何かあったら相談させてください」
「もちろんデストモ、お気軽にご用命クダサイ。
ピエール商会はアフターサービスまで万端デスので!」
調子の良い感じで、そう言うピエールさん。
確かに頼りになるよね。……とは言え、少しは気になることもあるわけで。
「……あの。メイドさんのことなんですけど」
「むむ? 何か粗相がありマシタカナ?」
「いえいえ!
皆さん、頑張って仕事をしてもらってますよ!」
「そうデスカ、それは一安心デス。
実力、性格ともに申し分ない者たちを集めマシタので!」
ピエールさんは、自信満々に言う。
ミュリエルさんのメシマズみたいに、実力が申し分なく無いところもあるんだけど――
……きっと総合力で、という意味なのだろう。
何から何までをすべて完璧にできる人なんて、そうそういるわけが無いからね。
それよりも、私が気になったことは――
「前に働いていたところで、ずいぶん酷い目に遭っていた方もいるようなのですが」
「そうでゴザイマスナ。
……もう、そんなところまでご存知なのデスカ。ふむふむ、さすがでゴザイマス」
「知っていたんですね?」
「もちろんでゴザイマス。
とは言え、深入りしなければ実力ある者たちデス。
雇用費との兼ね合いもありマスガ、このお屋敷にはベストな選択だと思ってオリマス」
……むむ、何とビジネスライク。
いや、でもピエールさんの言うことももっともなのかな……。
私が気になったのは『酷い目に遭ったメイドさんを何でうちに入れたのか』ではなくて、『何で先に教えてくれなかったのか』でもなくて、『どこで酷い目にあったのか』……だからね。
「彼女たちが前にいたお屋敷って、教えてもらうことはできますか?」
「申し訳ありマセンが、私からお教えすることはデキマセン。
本人たちから聞くこともお止めはシマセンが……守秘義務がありマスので、次の仕事斡旋の際に不利になる場合がゴザイマス」
「守秘義務……なんて、あるんですね」
「もちろん無いケースもゴザイマスが、彼女たちは、相応のところに仕えておりマシタので。
どこまで守秘義務を課すかについては、アイナ様もお選び頂くことができマスヨ」
その分お金が必要になるけれど――
……何となく、そんな空気は察することができた。
それにしても、次の仕事を盾に口を塞ぐだなんてね……。
確かに他のところでバラされたくないことなんて、いくらでもあるだろうけど……それにしても、人を傷付けたことを闇に葬るのはやっぱり違う。
しかし本人たちから教えてくれるならまだしも、ピエールさんから無理やり聞くわけにはいかないか。
一生面倒を見るのなら別だけど、そもそも私自身、今後どうなっていくのかも分からないことだし……。
……でも正直、知ってはおきたいんだよなぁ。
そういう人からは錬金術の仕事を受けたくないし、最終的に報いを受けて欲しい……という思いもある。
正義を気取っているのではないけど――
……いや、何だろう。多少は気取っているのかな。
私だって、そんなに完璧な人間というわけでも無いのだから。
まぁ、この辺りはジェラードに頼んでみることにしよう。
ジェラードなら、きっとすぐに調べてくれるだろうし。
「ひとまず分かりました。
何かあれば、相談させて頂きますね」
「はい、お気軽にお申し付けクダサイ。
さてさて、まずはテーブルセットのお話をしてしまいマショウ!」
そう言いながら、ピエールさんは鞄から紙の束を出した。
紙にはテーブルセットの絵が描いてある。写真を撮るのも高い世界だし、カタログは絵で作られているのかな?
それにしても――
「たくさんありますね」
「ピエール商会では、たくさんの家具を取り扱ってゴザイマス。
このお屋敷の裏庭で使うということデシタので、それを踏まえた私のオススメはこの3つデスナ」
そう言いながら、ピエールさんはたくさんの紙の中から3枚を取り出した。
でも、それなら他の紙は何で持ってきたんだろう? 品揃えの豊富さを見せたかったのかな?
出された紙を見てみると全て良さそうなものだったが、何となく私の好みのものがあったので、それに即決することにした。
「それじゃ、これでお願いします」
「かしこまりマシタ。こちらデスト、金貨5枚でゴザイマス」
おお、結構良い値段。
でもルーシーさんにも似合いそうだし、このテーブルセットでメイドさんたちが寛ぐのを想像すると、とても良い感じに思えるかな。
「分かりました、それで問題ありません。
お金はクラリスさんからお願いしますね」
「はい、納品の際に頂戴イタシマス。
それでは次の話に移りマショウ。庭仕事と警備の者は、それぞれ奴隷を考えてオリマス」
「奴隷……ですか。私はまだ、馴染みが無くて」
「ほうほう、そうでゴザイマシタカ。
他の国では酷い差別などもゴザイマスが、この国では『そういった階級がある』という程度の認識で大丈夫デス」
「階級……。なるほど?」
「罪に対する罰として奴隷落ちした者もおりマスシ、借金を重ねて奴隷落ちした者もおりマス。
大きくはこの2つでゴザイマスが、今回ご紹介するのは後者でゴザイマス」
「ふむふむ」
「一応、奴隷紋は付けさせて頂きマスガ、強度は弱めにする予定でゴザイマス。
……おっと、一応説明させて頂きマスネ。
奴隷紋とは主との契約によって刻む印デス。強度というのは、罰を与える際の威力の強さにナリマス」
「罰を、与える……」
「はい。主の言うことを聞かない場合、魔法の雷のようなものを任意で与えることがデキマス。
とは言え、理由なく使えば主も罪に問われマスのでご注意クダサイ。アイナ様なら大丈夫かとは思いマスガ」
「うーん、一応の保険……みたいな感じなんですね」
「その通りでゴザイマス。
荒くれ者が奴隷落ちした場合、そういうものが無ければ制御ができマセンので」
ルールを無視する人を従わせようとするなら、そのための力が必要になる。
それを、奴隷紋という力で賄う……というわけか。
「分かりました。いざというときは、ということで」
「それで、デスナ。
このあと実際に会って頂くことになりマスが、庭仕事には4人家族を充てたいと考えておりマス」
「え? 家族なんですか?」
「はい。母親が病を患わっておりマシテ、その薬代のために借金を重ねた家族なのデス。
夫婦2人と、小さい兄妹の4人家族でゴザイマス」
「えっと……その、小さい兄妹も働くんですか?」
「もちろんでゴザイマス!
とは言え、その裁量はお任せイタシマスので、ご安心クダサイ」
「学校は?」
「ふむ? 奴隷の子供は、学校には行きマセンヨ?」
ああ、そうなんだ。元の世界とはこういうところも違うのか……。
……いや、そもそも奴隷を見たことが無いんだけど。
「うーん、大体分かりました。良い人たちなら問題ないかと思います」
「その点は問題ないと思いマス!
さて、次は警備の者デスが、こちらは5人の雇用が望ましいと考えておりマス」
「5人……って、結構多いですね」
「何せ24時間、毎日デスからナ。
メイドや庭仕事の者よりも多少クセがある者たちデスので、後ほどお選び頂ければと思いマス」
「あ、私が選ぶんですか?
それじゃルークとエミリアさんも一緒に来てもらって、大丈夫ですか?」
「もちろんデストモ。聞けば、今はルークさんが警備をしているとのコト。
いろいろとご要望もあるデショウ」
「分かりました。
ちなみに、これから会いに行く感じですか?」
「はい。今日中にお選び頂けレバ、そのまま手続きを行いマシテ、明日からは仕事に入ることができマス」
「早っ!」
「ある程度の準備はして参りマシタので。
とは言え、気に入らなければ別の者を選定し直しマスので、お気軽にお申し付けクダサイ」
「はぁ、準備が良いですね……」
「お褒め頂きありがとうゴザイマス。
今後とも、ピエール商会をご活用クダサイ!」
はい! 便利なので活用します!
――ちょっと清濁呑み込み過ぎている感じも強いけど、そういったところが素直に頼りになっているのかなぁ……。
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