ー火薬委員会ー
「久々知先輩。」
聞き覚えのある声の何トーンか下がった声が聞こえ振り向くと、未来の伊助、来依が立っていた。
「ご飯は終わったのか?」
火薬をおろしながらそう問うと、はいと元気の良い返事が帰ってきた。
「………。」
「………。」
何を言えばいいのかわからず、沈黙が続く。
「…あっちで話しませんか?」
少し困った顔をしながら縁側を指さした来依についていき、腰を下ろす。
「何か言いたいことがあるんでしょう?」
全てを見透かすような笑みを浮かべる来依は、本当に自分の知る伊助の未来の姿なのか疑いたくなるほどに遠く見えた。
「……泣いてもいいんだぞ。」
「……え?」
「いや、俺にはお前が、泣くのを我慢してるように見えたから。」
そう言うと来依は、目を伏せた。
「……何でわかっちゃうんですか。誰にも言われたことなかったのに。」
困ったように目を細めた来依は、懐かしそうに火薬庫を見た。
「僕だけなんですよ。先輩の遺体が見つからなかったのは。」
そう言った来依は虚ろな目をしており、当時を見ているようだった。
「あの日、僕達火薬委員会は火薬庫を守っていました。知っての通り、火薬庫は学園の奥の方にあるので敵はあまり来てませんでした。でも、最初は少なかった敵はどんどん増えていって、久々知先輩とタカ丸さんが何とか持ちこたえている状態になりました。三郎次先輩と僕は何もできなくて、ただ火薬庫の前でじっとしてるしかありませんでした。」
そこで黙り込んでしまった来依は、泣きそうな目で俺を見、すぐに火薬庫の視線を戻した。
「……一刻もしないうちに、先輩方は追い詰められて、僕たち火薬委員会は覚悟を決めなければいけない状況になってしまった。僕は怖くて、三郎次先輩にしがみついてました。なのに。……気づいたら僕は、あそこで尻餅をついてました。 」
来依が指さした先は、火薬庫の横の茂みがあった。
「最初は、何があったのか分からなかった。でも顔を上げたときに三郎次先輩の安心したような顔が見えて、僕は三郎次先輩に突き飛ばされたんだと理解しました。でも、なぜ突き飛ばされたのか分からなかった。……分かったのは、目の前が一面炎につつまれてしばらくしてからでした。あぁ、僕は先輩方に守られたんだって。」
「火が消えて、先輩方を探したけど、見つからなかった。僕は、遺体にすがって泣くこともできなかった。ただ、遺品を握りしめて泣くしかなかった。 」
「………。」
何も言えなかった。
死んでしまったのは分かっていた。でも、こんな酷い死に方ではないと思っていた。
「……僕は、あなた達を守りたい。二度と、あんな思いはしたくない。戻ってきてしまった以上、僕たちに助ける以外の選択肢はないんです。」
あぁ、俺達のせいなのか。
お前が泣けなくなったのも、
心から笑えなくなったのも、
全部。
俺は来依がいなくなっても、その場を動けなかった。
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