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その後、私たちはピエールさんの用意した馬車で街の中を移動した。
街の中心部から離れる方向へ30分も揺られていくと、『ピエール商会』という看板が掲げられた広い場所が見えてきた。
結構な数の人があちこちにいて、荷物を運んだり、商いや取引をしているようだ。
「……おお、ここがピエールさんの本拠地ですか」
「いえいえ、ここは単なる流通の中継地点の1つでゴザイマス」
「え? つまり、ここだけじゃないってことですか……。凄いですね……」
「お褒め頂き、ありがとうゴザイマス。
それでは奴隷の斡旋はあちらの建物にナリマスので、もうしばらくこのままでお願いイタシマス」
さらに5分ほど馬車に揺られたあと、馬車から降りて、近くの建物に連れられていく。
『奴隷の斡旋』とは言うものの、その建物はそれなりに綺麗な見た目をしていた。
そして奥の部屋に通されると、そこには大人の男女と子供の男女が1人ずつ、合計4人が座っていた。
「アイナ様、こちらが今回ご紹介するエイムズ家の皆さまデス。
エイムズ家の皆さま、こちらがお話していたアイナ・バートランド・クリスティア様でゴザイマス」
ピエールさんからの紹介に続き、私も自己紹介をする。
「はじめまして、アイナと申します」
「本日はお目通りの機会を頂きまして、誠にありがとうございます!
私はハーマン、そして妻のダフニー、子供のダリルとララでございます」
ハーマンさんがそう言うと、他の三人もお辞儀をした。
うん、なかなか感じの良さそうな人たちじゃないかな?
「ハーマンさんは庭木職人をされておりマシテ、一通りの仕事は問題なく行うことがデキマス。
特に問題が無ければ、このまま契約へと進ませて頂きマスガ――」
「……コホッ」
話の途中、ダフニーさんが軽く咳をした。
「そういえば、ダフニーさんってご病気なんでしたっけ?」
「は、はい! ですが今は小康状態を保っておりまして……っ!!」
私の言葉に反応したのはハーマンさんだった。
……あれ、ずいぶんと焦ってる?
それに、他の三人も急に恐縮した感じになっちゃったけど……。
「アイナ様。問題があるようデシタラ、他の奴隷にいたしマスカナ?」
ピエールさんの言葉に、ダリル君とララちゃんがダフニーさんのスカートを心配そうに掴んだ。
……ああ、なるほど。病気を理由に、契約できないことを恐れたのか。
「あ、いえいえ。軽い気持ちで聞いただけですよ!」
そう言いながら、ダフニーさんを鑑定してみる。
──────────────────
【状態異常】
呼吸器障害(中)
血流不全(小)
──────────────────
ふむ、初めて見るものかな?
えーっと、『創造才覚<錬金術>』……っと。
……んー、これならいけそうだ。
せっかくのご縁だし、ちゃちゃっと治してあげよう。
れんきーんっ。
バチッ バチッ
「ほわっ!?
アイナ様、こちらの瓶は何でゴザイマスかな?」
突然私の手元に現れた2つの瓶を見て、ピエールさんが驚いた。
「私、アイテムボックス持ちなんですよ。
ちょうどダフニーさんに効きそうなお薬がありましたので、出してみました」
「ほぉ……。
さすが、有名な錬金術師サマでゴザイマス」
「というわけで、もしよろしければ飲んでみてください」
そう言いながら、ダフニーさんに瓶を2つ渡す。
ダフニーさんは、ハーマンさんと心配そうに目線を交わしていた。
「あの……、アイナ様……。
私共は、薬代をお支払いする余裕がありませんので……」
おずおずと言うハーマンさん。
そう言えば、薬代を払うために借金をしていたんだっけ。
「無料で良いですよ。これからお世話になりますので」
「な、なんと……? ありがとうございます。
それでは後ほど……」
「あ、結果が気になるのでここで飲んじゃってください」
「え、結果?」
……ん? 何かおかしいことを言ったかな?
「あなた……。
せっかくのお申し出ですので、ここで頂くことにしますね」
「そ、そうか……?」
心配そうなハーマンさんを横目に、ダフニーさんは2つの薬を両方飲み干した。
それじゃ、かんてーっ。
──────────────────
【状態異常】
なし
──────────────────
……うん、ばっちり!
「はい、治りましたのでもう大丈夫です。
それでは契約をお願いしますね」
「は……?」
「……おかーさん、治ったの?」
「……もうだいじょうぶなの?」
私の言葉に、不思議そうに声を出すエイムズ家の三人。
ダフニーさんは自身の胸を押さえながら、そして少し深呼吸をしてから――
「……うそ? 苦しいのが、取れました……」
ぼそっとつぶやいた。
「ふむ、エイムズ家の皆さま。こちらのアイナ様は、S-級の錬金術師なのでゴザイマス。
世界の最高峰の、貴重な薬を頂けマシタナ」
さり気なく、私のことをアピールしてくるピエールさん。
実際のところ、こういう展開も可能性としては読んでいたのでは……?
「おお……。実力のある錬金術師様とは伺っていましたが、まさかそこまでの方だったなんて……。
ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
「アイナ様……。この病気、一生治らないものと思っておりました……。
このご恩に報いるためにも、精一杯働かせて頂きます……!」
「はい、よろしくお願いしますね」
うん、やっぱり感謝されるというのは気持ちの良いものだね。
でも、それにしても――
「ところで、今まではどういう薬を買っていたのですか?」
「あ、はい……。
錬金術では効果のある薬を作れないと言われてしまったので、霊験あらたかな、祈祷を捧げた特殊な聖水を――」
……ああ、そういう感じか。
ジェラードの右腕のときも、効かない薬を延々と買わされていたからね。
弱みに付け込む人なんて、どこにでもいるものだなぁ。
「なるほど、今まで大変でしたね。
これからはもう大丈夫ですので、ご安心ください」
「はいっ! ありがとうございます!
これから、よろしくお願いいたします!!」
ハーマンさんの大きな声とお辞儀に、他の三人も再びお辞儀をした。
それを見て、満足そうに頷くピエールさん。
……いや、何であなたが満足そうなんですか。